酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2009年F1第10戦 ハンガリーGP

 ブダペスト郊外のハンガロリンク・サーキットで行われるハンガリーGPも今年で24回目。東西冷戦時から唯一の東欧圏のF1レースという特徴もさることながら、そのクネクネと曲がった狭いコースでは数々の伝説のレースが見られました。1996年のアロウズ・ヤマハに乗るデイモン・ヒルの独走、2006年、第三期ホンダの初優勝などなど。今年のレースも事前に全く予想できなかったような結果となりました。

「KERSの威力はなかなかのものだよ」 ルイス・ハミルトン/マクラーレン
 復活の手応えはあるとはいえ、レースが始まるまでは本人もチームもまさか優勝できるとは思っていなかったことでしょう。予選4番手と不利な偶数側のグリッドからのスタートでありながら、KERSパワーを使って順位を一つあげただけではなく、早々にこの抜きにくいコースでウェバーをパスして2番手へ。相変わらずアグレッシブなハミルトンの動きでしたが、接触も自滅もなく今回は上手く行ったようです。その後も周回ペースは十分速く、もしトップを行くアロンソにアクシデントが無くても、彼がトップでチェッカーを受けた可能性が高いと思えます。昨年までの強いマクラーレンが帰ってきたかのような隙のない力強いレースでした。

 KERSはこの低速コースでの効きはあまり良くないと言われていましたが、むしろ使い所(=メインストレート)が絞られただけに、ハミルトンはその効果を迷い無くフルに使い切ったのではないかと思います。ちなみに今回のハミルトンにより初のKERS搭載車の優勝となりました。でも、もしかしてこれが最初で最後、となってしまうのか?
「どうなっていたのか教えてくれると助かるんだけどな」 キミ・ライコネン/フェラーリ
 ハミルトンに続き2位でチェッカーを受けたのはフェラーリのキミ・ライコネンでした。まるで昨年のレースを見ているような結果。レース後のインタビューでハミルトンが大喜びし、ライコネンが白け気味なのも去年通りです。今シーズンのフェラーリにしてみれば、2位チェッカーは望外の成績に違いありません。それもレッドブルとブラウンGPを押さえての2位です。そうは言ってもやはり優勝と2位では雲泥の差。これではまだまだ満足できない、というのはチャンピオン経験者の本音なのでしょう。

 ライコネンの今回のレースのポイントは、スタートに尽きます。KERSパワーを使って1コーナーを抜けるまでに7番手から大きくポジションアップ。その間、2台のレッドブルとホイールをぶつけ合いながらかなりアグレッシブなライン取り。レース後のインタビューでは、この間の経緯を覚えていない、とコメントしました。本当なのか、トボけたのか分かりませんが。

 何となくモチベーションが下がり気味と思われがちな最近のライコネンですが、やはりレースでは本性をむき出しにする瞬間があります。ただ、やっぱりレース後半でダレてくる感じも。絶好調の頃は最後まで鋭い走りが見られたのですが。そう考えるとまだまだ彼自身本調子ではないようです。

「あれは非常に不運でとても異常な事態だ」マークウェバー/レッドブル
 彼のこの言葉が指しているのは、もちろん予選中のフェリペ・マッサの事故のことです。バリチェロのマシンから脱落したスプリングがコース上を跳ねて、後ろを走っていたマッサのヘルメットを直撃してしまいました。スプリングの重量は約800g、その時マッサのマシンは200km/h以上出ていたと言われています。カーボン製のいかに頑強なF1のヘルメットとはいえ、そのような事態を完全に想定してはいません。当たり所がバイザー近くだったことも、もしかしたら不運だったのかも。

 落下物の直撃を頭に受けたマッサは、気を失いマシンはそのままタイヤバリアへ。ただし、幸運にもタイヤバリヤへの衝突速度は100km/h程度まで落ちていたようで、その衝撃は現代F1なら十分に吸収できる範囲であり、クラッシュ自体によるダメージは大きくなかったと思われます。

 飛来物衝突は、オープンコクピットのフォーミュラマシンでは想定されるリスクなのですが、これを防ぐには基本的にはクローズド化するしかありません。しかしその場合救出の妨げになると言う別の問題も出てきます。F1マシンは過去多くのドライバー、マーシャルの人々の犠牲の上に、現在の強固な安全性を得てきました。一昨年のカナダGPでのクピサのクラッシュなどは、10年前だったら恐らく命が危なかったことでしょう。今回も何か対策が施されるのかもしれません。安全性は何よりも優先します。レースの現場でさえも。

 マッサは頭蓋骨骨折でいまだ集中治療が必要な状況ですが、幸い麻酔がとければ手足も動き言葉も喋れるそうです。でもでも、思っていたよりもかなり重傷な感じ。なんだかとても心配です...。

「こういったことはレースなら起こり得ることさ」フェルナンド・アロンソ/ルノー
 その点、今回久々にポールスタートを決めたルノーのフェルナンド・アロンソのマシンに起きたトラブル... というかチームのタイヤ交換ミスは、レースの安全上非常に重大なミスでした。過去マシンから外れたタイヤに当たって命を落としたレース関係者は何人もいます。そのために導入されたホイールテザーも今回のようにホイールがハブから外れてしまっては機能しません。コースを飛び跳ねていくタイヤの映像を見てゾッとした人は少なくないはず。

 次回のレースはバレンシア市街地でのヨーロッパGP。事実上の2回目のスペインGPです。そこにスペインの英雄、元チャンピオンのフェルナンド・アロンソがペナルティにより出走できないなんて、それこそ大変な事態です。興業としてのF1そのものに傷がつきかねません。安全問題は重要ですが、起きてしまったことに対するペナルティについては、もう少し柔軟に運用しても良いのではないかと思います。いや、そうして欲しい!
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 次のレースは3週間後。アロンソの去就について色々生臭い噂も飛び交ってます。ちょうどフェラーリにシートが空いてるとか...。まさかシーズン途中にそんなことは起きないと思いますが。だって、スポンサーとか何とか、そう簡単にはいかないでしょう。でもでも... F1ならやりかねないかも。いや、やりかねない気がしてきました。