酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2009年F1第16戦 ブラジルGP

 2週間前、鈴鹿サーキットで私達の目も前を走っていたF1マシンやドライバー達は、いつの間にかはるか地球の裏側のブラジルまで飛んでいました。サンパウロ郊外のインテルラゴス・サーキットで行われるブラジルGPは例年、シーズン最終戦として行われていました。特に昨年と一昨年は、わずか1ポイントのチャンピオン争いが繰り広げられた決戦の地。今年は最終戦の一つ前のレースとなりましたが、今回も3人がチャンピオンをかけて争う決戦の場となりました。

 しかも土曜日の予選は大雨。荒れた天気は荒れたレースを生み出します。しかしさっそく雨に足をすくわれたのは、首の皮一枚でチャンピオン争いに残っていたベッテルでした。そしてチャンピオン最有力候補のバトンもパッとせず。そんな中、地元バリチェロが意地でポールを奪い取ります。順当にレースが進めば、チャンピオンはブラジルでは決まらないのかも?という予感が頭をよぎります。しかし予想通りにならないのがレースの面白さです。

 今回のレースには色々言いたいことが多すぎて、まとめ切れませんでした。以前のようにかなり長文になっています。

「ジェットコースターのようなシーズンだった」 ジェンソンバトン/ブラウンGP
 予選の混乱に翻弄されて14番手という下位グリッドからスタートすることとなったバトン。ポイントリーダーであり、チャンピオン獲得に大手をかけているにも関わらず、ここ最近のレースのグズグズさから、この予選の不調にも「やっぱりね...」という醒めた見方をしてしまいます。本当に彼はチャンピオンの器なのか?と疑問すら浮かんできます。

 が、スタート後の彼のレース振りは凄まじいものでした。まさにオーバーテイクショー。実力の違いなのか、気力が成せる業なのか。トリッキーな動きを繰り返す小林にイライラしながらも、前を行く車を次々に仕留めていく姿は鬼気迫るものがありました。守りのレースではなく攻めのレース。ただし必要以上のリスクは犯さない素晴らしい内容。結果、実力でチャンピオンを奪い取ります。願わくはこれがせめて表彰台争いあたりで展開すれば良かったのに。

 バトンは本当にチャンピオンに相応しいのか?という問いの結論を出すには、バリチェロがレース後にコメントしたとおり「チャンピオンシップは前半戦で決まっていた」という事実をもう一度思い出すべきでしょう。シーズン前半のバトンの圧倒的な強さを。それは間違いなくチャンピオンの走りでした。

「今日の結果には当然がっかりしている」 ルーベンス・バリチェロ/ブラウンGP
 バリチェロはポールからスタートしたものの、レース内容はイマイチ。ピット戦略とスピードのバランスに欠け、ピットインごとにポジションを落としてしまいました。最後は泣きっ面に蜂のパンク。チャンピオン争いの決戦であると同時に、彼にとっては17回目の母国GP。チャンピオンシップのよりも、キャリア最後になるかもしれないこの母国レースでは、どうしても勝ちたかったのではないかと思います。そう考えると、ちょっとかわいそうな気がしてきます。

 今回は典型的負けレースで、良いところがひとつもなかったにも関わらず、シーズン中盤のようなイライラしたコメントを残すことなく、「がっかりした」というコメントは正直な気持ちと思いますが、同時にバトンとチームへの祝福の言葉も本心なんだろうなと思います。

「ある時点で雨が降るよう祈ったけど降らなかった」 セバスチャン・ベッテル/レッドブル
 日本GPの勝者ベッテルにとって、逆転チャンピオン獲得のために、このレースで狙う目標は「優勝」だけ。しかし荒れた天候に翻弄され予選を失敗し、16番グリッドに沈みます。この時点でほぼ万事休す。期待をかけるは決勝でも雨が降り、大混乱のレースをうまく切り抜けること、でした。が、天は"今回はまだ"彼に味方をしませんでした。

 でも、彼にはまだまだ未来があります。15年くらい前のバリチェロのように。恐らくそう遠くない将来にチャンピオンに手が届くことは、もはや「夢」ではなく「目標」になっているはずです。

「僕らはチームとして、よくやったと誇りに思っている」 マーク・ウェバー/レッドブル
 今回のレースの勝者でありながらどことなく影の薄い存在。レースはライバル達のペースや作戦を冷静に分析し、ペースをコントロールすることで、確実に優勝をもぎ取りました。シーズン通してこれで2勝目。チャンピオンシップでは4位が確定しましたが、彼のキャリアの中では間違いなく最高のシーズンでした。

 レッドブルは今シーズン、ブラウンGPと互角に渡り合えた唯一のチームでした。いずれのタイトルも獲れなかったけれども、昨年に比べ大躍進を果たした今シーズンの成績は、胸を張って誇れるものでしょう。ウェバーは特に、レッドブルの前身となるジャガー時代からこのチームを良く知っているドライバーです。言葉以上に感慨深いものがあるのではないかと思います。

