酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

夜がはじまるとき

夜がはじまるとき (文春文庫)

夜がはじまるとき (文春文庫)


 昨年10月に発売された「夕暮れをすぎて」の続編です。どちらも原作は"Just After Sunset"というタイトルの一冊の短編集で、キングが小説を書き始めた頃の初心を思い出すために書いた最新の短編が収録されたものです。今回読んだ「夜がはじまるとき」には、後半の六編が収められています。タイトルもなかなか気が利いています。
 全体的な雰囲気は「夕暮れを過ぎて」とそう変わっていないと思うのですが、何故か私はこの「夜がはじまるとき」のほうがずっと気に入りました。それが何故なのかはうまく言えませんが、今作に収められた六編には、どの話にも以前の作品との関連性を感じるような気がします。
 それは「ダークタワー」だったり「グリーンマイル」だったり「ウィラ」だったり、あるいは「ジェラルドのゲーム」だったり。そうやって、キングファンの密かな自己満足が満たされるのは確かですが、恐らくこの本の面白さとそれは関係ありません。キングなど読んだことがない人にも、薦められる一冊だと思います。
 さて、今回特に私が気に入ったのは、第三話の「ニューヨーク・タイムズを特別割引価格で」と、第五話の「アヤーナ」、そして第六話の「どんづまりの窮地」です。前の二つは、物語の中で起きる不思議な現象には何の落ちも説明もないまま終わってしまいますが、そんなことはどうでもいい素晴らしい感動の物語。
 そしてあとの一つは... これまでのキング作品の中でも飛び抜けておぞましくて醜悪な物語です。同じような感想を別の本に対して以前書いた記憶がありますが、それらを遙かに超えます。あまりの強烈さに読み進めるのに苦労しました。とにかく不快なのです。でも目が離せない、止められない...。これぞキングマジックと言えるのでしょう。
 今回は作品中からではなく、解説の中から一文を引用しておきたいと思います。キング作品の"基本"をずばり表現しています。(意味を汲み取れるように編集してあります)

幻想という名のバーベルを持ち上げるだけの想像力を備えた熱心な幻想文学の読者であっても、懐疑の全てを棄て去るのは容易なことではない。それは現実への、あるいは正気への最後の命綱とも言えるのだが、(キングは)それを容赦なく断ち切り(読者を)奈落へと突き落とす・・・

 そうです、キング作品にのめり込むのは危険です。これらの物語にのめり込み、登場人物たちと同じ恐怖を共有するようになったら、それは正気が失われた証拠かも知れません。第一話に登場する"N"や"B"のように・・・。
 【お気に入り度:★★★★★】