昨年から復活したオーストリアGPは、A1リンク改めレッドブル・リンクと名付けられた、オーストリア中部の山地にあるコースで行われます。オーストリアとF1の関わりは意外に深く、ニキ・ラウダやゲルハルト・ベルガーなどのトップドライバーを輩出していますし、そして今はなんと言ってもレッドブルのお膝元でもあります。オーストリアGPの復活に、レッドブルが関わっていないはずがありません。
しかし皮肉なことに、復活したその年からレッドブルの深刻な低迷は始まりました。今年は昨年に輪をかけて低調で、Q3に残れたら上出来、レースでは周回遅れの常連となりつつあります。それもこれも出来の悪いルノーパワーユニットのせいであり、残念ながら今シーズン復活の見込みはほとんどないようにも思えます。
フランスGPがカレンダーから消えて久しく、今年はドイツGPが消えました。フェラーリのお膝元、イタリアGPでさえ将来の開催が危ぶまれています。レッドブルがF1に興味を失うようなことがあれば、このオーストリアGPもまた消えてなくなるかもしれません。F1は依然としてヨーロッパのものでありながら、その地元レースは消えていくという矛盾に見舞われています。
そんな暗い話はさておき、今レースもファン目線からすれば見所は盛りだくさんでした。注目ポイントは、やはりメルセデスの二人の対決と、フェラーリの追い上げ、そしてホンダの進歩。どうなったのでしょうか?
「何でいつもこういうレースをしないの?」 ゲルハルト・ベルガー
これは表彰台インタビュアーに抜擢されたベルガーが、ロズベルグに向けた最初のコメントです。世界中の多くの人が同じことを思っていたところでした。予選ではせっかくハミルトンがミスをしたのに、自らも吊られてミスを犯してしまい、取れるはずだったポールポジションを取り逃してしまいました。このコースでは偶数側グリッドはスタートで不利と言うこともあり、決勝スタート前にすでに勝負は決したかのように思われていました。
しかし土曜日の雨によって、奇数グリッドのアドバンテージも洗い流されてしまったことと、ハミルトンがわずかにスタートでミス(あるいは設定のミス)したことに対し、ロズベルグは完璧なスタートを決めて1コーナーを取ります。その後はタイヤをしっかりと管理し、わずか1回のピットストップを完璧に決め、ラップペースを終始保ったロズベルグは、ハミルトンを従えて堂々のトップチェッカーを受けます。
これまでだと、決してスタートが得意ではなかったし、先頭でレースを始めたとしてもペースを保てなくてハミルトンの猛追にあえなくオーバーテイクを喫する、というパターンが何度かありました。しかし、予選とは違ってハミルトンが少しずつ犯すミスに吊られることなく、そのアドバンテージを着実に積み上げることが出来ました。
いつもこういうレースが出来れば、チャンピオン争いはもっと面白くなるのに、と(ハミルトンファン以外は)誰もが思ったはずです。それを表彰台インタビューで全世界に向けて口にしてしまうベルガーが最高でした。
「チームは僕をものすごく励ましてくれた」 フェリペ・マッサ
メルセデス2台による異次元の争いの後ろで、一人単独3位走行で孤独なレースをしていたはずのベッテルは、まさかのピットでのミスにより、マッサにそのポジションを明け渡してしまいました。
浮き沈みはあるものの、依然としてそれなりの競争力を見せるウィリアムズに乗っていながら、ここまでなかなか思うような結果が出せていなかったマッサにとっては、棚ぼたの今シーズン初表彰台となりました。
ピットインで失った表彰台を奪い返すべく、レース終盤に猛追してくるベッテルに脅かされたマッサでしたが、メルセデスPUによるストレートスピードの速さもり、落ち着いて対処することでポジションを守り切ります。その裏ではチームが無線を通じて励ましていたというのだから、その様子は想像に難くありません。マッサは褒めて伸びるタイプですから。
その一方で、ひどいことを無線で言われたこともあり、すると途端に取り乱してしまう、ガラスのハートの持ち主です。その辺をよく分かっている長年の相棒、ロブ・スメドレーがフェラーリ時代のように、マッサに声援を送り続けたのでしょう。その無線を是非国際映像に乗せて欲しかったところです。
「何が起きたのか正確にはわからない」 キミ・ライコネン
スタート直後、2コーナーを立ち上がったあとの裏ストレートで起きた事故の映像にはヒヤッとさせられました。ライコネンのフェラーリの上にアロンソのマクラーレンが乗り上げ、そのまま壁をこすりながら猛スピードで滑っていく2台のマシン。何かがちょっと違っていたら、二人のドライバーはもっと大きなけがをしていたかもしれません。
この事故の原因は不明のままです。テレビを見ているときには、アロンソがライコネンに接触したのかと思っていましたが、どうやらそうではないようです。かといって、コーナーを抜けた後の加速中に突然挙動を乱したわけで、ライコネンのドライブミスというわけでもなさそう。タイヤかマシンのトラブルも今のところ否定されています。
ライコネンはカナダでも、アクセルオン時の挙動について文句を言っていました。唐突にスロットルが開いてホイールスピンを起こし、リアのグリップを失う…と。今回もそれを素人ながらに思い出してしまいました。
それにしても、ライコネンにとっては散々なレースでした。それでなくても今シーズンは今ひとつ上手くいっていません。小さなミスに積み重ねで多くのポイントを失っているようで、現在のベッテルとの差はドライバーとしての腕の差ではなく、なにか歯車のかみ合いの問題のように思えます。
また”Leave me alone! I know what I’m doing!”と無線で叫ぶライコネンを見たいものです。
ホンダのトンネルは未だ続く
ホンダの2台は今回もひどいレースでした。予選ではアロンソがQ2進出を果たしましたが、Q3にはとうてい届きそうもない成績です。そしてレースもアロンソは事故に巻き込まれ、残るバトンも早々にリタイアしてしまい、今回はデータ収集のテストにもなりませんでした。現地でその様子を見ていた次期社長が短気を起こさなければ良いのですが。
さて次は2週間後、伝統のシルバーストーンで行われるイギリスGPです。