酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2012年F1第18戦 アブダビGP

 春に行われたバーレーンGPに続き、カレンダー中で二つ目の中東のレース。まるで未来都市のようなヤス・マリーナベイ・サーキットの風景は完全に非日常の世界。さらに日没前後に行われるトワイライト・レースとしても有名で、鈴鹿のような夕日の中でスタートし、チェッカーが振られる頃にはすっかり日が沈み、シンガポールのような人工照明の中をF1マシンが駆け抜けていきます。
 これもまたヨーロッパに対する時差対策かと思われます。先月末でサマータイムが終了したためでしょうか、決勝レースは日本時間で言うといつもより1時間遅くに始まりました。
 さて、アロンソ対ベッテルのチャンピオン争いはどんな顛末を迎えるか?という一点に興味は絞られていたわけですが、その期待通り、二人の戦いは予想外の展開に熾烈を極めましたが、そこに思わぬ伏兵が現れ波乱の展開。レース内容としては今年の中では三本の指に入る面白さだったと思います。

8人目

 大接戦の混戦模様だった序盤はともかく、マシン開発の差が大きくなってきたこの終盤戦において、なんと今シーズン8人目の勝者が現れました。それは今年復帰した元チャンピオン、ロータスに乗るキミ・ライコネンでした。この時を待っていたファンは多いはずです。
 予選はごく普通に手堅くまとめ、スタートで飛び出して2位のポジションを奪い取り、単独2位走行に持ち込むあたりまでは、最近のレースと比べると調子が良いな、くらいの感覚でしたが、その空気はトップを独走するハミルトンがマシントラブルでリタイアしたことでがらりと変わります。ここへ来て急に復帰後初優勝の可能性がでてきたのですから。
 ハミルトンが消えたことはラッキーだったと言えますが、それ以外の点では2回のセーフティーカーでそれまでに築いたギャップを帳消しにされるなど、不利なことも多かったと言えます。決して棚ぼたで手に入れた勝利ではありません。最速ではないマシンから最大限に力を引き出し、タイヤを管理し、ペースを調整し、最後にアロンソを振り切る... まさに堂々たるラップリーダーとしての勝ちレースをしたと思います。だからこそチームからのタイヤに対する無線に対しても「うるせーな!そんなことは分かってる!」と痛快に言ってのけるわけです。
 チャンピオン争いからは事実上脱落していますが、復帰1年目にしてランキング3位を盤石なものにしました。しかもトップ3ではないマシンで。これは本当にすごいことだと思います。ブランクがあっても元トップドライバーはやはりトップドライバーになり得ることを証明して見せたのですから。

地獄と天国

 いえ、天国は言い過ぎかも知れませんが、予選終了後に地獄に突き落とされたベッテルにとっては、3位表彰台は予想もしていなかった好成績だったはずです。ピットレーンからスタートしたというハンデだけでなく、その後のフロントウィングにまつわる度重なるトラブルで、振り出しの最後尾に戻るなど、途中までは全く歯車がかみ合わない、散々で踏んだり蹴ったりなドタバタレースに見えました。これでノーポイントに終わったら、確実にランキングはアロンソに逆転され、逆に不利な立場に追い込まれてしまいます。
 2年連続のチャンピオンでありながら、ニューウェイのおかげとか、バトルに弱いなどと言われ続けた、ベッテルの面目躍如たる快進撃はそこから始まります。下位のマシンは難なく抜き去り順位を上げ続けると、最後は強敵のバトンを熾烈なバトルをして、なんとか3位表彰台をもぎ取ります。
 逆転されることを覚悟した中で、終わってみればギャップを3点失ったものの、依然として10ポイントのリードを守り切りました。もちろん、予選でのチームのミスがなければ... という思いはあるかも知れませんが、幸いアロンソは優勝することもなく、被害は最小限に抑えられたという点で、ベッテルにとっては内容も結果も満足のいくレースだったのではないかと思います。

憂鬱

 追うアロンソにとってもギャップを縮めたという点で、予想していたよりは良い結果が得られたと言えるのかも知れませんが、それでもモヤモヤ感が残っているのではないかと思います。ベッテルは最後尾に脱落し、手が付けられないくらい速かったハミルトンがいなくなるという、状況的に自分がすべて持って行けそうなお膳立てが揃ったのに、伏兵のキミ・ライコネンが立ちふさがり、25ポイントが取れなかった上に、消えたと思っていたベッテルはいつの間にか真後ろでチェッカーを受けてしまいました。
 25対0という最高の結果を少しでも期待した瞬間があったとすれば、たったの3ポイントしか詰められなかったこの結果には、ため息の一つも出ているかもしれません。

2流

 ドライバーの腕の差がこれほどに明確に現れたレースも珍しいと思います。表彰台をを争っていたチャンピオン同士のバトルは非常にクリーンで際どくて、美しいものでした。
 しかし、いわゆるナンバー2以下のドライバー達のバトルでは、対等な立場でポジションを争っているという感覚に欠け、あまりにも楽観的、あまりにも相手に対する意識というか想像力が欠如し、まるで相手をリタイアに追い込んでも良いと思ってるかのような、雑なバトルが頻発しました。
 中途半端にアウトから仕掛け、ラインを残さずにドアを閉めすぎるとか、無理をして止まりきれずにコースアウトしたあげくに、相手の前をふさぐような形で不用意にコースへ戻って来るとか。さらには、戻ってきたマシンに驚き、接触してないのにスピンしてしまうという事もありましたし、それ以上にお話にならないくらい無謀なドライビングで、最終的に多重クラッシュを引き起こしたシーンもありました。その結果被害を受けてリタイアしてしまったのが、同じく暴れん坊だったあたりは何とも苦笑するしかありません。

我慢

 さて小林可夢偉です。結果的には3戦ぶりにポイントを獲得しました。チームメイトが大暴れして引き起こした多重クラッシュのおかげでポジションが3つもあがり、6位に入ったのは運が半分だったと言えなくもありません。しかし、ギアに問題があってその影響がKARSにまで及んでおり、もともと絶好調でぴたりとセッティングが決まっていたわけでもない中で、常にポイント圏内を走りきった我慢強さというか、優れたレース感覚は小林らしいものだったと思います。
 現在のドライバー達の中では屈指のオーバーテイカーと言われるのは、彼は決して雑で危険で無理、無謀な仕掛けをしないということと表裏一体でもあります。そして少しでもポイントが欲しい状況で、不調なら不調なりに手堅くレースをまとめる能力は、絶対にもっと高く買われるべきだと信じています。

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 さてこれで残りはあと2戦。次は久しぶりのアメリカGP、2週間後にオースチンで行われます。