- 作者: 藤沢周平,隆慶一郎,山田風太郎,平岩弓枝,杉本章子,宇江佐真理,松井今朝子,南原幹雄,縄田一男
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2009/12/25
- メディア: 文庫
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お得意のタイトル買いをした本です。「吉原」と来たら買わずにはいられません。しかもこれ、縄田一男氏の選によるアンソロジー仕立てとなっています。が、新潮文庫で発売されている長屋シリーズや横丁シリーズとは違って、この本は角川文庫から発行されていますす。
収録されている作家さんの名前をみてみれば、平岩弓枝、宇江佐真理、藤沢周平、松井今朝子さんなど、おなじみの顔ぶれを中心に計八話が収められています。そのわりに350ページ弱の普通の文庫本で、文字は大きめ。とても読みやすい本です。
さてその吉原と言えば、粋と見栄と虚飾と欲望が渦巻く江戸唯一の官許の遊里。しかしそこは、今の時代の基準からすれば考えられない、最悪な人権無視の仕組みの上に成り立っており、多くの女性達の人生と命を翻弄した地獄でもあります。
それだけに、表の華やかな顔と裏の深い闇の世界の落差には、慄然とするものがあります。花魁達が命を賭けて演じた大芝居の舞台裏。彼女たちの不幸な生き様に同情し、感動し涙する、などというきれい事では済まされない、すさまじい物語ばかり。
分かっていたつもりでいても、どこか「吉原」にロマンを感じていた部分があったのですが、そんな気持ちを吹き飛ばす、重苦しい物語の連続。出だしの第一話目から、次のような言葉を突きつけられて、正直なところちょっと怯んでしまいました。
江戸吉原の意地と張りは、その遊女を滅ぼしかねない危ういものでなければならなかった。それだけの危うさを冒し意地を張ってこそ吉原の太夫は尊敬されるのではないか。侍は義のため、又は単なる意地のために、身を鴻毛の軽きに比し、死に狂いに死んでゆくからこそ侍なのだ。吉原の遊女もそのくらいのことをして見せてくれなくては、意地とか張りとか云う資格はあるまい。(第一話:吉原の張り:隆 慶一郎より)
しかもこの物語の結末はもっとショッキングです。この重苦しさは第四話の「はやり正月の心中:杉本章子」でピークを迎え、最後の「恋じまい:松井今朝子」にむけて、いくらか優しい雰囲気に方向転換した中で〆を迎えます。しかし、前半で感じた重苦しいショックを消しきることはできません。
そんな予想外の暗い内容ではありましたが、どれも読み応えがあって、短いわりに密度の濃い短編集として、十分に楽しめました。
【お気に入り度:★★★★☆】