今シーズン前半戦の締めとなるハンガリーGPが行われました。このレース後F1は1ヶ月のお休みに入ります。チャンピオンシップにおいては通過点の1レースに過ぎないけれども、ひとつの区切りとして、各チーム各ドライバー、夏休み中の宿題を抱えないように良い形で終わりたいと思っているに違いありません。
ハンガロリンクで行われるハンガリーGPは東欧初のF1として80年代に始まり、現在ではすでに長い歴史を持つクラシックレースの一つです。市街地コースではないパーマネントサーキットとしては屈指の低速コースで、他のレースとはかなり違った違った特性がマシンに求められます。
パワーでメルセデスPU勢に勝てない、ルノー、フェラーリ、ホンダのユーザーは、このレースに相当期待をかけていた事でしょう。
Sebastian Vettel / Ferrari SF16-H / 2016年 日本GP
毎年書いてると思いますが、ヤマハがその昔ほとんど優勝しかけたり、ホンダ第3期に唯一の優勝を遂げたハンガリーGP。今年はどうなったのでしょうか?
「レース後キミに申し訳ないと謝った」 セバスチャン・ベッテル
前回のイギリスでは散々な目に遭ったフェラーリですが、超低速コースのここハンガリーでは事前予想通り強さを見せました。予選ではフロントロウを独占して見せ、スタートもなんとか決めて早くも2台揃ってワンツー体制を作り上げます。3番手を追ってくるボッタス以下と比べて明らかにフェラーリの2台はペースで勝っていました。
が、レースの中盤、唯一のピットイン前後からトップを行くベッテルのペースに異変が表れます。ベッテルの訴えによればマシンの右側が下がり、ステアリングを左に保持しないとまっすぐ走らない、という状況。チームからは縁石を避けろとの指示が出るなど、ラップタイムが大きく下がってしまいました。
これでとばっちりを受けたのが、2番手を走るライコネンです。彼のマシンには問題はなくすぐにベッテルの追いついたどころか、一度は引き離したはずのボッタスにも追いつかれてしまう始末。サンドイッチになるのはさぞかしストレスだったことでしょう。
フェラーリにとっては難しい状況でした。ベッテルのトラブルがさらに悪化していくようなら、どこかでピットインさせるなり、ライコネンを前に出すなりする決断が求められます。ただ、ハンガロリンクは非常に抜きにくいサーキットなので、多少のことならこのままチェッカーまで持って行きたい、つまりはチャンピオンシップを考えてベッテルにポイントを最大限の取らせたい、と思っていたことでしょう。
そして結果はフェラーリの思惑通りになり、なんとかベッテルは最後までトップのままで手負いのマシンで走りきり、ライコネンも途中ボッタスと入れ替わったハミルトンのアタックを防ぎきってワンツーを達成しました。
ライコネンがレース中に不満を言っていたピットインのタイミングは、ボッタスのアンダーカットを防ぐために必要なことでしたし、ベッテルのトラブルについては結果的に大きな問題にならずにすみました。しかしモナコGPのように前後の関係が逆だったら?と、やはり考えてしまいます。
ライコネンは予選で負けた自分が悪いとコメントしていますが、こうなったらポールを取り、チームの思惑が働く余地がないくらいぶっちぎるしかないのだろうと思います。
ベッテルは今シーズン4勝目で、ポイントリーダーの地位を守ったまま夏休みには入れると言うことで、かなりご機嫌の様子でした。でも、絶対的なメルセデスとハミルトンの強さを考えると、後半戦にに向けてちょうど良いハンデなのかもしれません。
「正しい方法でこのタイトルを勝ち取りたいと言ってきた」 ルイス・ハミルトン
完璧な母国GPを戦い、誰にも手の付けられない強いハミルトンが戻ってきたかと思った矢先、一転してやはりこの超低速コースと、暑さとスーパーソフトタイヤにメルセデスは苦しむことになってしまいました。フェラーリに届かないのは想定の範囲内だったかも知れませんが、予選でハミルトンははボッタスにも負けてしまいます。
しかもスタートではレッドブルにも前を行かれてしまうなど、マシンのコントロールにかなり苦労したようです。ただしレッドブルは同士討ちをしてくれたおかげで4位の座を取り返し、ベッテルのペースダウンで前3台に追いついたところで、ハミルトンは一つの賭けをチームに提案します。
それは「フェラーリへのアタックは自分にやらせろ。もしダメだったら順位はボッタスに返す」というもの。メルセデスが順位を入れ替えたときには、単純なチームオーダーかと思ったものです。チャンピオンシップを考えてフェラーリがベッテルを優遇するように、メルセデスはハミルトンを優遇してもおかしくないし、実際ハミルトンはそういうナンバーワン意識を強く持ってるドライバーなのだから。
