酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

SIGMA SD1

 いよいよ今週末にSIGMAからSD1が発売になります。昨年のフォトキナで試作機が発表されたこのカメラ、SIGMA独自のFoveon X3センサーの最新型を積んでいるということで、一部で非常に期待され注目されていました。そして、先月末ようやく6月10日発売とのアナウンスがされたわけですが、それがまた大きな話題となりました。


 なぜならば、店頭予想価格が事前予想をはるかに上回る高額だったから。20万以下じゃないか?いや30万はするかも?...などと噂されていた価格は、なんと70万円!と発表されました。即日予約受付を開始した大手量販店だと70万、ネット通販では63万円前後というプライスタグがついています。いずれにしてもAPS-Cサイズの一眼レフカメラとしては、デジタル黎明期を除けば、おそらく史上最高価格と言えるでしょう。

 遅ればせながら、このSD1についてちょっと思う所を書いてみました。

新Foveonセンサー

 このカメラの特徴は何といっても新型のFoveon X3センサーです。ベイヤー配列の一般的なCCD/CMOSセンサーと違って、各出力画素毎にRGB値を出力することが出来るので、画素データの補間を必要とせず、原理的に偽色や偽解像が出ないのが特徴です。
 従来のSDシリーズやDPシリーズで使われてきたFoveon X3センサーは、サイズが20.7×13.8mmとAPS-Cサイズよりやや小さく(フルサイズの1/1.7倍)、画素数はRGB合計で約14Mピクセル、出力データサイズとしては5Mピクセル弱でした。

 Foveonは画素数で語るセンサーではないとはいえ、進化著しいベイヤー配列のCMOSセンサーに対して、画質的優位や差別要因を保ち続けるためには、Foveonも進歩していくしかありません。そこで久々に全面モデルチェンジしSD1に搭載されることになった新Foveon X3センサーは、サイズが23.5×15.7mmと一般的なAPS-Cと同等(フルサイズに対して1/1.5倍)になり、画素数はRGB合計で48Mピクセル。出力解像度で15Mピクセルとなりました。

 この圧倒的なスペックを持つFoveon X3センサーが吐き出す絵はどんなものなのか? 期待するな、あるいは興味を持つなという方が無理というものです。

70万円の理由

 SD1はボディまわりもこの新センサーに合わせて、従来のSDシリーズよりも一段と力を入れて造られており、ファインダーやシャッター、連写速度などなど、カメラとしての基本的骨格は、ハイアマチュア向けの中上級機クラスとして他社製品と比べても十分な内容となっています。

 しかし、SD1の最大にして唯一の特徴はやはり新Foveonセンサー以外にありません。そして一方で、70万円という破格の値段になった理由もまた、この新Foveon X3センサー自身にあると思われます。Foveon社はSIGMAに買収されたこともあり、このセンサーは現在はSIGMAブランドのカメラのためだけに製造されています。新センサーも当面はSD1だけに使用されるようです。

 チップサイズをできるだけ小さくし、大量生産することによってコストを均衡させることが大前提な半導体製品において、特殊な構造、巨大なダイサイズ、そして少量生産という三重苦。このFoveon X3センサーの開発と製造には、桁違いに多額の費用がかかっているることは想像に難くありません。

 そういった背景を想像するに、工業製品として70万円という値付け相応のコストがかかっていることは事実と思われます。それも、撮像センサーというデジタルカメラの心臓部であり、他社では作り得ないユニークな技術を投入するために使われたコストとすれば、カメラの価格として「理にかなっている」とさえ言えると思います。

 そんな、SIGMAが考える理想を具現化した、他にはない唯一無二の特徴を持つSD1というカメラ。このセンサーから得られる映像に70万円がだせるか? それによってこの製品の価値は決まります。

SD1の価値

 以下、非常に個人的な考えです。
 SD1は素晴らしい特徴を持つ革新的なカメラでありながらも、残念ながらコンシューマ製品としてはおよそ成立していないのではないかと思います。その理由は一にも二にもやっぱり価格。SD1は良い意味でも悪い意味でも「プロダクト・アウト」な製品です。今までにない製品を造ったのだから、コストも今までにないものになった... という理屈は分かります。であるならば、SIGMAはそのビジョンをもっともっと示さないといけません。このカメラがもたらすデジタルカメラの未来はどうなるのか?
 誤解を恐れずに言えば、それこそが「ブランド」なのだと思います。それは過去の実績の積み重ねであり、その結果得られた信頼であり、魅力的な将来への期待に根付くものです。

 SD1の価格は、これまでSIGMAがSDシリーズやDPシリーズを世に送り出すことで市場に示してきたロードマップから逸脱しています。センサーサイズが30%増え、画素数が3倍になったことで、価格は6倍になってしまったという現実は、この後に続く製品展開への不安を呼び起こし、結果としてこれまで培ってきた実績や信頼を揺るがしかねません。ですので、今時点では残念ながら70万円+SAマウントのレンズ代を投資するに値するだけの合理的(あるいは感情的)な理由を見つけることができません。

 と言うことで、次の製品展開に期待したいところです。この新しいFoveon X3センサーは、必ずや改良され、コストダウンされ、また違ったカメラになって世に出てくることと思います。その結果、SD1はむしろ新しい「SIGMAブランド」を作ったということになるのかも。

余談

 そこで思い出したのはPENTAXのK-1です。APS-Cサイズで260万画素のニコンD1が65万円で出たばかりという時代に、600万画素のフルサイズ機として開発されていた幻のデジタル一眼レフです。試作機が作られ、いくつかのショーに参考出品されたものの、結局発売されませんでした。その理由は「非常に高価になりすぎるため」でした。非常に高価とは、いったいいくらくらいだったのかは分かりません。100万?200万?いや、それ以上かも。
 K-1はSD1以上に革新的な製品ではありましたが、価格を理由に発売しなかったことは、結局PENTAXのデジタルカメラのその後にとって良かったのか悪かったのかは分かりません。少なくともK-1が発売されていたなら、吉と出ても凶と出ても、K-5やK-rはもちろん、645Dも世に出てくることはなかったでしょう。