F1ハイシーズンのこの時期、例年なら1週間前にドイツGPが行われていたはずなのですが、チケット販売の政治的駆け引きが決裂し、ドイツGPはキャンセルされてしまいました。そのせいで前戦のイギリスGPから3週間も間が開いてしまった先週末に、ようやくハンガリーGPが行われました。
オールドコースにして常設トラックでは随一の低速サーキットです。コース幅が狭く、オーバーテイクが非常に難しいとされていましたが、DRS等が導入された現代F1なら、メインストレートエンドとそれに続く複合コーナーは、クロスラインになりやすく、それなりに激しいバトルが展開されます。
今年のレースでは、スタート直後の1コーナーから3コーナーにかけて、いきなり今レースを決定づけたクライマックスがやってきました。しかしレースの見所はそれだけでは終わらず、チェッカーまで上位から下位に至るまで激しい大混戦が展開されます。
「僕らのペースは運とは無関係であることを証明した」 セバスチャン・ベッテル
そのスタート直後のクライマックスの主人公となったのはベッテルです。3番グリッドからスタートし、すぐにハミルトンのアウトサイドに並んですれすれのブレーキ競争に勝ち、クロスラインを防ぎつつ、1コーナーを上手く抜け出すと、見事トップに立っていました。
同様に5番グリッドから飛び出したライコネンも、ベッテル以上の素晴らしいライン取りで、3コーナーまでに2位を奪います。しかもその後2台のフェラーリは、3番手につけたロズベルグ以降に対し、じわじわとギャップを開けて独走態勢を築いていくという、予想もしていなかった展開となりました。
これはまさに「スタートで運が良かっただけ」ではなく、フェラーリのレースペースがメルセデスと同等か、少し上回っていたことを示しています。終盤のセーフティカーにより、ベッテルはそれまでのギャップをすべて失ってしまいましたが、再スタート後も逆転を許すことはありませんでした。
残念ながらライコネンはMGU-Kのトラブルでリタイアとなってしまいましたが、もう少しでフェラーリのワンツーとなりそうな情勢でした。もしそうなっていたらいったい何年ぶりの光景だったでしょうか。
終わってみれば、今回のレースで終始落ち着いて盤石な走行を重ねられたのはベッテルだけだったと言えます。マレーシアGP以来の今季2勝目。後半戦にも期待が持てます。
「ひどい気分だ」ニコ・ロズベルグ
本当にひどいレースでした。ロズベルグだけでなくハミルトンにとっても。
フェラーリ2台にスタートで出し抜かれたとしても、メルセデスの二人が気にするのはチャンピオンシップであり、ロズベルグにとってのレース相手はハミルトンしかいないかのようです。そしてハミルトンにとっても同じようにロズベルグのことしか見ていません。だからこそ二人とも眼中になかったレッドブルのアタックに混乱してしまったのでしょう。
テレビ放送の解説では、ロズベルグの2回目のタイヤ選択が、対ハミルトンを意識しすぎであまりにもコンサバすぎる、と批判していましたが、レース後のコメントでロズベルグは「オプションよりプライムの方が感覚が良かった」と言っています。実際、レース序盤にはオプションタイヤでフェラーリに付いていけなかった訳で、それを気にしていたのでしょう。
ドライブしずらかったとしても実際タイムが出るのであれば、オプションを履いておくべきだったのでしょう。せっかくセーフティカーがギャップを帳消しにしてくれたのに、同じタイヤではフェラーリを抜くことは出来ず、果てはオプションタイヤを履いたレッドブルにアタックを許した末のパンク…。やることなすことすべてが裏目に出てしまいました。
ハミルトンがスタート直後に自滅し、レース終盤にもやはりドタバタ劇を演じて最下位に落ちていく中で、ポイント差を大幅に縮められる千載一遇のチャンスは台無しになったどころか、結局ポイント差を広げられる結果になってしまいました。
最強のメルセデスチームにとっては悪夢のようなレースでしたが、この一戦は今シーズンのチャンピオンシップの分かれ目となったのかもしれません。
「僕らの成績が良くなると期待できるサーキットがいくつかある」 フェルナンド・アロンソ
期待が持てるサーキットの一つがまさにここ、ハンガロリンクです。パワーが足りないホンダにとって、低速なこのトラックは競争力がある程度発揮できると見られていました。
フリー走行はトラブル無しで順調にこなし、タイムも思った通りに好調。しかし予選では一転何もかもがうまくいきません。バトンはQ1で落ちてしまい、アロンソはQ2でマシントラブル。もしかしたらQ3に行けるかも?という期待は消え去り、「やっぱり今回もダメか…」と思った人は少なくないはずです。
しかし、レースでは下位からしぶとく粘りました。大荒れのレースはリタイアとペナルティが出まくりでしたが、その中をうまく切り抜けて、アロンソは今シーズン最高位の5位を獲得。バトンも同様に8位入賞を果たし、2台揃ってのポイント獲得はマクラーレンにとって今季初。
しかし、そんな好成績にもなんとなく釈然としないのは、やはりマクラーレンとホンダに期待されるのはこんなレベルではない、という「そもそも論」に加え、今回は競争力が発揮されたと言うよりは、他が脱落していっただけ… という感覚が残るからでしょう。
さて、次に期待できる低速コースはシンガポールです。市街地の直角コーナーだらけのサーキットで、またもや「相対的に」競争力が上がるはずです。でもねぇ…。
夏休み
ハンガリーGP前に3週間の休みがあったばかりですが、これから次戦のベルギーGPまでの3週間がF1公式の夏休み期間となります。ベルギーは一転してパワー勝負のハイスピード・コースです。しかし天候は不順で何が起こるか分かりません。鈴鹿あたりまではメルセデスがジタバタ不調に喘いでくれたりするのも良いかも?と思ってしまいます。