しかし、ハミルトンは20周以上にわたり3番手を走りライコネンの隙をうかがいますが、さすがにこのハンガロリンクではどうにもなりません。
結局なんだかんだでこのまま3位をちゃっかり手に入れるんだろ? と穿った見方をする前に、なぜかこの間にかなり後ろに下がってしまいフェルスタッペンに追いつかれているボッタスに順位を返すのは、状況的にそもそも至難の業でもありました。
しかしハミルトンは最終ラップの最終コーナーでうまくスピードを調整し、ボッタスを前にやり過ごしつつフェルスタッペンの前を塞いで、約束を守りきりました。このレースで一番の驚きのシーンだったと思います。
見出しに引用したコメントには続きがあって、それは「シーズン終盤には違った意味を持ってくるかもしれないけれど…」というものです。チャンピオンシップを考えれば、取れるポイントは取っておきたいところです。この数ポイントが最後に効いてくるかも知れない、とは誰もが考えること。
だからこそ、このハミルトンの行動を意外だったと思った人は少なくないのではないかと思います。心の底から本心を言ってるのかも知れないし、彼一流のパフォーマンスかも知れないし、残りのレースを考えたらいくらでも取り返せるという自信の表れなのかも知れません。
「マシンをコントロールすることができなかった」 マックス・フェルスタッペン
フェラーリとメルセデスが微妙なチームメイト同士の駆け引きを見せた一方、第3のチーム、レッドブルではもっとわかりやすい事件を引き起こしました。
オープニングラップの2コーナーでフェルスタッペンがリカルドのサイドポンツーンにフロントタイヤを思い切り当て、リカルドをリタイヤに追い込んでしまったのです。
スタート直後の良くあるレーシングアクシデントのように見えなくもなかったのですが、前にメルセデスがいる中で、フェルスタッペンはかなり強引な突っ込みをしたということで、10秒ペナルティが出されます。これはアゼルバイジャンGPでベッテルに出されたのと同じペナルティで、レース中に出されるペナルティとしては2番目に重いものです。
フェルスタッペンは結局5位でレースを終えますが、その後のチームとリカルドとの話し合いは大荒れだったことでしょう。プレスに対するコメントでも平身低頭、自分の非を認めているので、謝り倒したのだとは思いますが。
アグレッシブさは彼の持ち味ですから、それは生かして欲しいところですが、今回のようなことは誰にとっても受け入れられないでしょう。もう少し賢くやって欲しいと思います。
「レース終盤の最速ラップは驚きだった」 フェルナンド・アロンソ
およそ考えられる限りのグダグダ状態にある3シーズン目のホンダですが、ハンガリーGPの直前には、ザウバーとの間で合意したはずの、来シーズンのパワーユニット供給契約が破棄されてしまいました。
単純にホンダのパフォーマンスにザウバーが見切りを付けた、と言うだけではないのでしょう。長年ザウバーのチーム代表を務めてきたモニシャ・カルテンボーンが突然チームを去ったのも、このパワーユニット問題に端を発するチーム内のいざこざにあると言われています。
そして来シーズン、もしマクラーレンが契約を破棄してホンダを見切ったなら、ホンダは事実上撤退に追い込まれるかも知れない、というリスクが顕在化してきました。
もちろんマクラーレンとの間においても、単にパフォーマンスだけではない複雑な事情が介在していることでしょう。しかしF1は速さを競うものですから、このままで良いはずはありません。とにかくパフォーマンスと信頼性の向上、そしてそれに必然的に付いてくるはずの結果が必要となります。
さて、そういう意味では今回のレースはマクラーレン・ホンダにとっては望みうる最高の結果となりました。週末を通してトラブルはなし。予選では2台揃ってQ3に進み、3強に続く7番と8番グリッドを獲得。しかもレースペースも良くて完全にフォースインディアやトロロッソに勝っていました。
結果アロンソはフェルスタッペンに続く6位を獲得。ヴァンドーンはピットインのミスで順位を落としてしまったものの、10位に入って初ポイントを獲得。しかもレース終盤には使い古しのタイヤでアロンソがファーステストラップを記録するというおまけ付きです。
予想されていたこととはいえ、やはり低速サーキットには強いと言うことを証明して見せました。
パワー不足の問題解消はなかなか難しいようですが、少なくとも今回ほどの信頼性は確保し、まともにレースをして欲しいと願いたいと思います。後半戦にもあといくつか低速コースはありますから、まだチャンスはあります。
夏休み!
F1はこれから約1ヶ月間の夏休みに入ります。次のレースは8月下旬、スパのベルギーGPです。スパでレースが行われるとヨーロッパラウンドもいよいよ終盤という感じがしてきます。そして終盤に向けてのフライアウェイ戦に入り、鈴鹿ももうすぐという雰囲気が盛り上がってきそうです。