酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

無宿

無宿: 吉原裏同心(十八) (光文社時代小説文庫)

無宿: 吉原裏同心(十八) (光文社時代小説文庫)

質商小川屋の一家総勢七人が惨殺された。一方、「御免色里」の吉原では人気絶頂の花魁・薄墨太夫の周囲で異変が。次々起こる「怪異」「殺し」に、吉原裏同心・神守幹次郎は東奔西走し、その身にも危機が迫る。そして、下手人を探索中に浮かび上がった薄墨太夫、衝撃の過去―。か弱き女と人の命を蝕む「悪」に幹次郎の豪剣がついに火を噴く。超人気シリーズ、至福の十八弾。文庫書下ろし長編時代小説。

 吉原裏同心シリーズの第18巻目です。表だって大事件もなくすっかり落ち着いてしまったこのシリーズ、今回も幹どのに小さな二つの事件が降りかかります。そのうちの一つはもはや吉原すら関係がありません。しかし幹どのは町方のお役人にまで認められ、頼りにされ、いったいどこまで名声を馳せていくのでしょうか? 佐伯泰英さんらしいスーパーヒーローの活躍が今作もたっぷりと楽しめます。

 さてしかし、今作のポイントは吉原とその周辺で起きる凶悪事件の顛末と、幹どのの清々しいまでの大活躍ではないように思います。それよりも大きな問題はやはり薄墨大夫でしょう。今回は彼女の過去がより明らかになり、それに否応なく幹どのは巻き込まれていきます。事件を解決するヒーローとしてだけではなく、男と女の複雑な関係がよりクローズアップされます。

 そういう意味では、過去十数巻にわたって曖昧でジリジリと少しずつしか進んでこなかった、裏のストーリー、つまるところ薄墨大夫と幹どのと幹どのの姉さん恋女房汀女さまの三角関係が、より鮮明に表に出てきたようで、このシリーズを読み続けてきたファンとしては、ワクテカものなのです。と言うか、私だけでなくこのシリーズを読んでいる人は、それを期待して未だに読み続けている人がほとんどだと思います。

 いえ、その三角関係自体は結局今回も曖昧なままで終わってしまい、決定的な出来事はないのですが、でも、三人とも何か一つ壁を越えてしまった気がします。お互いが相手の気持ちと立場を知ったまま、どうにも身動きのとれない三すくみ状態。じれったいことこの上なく、煮え切らない幹どのに、図々しくも意地らしい薄墨に、そして知らんぷりを通す汀女さまにイライラしつつ、それを大いに楽しんでしまいます。

 今作を読了して、このシリーズの行方(=結末の付け方)は見えてきたような気がします。 まぁ、佐伯さんのことなので、過去にそう確信したことが当たった試しはありませんが。

 【お気に入り度:★★★☆☆】