7月は連戦続きで4つのレースがスケジュールされていますが、その先陣を切って行われたのがオーストリアGPです。”A1リンク”改め”レッドブルリンク”と呼ばれるようになったこのコースは、典型的なオールドコースのひとつでありながら、他のヨーロッパ各地のサーキットほどF1の歴史は長くありません。
前戦の観戦記で「どんなコースか印象がない」と書きましたが、中継映像を見てすぐに思い出しました。急な上り坂の1コーナーから、ゆるくカーブを描きつつ2コーナーに至るあたりは、過去いろんなバトルが展開され、佐藤琢磨が大クラッシュしたこともありましたっけ。
現在のカレンダーの中ではラップタイムが非常に速いほうで、予選ではわずか1分6秒ほどで周回してしまいます。
Jenson Button / McLaren MP4-30 / 2015年 日本GP
オールドコースと言うとオーバーテイクがしにくいと言うのが定番ですが、ここはティルケの改修を受けていたり、スピードの出るストレートがあり、DRSも2ヶ所に設定されていることからも、頻繁に順位が入れ替わりやすいレースとなりました。
路面外改修され非常にスムーズな舗装はまさにF1向きでしたが、同時に改修された縁石の一部が高すぎるなどの問題があり、フリー走行から予選に至るまで、サスペンションを破損し大クラッシュするマシンが続出しました。コースアウトを防ぐために設けられた縁石だそうですが、ミスした結果のペナルティがドライバーの命に関わるようなものであってはいけないと思います。
さて、レースではその縁石は問題になりませんでしたが、これまた目の離せない大荒れのレースとなりました。ハイライトはファイナルラップにやってきますが、そうなるまでの布石がずっとレース中を通して積み重ねられていきます。
「僕はアウトサイドにいた」 ルイス・ハミルトン
ポールポジションからスタートしたのにいつの間にか追いかける立場になっていたハミルトン。最終スティントで装着されたソフトタイヤに最初は文句を言っていましたが、レースエンジニアが言うように、結果的にこれが正しいタイヤ選択だったようで、スーパーソフトをつけたロズベルグを次第に追い詰めます。
そして事件が起きたのはファイナルラップの2コーナー。2台は接触し、お互いにウィングを破損。しかしその同士討ちの結果、コース外にはじき飛ばされたものの、マシンへのダメージが少なく残りのわずか2kmあまりをより速く走り抜けたのはハミルトンのほうでした。
この接触に関して、ハミルトンの主張する「自分はアウトサイドにいて、アウトサイドに押し出された」という点は誰が見ても否定しようがありません。そしてその前提として、仕掛けるに十分な距離に近づいていたのも事実です。だとすればこれはレーシングアクシデントなのか? しかしレース後の審議の結果、ロズベルグにはペナルティが出されました。
しかしそれ以前に、これはそもそも避けられる接触だったと思います。
というのは、チームがなぜハミルトンに不要な2回目のタイヤ交換を強いたのか? そこが腑に落ちないのです。ロズベルグに対しアンダーカットを許すほどに最初のスティントを伸ばしたのは、後ろを追いかけてくるライコネンやレッドブル勢同様に1回ストップ作戦を取るためだったはず。そうでないとウルトラソフトであれだけ引っ張った理由が分かりません。ここはトラックポジションが重要なサーキットではありませんから。
しかしながらチームは2回目のピットインをハミルトンにも指示します。その結果当然ロズベルグに前を行かれてしまい、さらには1回ストップ作戦で我慢のレースをしていたフェルスタッペンの後で復帰してしまいます。レッドブルは力業で抜けたから良いようなものの、トップをみすみす明け渡すリスクを冒し、しかも最後にチーム同士の直接バトルに持ち込む目的はなんだったのか? まったく理解できません。
これは予定通りだったのかもしれませんし、あるいはタイヤに変調を感じたとか、ベッテルのバーストを見て安全策をとったのかも知れません。しかしもしそれが以前からチーム内にある「ピット作戦は2台とも統一する」というポリシーのためだとしたら、そこはもう少し柔軟になるべきだと思います。
明確なファースト、セカンド扱いをせず、さらに以前のようにしっかりとチームオーダーを出すこともせず、とにかく二台を直接戦わせることによるリスクをチームが容認していたのか? いや、そんなはずはありません。あるいは両ドライバーの自制心を信じていたのだとしたら、それはそれで甘すぎると思います。
もちろん見ているほうとしては、メルセデス同士がバトルを繰り広げるのは見ていて面白いのですが、こういう展開にはどうもモヤモヤしたものが残ります。
