よっ、十一代目!

投稿者: | 2013年6月6日

江戸の暑い夏の日、金座裏では、十代目の政次の妻・しほの産月が近づいていた。そんななか、本町の薬種問屋「いわし屋」では、高値の薬種ばかりが無くなる事件が起きていた。問屋の身内の仕業なのか、巧妙に盗まれているだという。内密に探索を依頼された政次らは、手下の弥一らを奉公人として送りこみ、内情を探ることになるが・・・・・・。彦四郎の祝言、亮吉の恋路に新たな展開が待ち受ける、大ベストセラーシリーズ、待望の第二十二弾。

 鎌倉河岸捕物控シリーズの第二十二巻です。過去作もそうなのですが、今回もかなり露骨なネタバレの表題が付いています。とはいえ、そもそも金座裏十代目に子供が生まれることは既に既定路線だったわけで、それ自体が目新しいエピソードではないのですが、こうストレートに言われると「あ、生まれたのは男の子だったのね」と、そこらの野次馬おじさんのような素直な感想を抱いてしまいます。

 ということで、タイトルの通りようやく政次としほ夫婦に初めての子供、それも男の子が生まれますが、それは今作のストーリーとは全く関係なくて、ほとんどおまけのようにして後付けされているだけ。おめでたいことと言えば、今回は同時にむじな長屋三人組のもう一人、船頭の彦四郎の祝言もあったりして、終始おめでたいエピソードが続きます。

 そしてそんなこととは全く無関係に発生する三つの事件。とある薬種問屋に起こるミステリーとスキャンダルの探索を依頼され、さらには駕籠屋の兄弟が危難に見舞われたりします。それら事件を金座裏というか、すっかり若親分が板に付いてきた政次が解決に導く顛末が今作の主要なストーリー… だと思われます。いや、もしかしたら捕物の方はおまけで、おめでたいお話の方が主なのかも。実際、読後に良く覚えてるのはおめでたい二つのお話の方なのです。

 そんな風に印象が薄いながらも、読んでる間は十分に謎解きを楽しむことができます。印象に残らないのはそれはそれで読み切りの娯楽小説としては、良くできていると言うことのような気がします。それよりも、佐伯泰英作品は往々にしてそうですが、これは何十巻も続く大河ドラマなのだと思います。そして、結末があるとは限りません。この鎌倉河岸シリーズももはやこの先どうなるのか、全く落としどころがわからなくなってきました。

 とりあえずは、むじな長屋三人組のもう一人がどう落ち着くか、っていうところかと思います。そして政次は今回も優等生すぎて実に嫌なやつでしたが、それがどこまで磨きがかかることでしょう? でも何となく、そろそろ(私自身が決着を付ける)潮時かな?という気がしていました。

 【お気に入り度:★★☆☆☆】