- 作者: 宇江佐真理
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2010/04/14
- メディア: 文庫
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錺職人の夫が急逝し、家を追い出された後添えの八重。実の親子のように仲のいいおみちと日本橋に引っ越したが、向かいには岡っ引きも手を焼く猛女お熊が住んでいたからたまらない。しかも、この鼻摘み者の息子におみちがほの字の様子。やがて、自分たちを追い出した義理の息子が金の無心に現われる。渡る世間は揉め事ばかり?健気に暮らす母娘の明日はいかに。
宇江佐真理さんの文庫新刊です。単行本の発行は3年前の2007年ということで比較的新しい作品です。武家か町民かに関わらず、女性を主人公に据えた時代物を書かせたら天下一品の宇江佐さん。この本も素晴らしい物語でした。その肝は… 解説に書かれているとおり、なんの変哲もない一人の女の、なんの変哲もない日常を描いていると言うこと。生きている時代が違うとはいえ、誰にでも理解しやすい普通の日常の物語。それだけに心に染みいります。
男性が全く出てこないわけではないのですが、基本的に女性の登場人物だけで構成された物語です。母と娘、親戚や近所の奥さん達、買い物にやってくる主婦、一人暮らしの老女などなど。江戸城の大奥を舞台にしているならまだしも、市井もので女性だけが登場する小説というのは珍しいのではないかと思います。
主人公は幼なじみの飾り職人に後妻として嫁いだ八重。その夫が急逝するところから話は始まります。継母にして未亡人となった彼女と血のつながらない子供達、引っ越先で始めた小間物屋の周囲に住む女達や、お客さん達とのつきあい。特に向かいに暮らす近所の鼻つまみ者のお熊は、この小説のもう一人の主人公と言えそうです。
事件勃発の温床はたくさんあります。そして実際、次から次へと八重を悩ます事件が起こります。しかしそれら事件の一つ一つは、時代を超えて私たちの身近にもありそうな普通の人々の生活の風景。かといってありふれていてつまらないと言うことではありません。
八重は常識家で優しい性格の持ち主ながらも、時に怒り、迷い、間違い犯します。その凡人らしいところがまたこの作品の味でもあります。お熊をはじめ周囲の人々の方がよほど変わった人たち。わずか数ヶ月の八重の生活を描いたこの小説は、それでもしっかりと山あり谷あり涙ありで、読者を引きつける魅力的な物語です。
宇江佐作品を読むといつも思うことですが、女性が読むとまた違った印象を持つのかもしれません。少なくとも男性でも楽しめるのは確かです。
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