「インサイドで優先権を持っていたのは僕だ」 ニコ・ロズベルグ
フリー走行でのサスペンション破損によりクラッシュを喫し、ギアボックスを交換せざるを得なくなり、予選グリッドペナルティを受けてしまったロズベルグは6番グリッドからスタートしました。
しかし金曜日に見せていた好調さそのままに、猛烈な勢いで追い上げ、レース後半には気がついたらトップを走っていました。もしこのまま優勝できたら、素晴らしい大逆転劇となっていたところでした。
最終スティントのタイヤ選択はハミルトンがソフトだったのに対し、ロズベルグはスーパーソフトと分かれます。それがどう作用したのか分かりませんし、終盤にはブレーキの問題を抱えていたという話もあります。
いずれにしろハミルトンとのギャップはみるみる詰まり、ファイナルラップにはテール to ノーズとなっていました。そして問題の2コーナーを迎えます。レーススチュワードはロズベルグに原因があるとしてペナルティ裁定を出しました。「バトルに際し、ラインを残さずハミルトンをコース外に押し出し、接触を引き起こした」たという理由です。
当然ながらロズベルグ本人はこれに異を唱えています。彼の言い分は「確かにディフェンスラインを取ったが、ラインが残らなかったように見えたのは接触した結果であって、ラインを残さなかったから接触したのではない」と。なるほど、確かに問題のシーンを見返すと、ロズベルグの言い分にも理があるように思えます。最初の接触はコース上でロズベルグがブレーキング中に、ハミルトンがインに切り込んだ瞬間に起きています。
ハミルトンが「自分はアウト側にいたのだから接触の責任はない」と主張する裏返しで、ロズベルグは「前にいてインを抑えていたのは自分だ」と弁明しています。後ろから強引にインに飛び込んでハミルトンを弾き飛ばしたのではなく、そもそも前にいたのは自分なのだからライン取りに優先権があったはずだと。
表彰台でハミルトンに浴びせられたブーイングは、ここがドイツ系のオーストリアだから、というだけでなく、問題のシーンを見た一般的なファンの直感なのだろうと思います。
恐らくスチュワードの見立ては「ロズベルグが突っ込みすぎている時点で、すでにラインを残す意思が感じられず、ハミルトンが避けるのは不可能な状態であった」というのだとすれば、きっとそれが正しいのかもしれません。ただ、最終結果に影響はないペナルティであったとは言え、ペナルティを出すほどのことだったか?と、釈然としない気持ちが残ります。
こういったギリギリ(アウトになることもある)のせめぎ合いが自主規制されてしまうと、つまらないレースになってしまいそうで心配です。
いずれにしてもロズベルグの勝負弱さが再び露呈した上に、ペナルティを受けたことで今後ネガティブな方向にどんどん転んでいきかねません。それでもまだ今はポイントリーダーに留まっていますが、これで心が折れてしまったんじゃないか?と心配になります。そうだとしたら、その程度のドライバーだ、ということになってしまうのですが。
「僕らは純粋なペースでウィリアムズ2台に勝った」 ジェンソン・バトン
予選ではQ3に残っただけではなく、5番手のタイムを出しました。ウェット絡みだったとはいえ、マクラーレンホンダにとっては願ってもない順位。しかもロズベルグとベッテルがグリッド降格したため、スタートはセカンド・ロウの3番グリッドからとなりました。
奇数列だったことも幸いしてか、スタートをうまく決めてオープニングラップは2番手で帰ってきます。が、そのポジションを守りきることはやはりできません。タイヤとの相性もあってか、周回を重ねるうちにフェラーリ、レッドブルに相次いでオーバーテイクされ、順位を見る見るうちに落としてしまいます。
やっぱり今のマクラーレンホンダには上位争いは無理だったか… と諦めてしまったのですが、その後早めにタイヤを換え、堅実な2ストップ作戦をきっちり実行し、レース終盤にはメルセデス、フェラーリ、レッドブルに続く位置につけていました。
比較的単純なレイアウトで、速度域の高いこのコースで、フォースインディアやウィリアムズなどのメルセデスPU勢をしっかり抑えきったのは、確かに大きな前進であり自信につながったことでしょう。
ただ、これまで比較的良い成績を残していたアロンソのほうが振るわず、最後は信頼性の問題が再び出てしまったところが残念です。
次はイギリスGP
次は今週末、シルバーストーンで行われるイギリスGPです。国民投票で揺れるイギリスですが、F1にはどんな影響を及ぼすのでしょうか? 歴史的にもファクトリーをイギリスに置くチームが多いだけに気になるところです。