最近の読書記録です。行ってきたばかりの旅先に関係する小説を読み直す、というのは、最近お気に入りの旅の思い出を追体験する方法です。3月に沖縄旅行から行ってから「太陽の子」を読み直したのに続き、先月末に初めて奈良を訪れたのをきっかけにして、奈良に関する小説を思い出し、改めて読み直して見ることにしました。
天平の甍:井上靖
- 作者: 井上靖
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/02/07
- メディア: Kindle版
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天平の昔、荒れ狂う大海を越えて唐に留学した若い僧たちがあった。故国の便りもなく、無事な生還も期しがたい彼ら――在唐二十年、放浪の果て、高僧鑒真を伴って普照はただひとり故国の土を踏んだ……。鑒真来朝という日本古代史上の大きな事実をもとに、極限に挑み、木の葉のように翻弄される僧たちの運命を、永遠の相の下に鮮明なイメージとして定着させた画期的な歴史小説。
昭和32年に発表された井上靖の小説で、この分野ではほとんど古典と言っても良いくらいに有名な物語です。映画化などもされています。
今から約1300年前の奈良時代に、遣唐使船で大陸へと派遣された興福寺の若い僧侶達が、苦節20年に及ぶ留学生活の末に、唐でも指折りの高僧であった鑑真和上を連れて日本へ戻るまでの過程を描いた小説です。それは史実をベースに細部をフィクションで肉付けした歴史小説でありながら、一方でほとんど冒険活劇のようでもあります。
彼らはなぜ遣唐使船で大陸へ渡り、何を勉強していたのか? 鑑真を日本へ連れて帰る目的は何だったのか? そして鑑真自身はなぜ命をかけてまで海の果ての異国である日本へ渡る決意をしたのか? それらのドラマが非常に淡々とした文章で綴られています。
この小説を初めて読んだのは、恐らく中学生の時だったと思います。決して本の虫ではなかった私が、その歳頃でこの本を読破できたというのは、それだけこの物語が面白くて引き込まれたからに他なりません。
その気持ちを追体験しようと、30年が経過してこの歳になって読み直してみましたが、そこには期待通りの世界が広がっており、遙か昔に本当にあったに違いないドラマとロマンを感じることが出来ました。
そして現在でも奈良に行けば、彼らのいた証がそこに残っているのを見ることができます。それは唐招提寺はもちろん、興福寺にも東大寺にもあったに違いません。
脳が壊れた:鈴木大介
- 作者: 鈴木大介
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2016/06/24
- メディア: Kindle版
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41歳の時、突然の脳梗塞に襲われたルポライター。一命は取り留め、見た目は「普通」の人と同じにまで回復した。けれども外からは見えない障害の上に、次々怪現象に見舞われる。トイレの個室に老紳士が出現。会話相手の目が見られない。感情が爆発して何を見ても号泣。一体、脳で何が起きているのか?持ち前の探求心で、自身の身体を取材して見えてきた意外な事実とは?前代未聞、深刻なのに笑える感動の闘病記。
この本を知ったのは、東洋経済オンラインの以下の記事を偶然読んだのがきっかけです。
このサイトで連載されている一連の貧困問題に関する記事は、ショッキングな内容のものが多いこともあって、なんとなく気になって読んでいたのですが、その筆者自身が脳梗塞をわずらい、リハビリを経て復帰されたと言う経歴を持っていることに、より大きな関心を抱きました。
その理由のひとつは、筆者が指摘する「脳梗塞患者と貧困者の振る舞いには共通点がある」という指摘に、私自身は幸いどちらにも縁がないに関わらず、ハッとさせられるものがあったこと。もうひとつは、もっと直接的に自分自身が脳梗塞になるんじゃないか?という心配をぼんやりとしていたということがあります。
この本は筆者自身が脳梗塞を発症してから、リハビリを経て次第に日常生活に復帰して行く過程を記録したドキュメンタリーです。その際、なかなか他人には理解しにくい、高次脳機能障害がもたらす数々の症状について、ライターとしてそれらを言語化して行くことに腐心されていて、とても分かりやすくなっています。
そしてこの本を執筆するところまでは復帰されているわけで、最後には家族や周囲の人達の協力と理解の重要性などを交えて、いい話で終わるので安心して読み進められます。
この本を読んで、若くして脳梗塞を発症した大変さの一端を知ると同時に、それが自立した生活を送ることができない人々と似ていると言う筆者の元の指摘を思い出し、そこまで想像力を広げたならば貧困問題などはもう少し違う目線で考えることが出来るようになるのではないかと思います。
鼠、地獄を巡る:赤川次郎
- 作者: 赤川次郎
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2017/05/02
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昼は甘酒売り、夜は天下の大泥棒という二つの顔を持つ鼠小僧次郎吉。妹の小袖と羽を伸ばしにやってきた温泉で、人気の歌舞伎役者に出会うが、女湯で侍が殺される事件が起きて……。義理人情に厚い鼠小僧が大活躍!
鼠シリーズの最新巻を見つけて久しぶりにKindleで買って読んでみました。相変わらず気軽にさくさく読める楽しい娯楽小説です。しかし過去作もことごとくそうだったのですが、あまりにも言葉が少なくてテンポ良く進むため、時に展開が分からなくなってしまいます。
読み手にはかなりの集中力を要求され、必至に行間に省略された展開を頭の中で補完しなくてはなりません。そう言う意味ではなかなか読みづらい本だとも言えるのかも。
そしてよく読んで見ると、そこで起こる事件はわりと極悪残虐で、世知辛い世の中が描写されていて驚きます。それだけに分かりやすい勧善懲悪のストーリー展開が際立つわけですが、今作はとくにそういう傾向が強かったように思いました。
たからもの 深川澪通り木戸番小屋:北原亞以子
- 作者: 北原亞以子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/11/13
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江戸・深川澪通りの木戸番小屋に住まう夫婦、笑兵衛とお捨。二人のもとには、困難な人生に苦しみ、挫けそうな心を抱えた人々が、日々訪れる。傷ついた心にそっと寄り添い、ふんわりと包み込む。その温かさに癒され、誰もが生きる力を取り戻していく。人生の機微をこまやかに描く、大人気シリーズの最終巻!
もうこれが最後と思いながらも、いまだに北原亞以子さん作の未読小説を見つけると買ってしまいます。この本は、深川澪通り木戸番小屋シリーズの最終巻。文庫版はもう一昨年あたりに発売されていたもの。それでも亡くなってから2年後と言うことになります。
内容についてはいまさら言うことも思うこともありません。お捨てと笑兵衛の二人は相変わらずだし、深川の町並みも(見たこともないのに)手に取るように思い浮かびます。北原節の効いた美しくもハードボイルドな文章ももちろん健在。
時代は200年以上経ち、社会の仕組みは大きく変わりましたが、深川や江戸という大都市に暮らす人々の悩み事は、その本質を付き詰めれば現代とほとんど変わりません。
最終巻の読了とともに仏の慶次郎が私の中の江戸の街から去って行ってしまったのと同じように、本作を持って木戸番小屋の夫婦もこれで私達の前から去ってしまったように感じてしまいます。彼らのいなくなった深川は、ずいぶんと殺風景になるのではないか? と現実とフィクションと時代を超えて混乱した感想を拭い去ることができません。
今度こそ、北原亞以子作品とのお別れになるのだろうと思って読みはじめましたが、Kindleストアを見ると、まだまだシリーズものではない単発の作品がいくつか残っているようです。北原さんとのお別れはまだまだしばらく先になりそうです。
突然のコメント、失礼いたします。はじめまして。
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