発売以来ずっと気にながらも、最後の決め手がみつからず、指をくわえて見ていただけのPENTAX Q。その最後の一押しは先月に”Limited Silver”という名と共にやってきました。それも「これだ!」と勢いではなく「ここまでされたら仕方がない」という諦めに似た心境です。いや、決して消極的というのではありません。発表日に即予約をしたくらいですから。
そうしてようやく手に入れたPENTAX Q Limited Silverを使ってみてまだ約1ヶ月しか経過していませんが、なぜだかこのカメラには思うところが一杯になりました。なので少し早いですが、Qで撮った写真と共に○と×をまとめてみようと思います。
以下、基本的に本文と写真の内容に特に関係はありません。写真はもともとすべて3:2で撮影しています。また場合によってはLightroomで調整を施し、構図の微調整のために若干のトリミングもしています。さらに約3Mピクセルにすべて縮小し、Flickrにアップロードしたものです。撮って出しではないのでご注意ください。
◎:デザイン
PENTAX Qの一番の特徴はボディサイズ。やや厚みがある以外はちょっと高機能なコンパクト機とほとんど同じか、むしろ小さいくらい。持ち運びのし易さはほとんどコンパクト機と同じ。首から提げていても疲れないし邪魔にならないし、どこで写真を撮っていても、相手や周囲に威圧感を与えることもありません。
PENTAX Q, 01 STANDARD PRIME, Pモード (F3.5, 1/1000sec, ISO250, AWB)
純粋なデザインとしてはもう少しどうにかならないのかな?と思わなくもないですが、このくらいあっさりしている方が良いのかも。しかもボディ素材はK-5と同様にマグネシウム合金製。手にした時のしっかり感はコンパクト機では得られないレベルのものです。
ボディカラーはレギュラーのホワイトとブラックも捨てがたいのですが、シルバーはこれこそがレギュラーカラーになるべきと言えるほどしっくりきます。黒いシボ革と相まってカメラらしさも強調されるようです。
◎:操作性と操作感
小さなボディに比例してスイッチやボタンがいちいち小さくなっているので、どうしても窮屈さは感じます。でもボタン類の質感や押したときのクリック感も節度があってしっかりしています。この辺の操作感はむしろK-5よりもこの点は良いくらい。
PENTAX Q, 02 STANDARD ZOOM, Pモード (F4.5, 1/100sec, ISO320, ハードモノクローム, 15mm)
全般的な操作体系はPENTAXの一眼レフ機に準じており、グリーンボタンやINFOボタンなど含め、それらに慣れてる身にすれば非常に扱いやすく、操作しやすいカメラです。小さなボディなのにまるで一眼レフを触ってるかのような感覚で操作出来ます。
モードダイヤルと電子ダイヤルまわりはデザインされすぎているようですが、実はとても実用的。このカメラの操作性と操作感の良さを決定づけているのは、最終的にはこの電子ダイヤルではないかと思っています。でも私にはクリックがちょっと固すぎる気がしますけど。前面に設置されたクイックダイヤルが一つの特徴で、操作性も良好。これが普通に回転する前ダイヤルとして機能し、このサイズでデュアルダイヤル操作系だったらもっと良いのに、と思ってしまいます。マニアックすぎるかな?
PENTAX Q, 01 STANDARD PRIME, F1.9 AUTO (1/800sec, ISO125, AWB)
シャッターボタンは高く出っ張っていてややシャッターストロークも長め、クリック感も重め。当初はちょっと違和感を感じましたが慣れてきました。何より気に入ったのはこのシャッターを切ったときの感覚。タイムラグも少なく、小さなレンズシャッターがコトンと切れる感覚は新鮮です。当然ながらショックも皆無。意外にキレの良さを感じます。AFの合焦音も含めて無粋な電子音はすべて切って使うべきカメラだなと思いました。
×:電源スイッチ
小さいことを除いては一眼レフ並の操作体系をもち、一眼レフにはない上品で静かな操作感にひとしきり感心したところで、唯一残念に思うのは電源スイッチ。これが機械式のスイッチだったらどんなに良かったことか。そうすれば全体の操作感は完璧に仕上がったと思います。もちろん、機械式のスイッチはスペースも使うしコストもかかるだろうと言うことは容易に想像は付くのですが。
PENTAX Q, 02 STANDARD ZOOM, BCモード2 (F3.2, 1/60sec, ISO800, AWB, 7.1mm)
それにしても、まるで安いコンパクト機のような味も素っ気もないプッシュボタン式の電源ON/OFFは大いに興ざめなのです。しかも押し方が悪くて反応しないとか、カード書き込み中だと電源OFFできないとか、イラッとくることも多々あります。
ちなみに起動時間も今ひとつ。背面液晶は一瞬で点灯するのですが、そこから操作を受け付けるようになるまで一瞬の間があります。これが、意外にリズムが狂います。
◎:画質