「今でもまだ目が焼けるように痛い」 キミ・ライコネン/フェラーリ
 ピットロードでライコネンのマシンが火に包まれた瞬間は、今シーズンのF1で最もショッキングなシーンだったと言えるでしょう。原因はコバライネンの給油ミス。ガソリンを正面から浴びたライコネンのマシンは、排気管の熱により発火してしまいます。車載映像を見ていると、ガソリンを浴び、火が付いた瞬間は、さすがのアイスマンも一瞬パニックになったのか、ステアリングから手を離してしまっています。幸いにも量が少なく一瞬で自然消火し、その後、両者とも何事もなくレースが続けられたのが不幸中の幸いです。

 そのライコネン、オープニングラップのドタバタがあって、実質最下位からレースを開始しつつも、終わってみればちゃっかり6位に入っています。この勝負強さはさすが元ワールド・チャンピオン。今年で去ることとなったフェラーリで吹っ切れて、思う存分暴れまくってるようです。

 来シーズンは給油が禁止されるので、こういう炎上事故は起きにくくなるはず。でも、今年もピットアウト時の危険なマシンの交錯が何度もありました。ピットレーンの事故はピットクルーの命にも関わるだけに、もっと各チーム、各ドライバー、慎重になるべきだと思います。

「あれは本当に馬鹿げた行為だ」 エイドリアン・スーティル/フォースインディア
 オープニングラップでは複数の接触事故が起きましたが、セーフティカー導入にまで至ったのが、スーティルとトゥルーリの5コーナー出口での接触事故です(これにはアロンソも巻き込まれました)。トゥルーリはこの件に猛烈に怒り、事故後マシンを降りると、そのままコースを横断してスーティルの所に走り、激しく詰め寄って抗議していた姿が国際映像に流れてしまいました。

 トゥルーリの言い分は「スーティルにコース外に押し出された」というものですが、スーティルは完全否定しています。スーティルの前にはフロントウィングを失いペースが乱れたライコネンがいました。それが彼のペースとライン取りにも影響していました。その隙をトゥルーリが狙ったかたちになります。

 どう見ても、これはレーシング・アクシデントです。あの高速コーナーでアウトから被せることは、かなりイレギュラーな行動だし、明確に前にいてラインの優先権を持っているのはスーティルです。実際スーティルはトゥルーリのマシンが右横に見えた瞬間に、急激に左によけるような動きをしています。時すでに遅しでしたが。

 わずかなチャンスに勝負をかけたトゥルーリの行動はレースドライバーとして正しいのでしょう。が、その結果失敗したとすれば、それはレーシングアクシデントとして受け入れるしかありません。レースドライバーなら当然向き合わなければならないリスクです。ということで、私としては全面的にスーティルの言い分が正しいと思います。

 ちなみに、今回のレースでは危険な幅寄せ行為が多く見られました。オープニングラップでライコネンをコース外に押し出したウェバー、ベッテルを押し出した中島一貴、中島一貴を押し出した小林可夢偉。ライコネンはフロントウィングを壊し、中島一貴はクラッシュしてしまいました。ブロックラインを取るのはあたりまえとしても、相手をコース外に押し出してクラッシュさせてまでポジションを守ろうとするのは見苦しいというより他にありません。

「来年もグリッドでこのチームと会いたいと心から思う」ロバート・クピサ/ザウバーBMW
 昨年から一転して不調のどん底のシーズンとなったBMWは、後半になって復調の兆しが見えてきました。が、時既に遅し。BMWは成績を残せないF1チームに大金を出し続ける余力はないことに気がついたようです。チームは買収されましたが、来シーズングリッドにつけるかどうかは不透明です。でも... 今年のブラウンGPの例もありますからね。何が起こるかわかりません。

「今日はすごくいいレースをした」 ヘイキ・コバライネン/マクラーレン
 そう思ってるのは本人だけかと。

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 ということで、今シーズンのチャンピオンシップが決着しました。ドライバーはジェンソン・バトン、コンストラクターはブラウンGPです。昨年のチャンピオンになったハミルトンはわずか98ポイントしか取っていない、と言われましたが、今年も同じか、さらに少ないくらいに落ち着きそうです。それだけ今シーズンも接戦だったと言う証です。これは必ずしも悪いことではありません。

 さて、今年のF1はあと1戦残っています。次回はF1初開催となる中東のアブダビGP。誰も知らないサーキットで行われる手探りのレースですが、幸か不幸かチャンピオンシップ的には消化レースとなりそうです。もちろん、ドライバーおよびコンストラクターランキングの順位が確定していない争いは随所にありますが。どんな最終戦になるのか、今年最後のレースをじっくりと味わいたいと思います。