鶏料理の定番と言えば唐揚げ、串焼き(いわゆる焼き鳥)などがありますが、最近静かにブームになりつつあるというのが「素揚げ」です。その名の通り、焼くわけでもなく、衣を付けるでもなく、そのまま油で揚げてしまう、というシンプルな料理。多分知る人ぞ知るということで昔からあるものなのでしょう。しかし私は今回初めてお目にかかり、食べてみることが出来ました。シンプルな料理はだいたい美味いと決まっています。
素揚げを出すお店は東京都内でも増えてきていますが、焼鳥や唐揚げのようにどこでもあるというわけではありません。そんな中、都内では老舗の一つとも言える、その名もそのまんまの「素揚げや」へ行ってみることに。小岩駅南口から昭和通り商店街をまっすぐ行った先にあります。
この商店街も名前の通りで、昭和の香りを残す古き良き商店街。道沿いには上級者向けと思われる渋い立ち飲み屋が並んでいます。しかし目的の「素揚げや」は、そんな気むずかしさとは無縁で誰でも入りやすそうな普通の居酒屋さんの店構えです。
店の入り口に掲げてあった看板。パリッパリでジューシーでヘルシーだなんて、なにそれすごい! それに、鶏刺しとか凍結系レモンサワーとか、気になるものが並んでいます。早速入りましょう。
店内はそれほど広くありません。小さなテーブル席が二つほどと、8人で一杯になるカウンターのみ。人気店なのでほとんど予約で埋まっているらしく、次々に来る飛び込みのお客さんを断っていました。行くなら予約しておくことをお勧めします。
とりあえずの一杯。実はこの日はレッドブル・エアレースを見に行く前日だったので、お酒は控えておこうと思ったのですが、この店オリジナルという「元祖最強レモンサワー」というメニューを見てしまったら飲まないわけに行きません。
凍ったレモンがたくさん入っています。このレモンは1回で捨ててしまうのは勿体ないので、そのまま中だけを追加することも可能。特にギュッと絞っているわけではないのにレモンの爽やかさに溢れています。中は焼酎のソーダ割りというわけではなく、強い甘みがあります。いったい何が入っているのでしょう?
それに対しもう一つ、同じレモンサワーでも「エクストラ」というのもあります。私は二杯目の中を注文するときに、エクストラに変えてもらいました。こちらは甘みはなくキリッとしたいかにもドライなお酒の味。うむ、レモンサワーでこれだけ色んな味わいが楽しめるのは面白いです。
お通しはシラスがたっぷり乗ったサラダ。ごま油系のドレッシングがかかっていて、サラダだけでもいかにも鶏料理屋さんという感じ。
鶏刺
最初はお刺身でしょ、ということで鶏刺し盛り合わせです。薬味もいっぱいで賑やかなお皿は美しいですね。ササミとハツとレバーです。鶏の生食はまだ規制されていませんが、これもそのうち食べられなくなるかも。
ネギに埋もれているのはレバーです。いやいや生レバー美味いですね。牛や豚はもう食べられませんが、鶏レバーも超美味しいです。これだけお代わりしたいくらいです。久々に生レバーの旨味を楽しみました。あ、ハツももちろん美味しかったです。
ササミの淡い色合いは鶏ならでは。鶏刺しの定番ですがこれも美味いです。どんな薬味、タレをつけてもいけます。
鶏素揚げ
さて、いよいよ素揚げです。まず最初に来たのは砂肝の素揚げ。まるで串から抜いたかのような姿をしてますが、焼きではなく揚げてあります。塩の素朴な味付けに鶏独特のジューシーさが堪りません。おつまみとして無限に食べられそう。
そしてこれがある意味このお店の名物メイン料理。手羽の素揚げです。ここで注意したいのは「手羽先」ではないこと。背景でボケているひょろっとしたL字型の部分が手羽先。手羽はその根元の部分、ササミから胸肉までが一体になっています。なのでほとんど鶏の半身と言えるような、大きな塊肉です。これを一人一ついただきました。
で、どうやって食べるかというと、こうやって店員さんがナイフ等使わずに手で捌いてくれます。簡単にほぐれるほど柔らかくて肉厚でホロホロです。見てるだけでよだれが垂れてきそう。
で、この部分がアレでコレで… と部位と肉質の説明をしてくれます。その場ではなるほど!と思って聞いていたのですが、もはや忘れてしまいました。
素揚げ三品目はモモ肉です。鶏肉の定番部位ですから、これも食べ応えがありました。
で、この素揚げをはじめて食べてみた感想ですが、今まで食べた鶏料理の中では一番と言っても良いくらいの美味しさでした。皮はパリパリ、肉はたっぷりながら芯まで旨味が染みていてとってもジューシーです。本当にコレは美味い!! 唐揚げもフライドチキンも、衣なんて要らないんじゃない? と思えてきます。もちろん、素材が良いのだろうと思います。
煮鶏
さて、次は目先を変えて煮物に行きましょう。鶏煮料理もいろいろ揃っています。
まずこれはレバー! 何という美しさ!レバーは生でも焼いても煮ても美味しいです。この真っ黒なタレで味付けされた鶏レバーは、ごはんが欲しくなってきます。
そしてこれはツナギという希少部位。鶏の心臓の周辺部で、貝みたいな姿をしていますが、そうではなくてつまりはそういうことなのでしょう。一羽から少ししか取れないので、この小鉢いっぱいにするだけでいったい何羽分なのやら。看板メニューの一つだそうですが、なくなってしまうことも多いようです。
これが何というか筋っぽい歯ごたえがあって、いかにもホルモン系の美味しさをギュッと凝縮したような味わい。はじめて食べましたがこれは良いです。
もう一つ珍味系をいってみました。これは「ちょうちん」です。焼き鳥にもありますが、黄色い卵みたいなやつは、産み落とされる卵になる前の卵でいわゆる「キンカン」と呼ばれるもの。そして一緒に添えられているのは鶏の卵巣です。この二つを合わせて「ちょうちん」と呼ぶそうです。
鶏は毎日卵を産むので、特別なことをしなくても雌鶏を捌くと出てくるものですが、そうは言ってもそれほどたくさん取ることができないという意味では希少部位です。卵巣はホルモンとして普通に食べられますが、キンカンはただの卵の黄身とも違い、かといって肉でもホルモンでもない、何とも言えない味わいです。ただし、由来を知ってしまうと人によっては感情的に無理、と言う場合があるかもしれません。
野菜素揚げ
さて、最後にこれまたはじめて食べる料理をいただいてみました。それが野菜の素揚げです。オクラ、ゴボウ、ニンジン、アスパラ、ブロッコリー、トマト、タマネギ、カボチャ、ナスといった野菜をそのまま油で揚げてあります。なるほど、こうして見ると何でも素揚げに出来そうな気がしてきます。
揚げ物でありながら芯まで脂が通るわけではなく、生野菜のフレッシュさを感じるから不思議です。そういう意味では味噌で食べるのがぴったりでした。
とうことで素揚げ初体験でしたが、正直なところこんなに美味しいものだとは思っていませんでした。衝撃を受けました。これはきっと今後ポスト唐揚げブームとして人気が出てくるものと思います!
なお「素揚げや」はお値段もリーズナブルで普通に居酒屋として楽しめる気軽な下町のお店です。土地柄と業態に似合わず店内完全禁煙なので、美味しい料理とお酒を安心して堪能出来るのもポイント高いです。