さて、PENTAX Qについて語るとき、避けては通れないのがセンサーサイズ。レンズ交換式でそれなりに本格的なシステムカメラなのに、センサーは12Mピクセルの1/2.3インチ裏面照射CMOSという、コンパクト機用のものを使っています。それでもレンズや画像エンジンをしっかり作ったがゆえに一眼画質が得られるのか? あるいはセンサーの性能以上の絵は出ないと言うことで所詮コンデジ画質なのか? という論争はいまだに続いているようです。
PENTAX Q, 01 STANDARD PRIME, Pモード (F1.9, 1/30sec, ISO3200, AWB)
いろいろな視点はあると思いますが、実際のところは「その中間」としか言いようがありません。ピントがしっかり来たときの解像感はまさにレンズ交換式カメラのもの。高感度になってもノイズ感などは良く処理されていて、ISO1600くらいは平気で使えます。そして私がPENTAXの一眼レフを使ってるせいもあって、撮れる画像のコントラストや色味などはまさにK-5と見比べてもほとんど同じ傾向。ダイナミックレンジ補正やカスタムイメージなどの画像処理もK-5などの一眼レフと統一されているわけで、上述した操作感と相まって画質的な面でも、コンパクト機よりは一眼レフ寄りの感覚で使えます。
PENTAX Q, 01 STANDARD PRIME, F1.9 AUTO (1/1600sec, ISO250, +1.0EV, AWB, ほのか)
また、Qはローパスフィルターがついていませんが、その理由の多くは1/2.3インチで12メガピクセルというセンサーサイズにあると思われます。そんな極小画素ピッチに対応するローパスフィルターはコストがかかりすぎるとか、事実上レンズ解像度がローパスフィルターの役割を果たすという面もあるのでしょう。いずれにしろ最近流行のノイズを許容しても解像度を追い求めるという目的ではないと思います。これらは素人の想像に過ぎず、詳しいことは分かりません。
×:ボケ
ただし、小さなセンサーサイズである限りどうしても避けて通れないのがボケ量不足。画角に対してレンズの焦点距離が極端に短いので仕方ありません。単に背景をトロトロにボカした写真が撮れないということ以上に、撮れた写真を一見したときの遠近感、立体感という点ではやはり1/2.3インチなりの映像にしかなりません。もちろん、それを弊害とするのではなく、特徴としてとらえるのがこのカメラの正しいつきあい方だと思います。
PENTAX Q, 03 FISHEYE, Pモード (F5.6, 1/800sec, ISO125, AWB)
そこでボケコントロール機能なわけですが、これはまぁ、おまけ程度に考えた方が良いと思います。そこまでしてボケた写真を作ろうというのは、Qのコンセプトからして本末転倒だと気づきました。実際のところボケコントロールの仕上がりもかなり微妙な場合が多いです。
そう思いつつも、なんとかして背景をボカした写真を撮ってやろうとしてしまいます。「ボケを作り込むこと=一眼レフ並み」という意識がどこかにあるのでしょう。それもまた一つの楽しみ方ではありますが、そのうちボケなど気にしなくなったら本当にQを使いこなしたことになるのでしょう。
△:オートフォーカス
オートフォーカスは当然コントラスト方式。思ったところに思ったようにピントを合わせるのは結構気を遣います。上で書いたようにボケにくいフォーマットだというのに、それに矛盾することには、ピントには非常にシビアなカメラだと感じます。ピントがビシッときていれば、まるでこんな小さなカメラで撮ったとは思えないほどの映像になりますし、そうでなければまぁ、こんなもんかな?程度になります。その落差が大きいのです。
PENTAX Q, 01 STANDARD PRIME, F1.9 AUTO (1/2000sec, ISO125, -1.0EV, AWB)
AFモードは顔認識などなど色々あって多彩なのですが、今のところ9点セレクトにしています。合うときは一瞬でピタッとAF完了するのですが、合わないときはゆっくりとレンズを動かしながら、ピント位置を探すような動作に入ります。しかもこうなるとたいていの場合は結局ピントは合いません。主に近接撮影時や夜桜の撮影のように薄暗い場合はかなり苦手のようです。え?これに合わないの?ということがしばしば。コントラスト方式だから仕方がないのかどうかわかりませんが、今ひとつ何とかして欲しいところです。
それでもピントリングを回せば即座にMF出来ますので、MFをうまく活用するしかありません。そのためにはMFアシストを4倍拡大に設定して、ピントリングを回したら即座に拡大表示されるように設定すると同時に、カスタムファンクションでレリーズ優先にしておく必要があります。最近流行のピーキング機能があればMFアシストもやりやすくなるのですが、残念ながらQではサポートされていません。
○:機能
最近のカメラはどれもそうですが、機能的に不足はほぼありません。露出モードもP,A,S,Mは当たり前にフル装備。基本的に使わないもののHD動画撮影も可能。DNG形式のRAW記録と共にカメラ内現像までちゃんと出来ます。カスタムイメージやホワイトバランスなど撮影時のパラメータ設定ももほとんどK-5などと同等。ブラケットもインターバル撮影も出来るといった調子で、機能的にはフル装備と言っても過言ではありません。
PENTAX Q, 02 STANDARD ZOOM, Pモード (F5.6, 1/1600sec, ISO250, 極彩, 5mm)
Q独自の機能と言えばスマートエフェクトです。従来基本的に後処理用だったデジタルフィルターのリアルタイム版みたいなものかと思います。クイックダイヤルに4つ割り当てていつでもすぐに設定可能なわけですが、これ当初は要らないと思っていたのに、使ってみると非常に面白いくてとても気に入りました。今のところ、極彩、さくらほのか、ドラマチックアート、ハードモノクロームの4つを割り当てています。中でもお気に入りはハードモノクロームです。その名の通り、超高コントラストなモノクロモードです。何を撮っても絵になるので気分転換にピッタリです。
PENTAX Q, 02 STANDARD ZOOM, Pモード (F4.0, 1/1000sec, ISO125, ドラマチックアート, 5mm)
あと、センサーシフト式の手ぶれ補正も搭載していますが、デフォルトではシャッターを切った瞬間だけ動くようになっており、ライブビューには反映されません。望遠レンズを使わない限りは特に問題はなさそう。実際の効き具合も問題ありません。
◎:ゴミ対策
PENTAX Qで心配なところと言えば、センサーのゴミ対策。フォーカルプレーンシャッターもレフレックスミラーも持たないレンズ交換式カメラですので、レンズを外せばセンサーはむき出し。しかもフランジバックも短いので、マウントのすぐそこにセンサーが見えます。画素ピッチも小さいので、ゴミの影響は大きいのではないかと思っていました。
PENTAX Q, 01 STANDARD PRIME, F2.0 AUTO (1/1000sec, ISO125, AWB)
しかし、これまで1ヶ月使ってみて、センサーについたゴミが気になったことはゼロ。本当に全くないのです。超音波振動式のダストリームーバブル機能が搭載されていて、電源ON時またはOFF時に自動で作動させることが出来るのですが、起動時間を少しでも短くしたいので設定していません。時々思い出したときにマニュアル操作で作動させるだけ。なのにゴミが目立たないのはどうしたことでしょうか?
よく分からないのですが、ニコン1のように実際のセンサー面よりもかなり手前に何かフィルター類などがあって、ゴミの影響が少なくなるような構造になっているのかも。あとはレンズが明るく、F8以上には絞れないことが効いていたりするのかもしれません。
×:回転記録
急にピンポイントな機能の話になります。Qにはいくつかイマイチなところはあるのですが、中でも一番気に入らないというか残念なのは、縦位置撮影時の検出センサーがないこと。これがないと記録されたファイルに縦位置のフラグがつきません。今時FinePix F600EXRでも縦位置記録されるのに…。カメラでの再生時に反映されないことはもちろん、撮影後PCで写真をチェックしたり編集したりする際に地味に効いてきます。
PENTAX Q, 02 STANDARD ZOOM, F8.0 AUTO (1/1000sec, ISO125, AWB, 11.7mm)
縦位置検出センサーを実装するスペースがなかったということなのでしょうが… これはとてもとても残念な点です。
△:電池
Qに関して一番懸念していたのは実は電池の持続時間でした。使用する電池は1000mAhでフラットタイプの小型Li-Ion電池で、それこそコンパクト機用のものです。カタログ上でもフラッシュを使わない場合で250枚となっていて、少なくはないですが十分と言えるかどうか微妙なところ。ネット上のレビューを見ていると、電池容量は今ひとつという感想が多く見られました。
ところでその電池。型番はD-LI68というのですが、これ実はFUJIFILMのNP-50と同じ仕様の電池です。NP-50と言えばFinePix F600EXRで使用している電池で、私はこれを二つもすでに持っているのです。ということで、わざわざ予備電池を買わずともこのNP-50が使い回せてしまいます。
充電器は形状が違っていて、本体のサイズはPENTAXのほうが小さいのですが、ACケーブルを使う必要があります。FUJIFILMのほうはそのままプラグにさせるタイプなので、旅行などで持ち運ぶときはこちらのほうが便利です。
もちろん、メーカー自身がNP-50とD-LI68がまったく同じものであると認めているわけではないですし、そうだとしても出荷しているのはそれぞれのメーカーですので、充電器含めて使い回しについては自己責任となります。
◎:総合評価
ということで、現時点での総合評価は、文句なく◎です。これがあれば一眼レフは要らない、ということはありません。中判とAPS-Cのカメラがそれぞれ違うように、やはりセンサーのフォーマットサイズは、そのカメラの性質を決定づける部分であり、いくら撮れる絵の質が良いからと言って、すべてをカバーすることは出来ません。当たり前のことですけど。
なのでQは一眼レフ並みであるとか、所詮コンデジであるとか、そういう評価はナンセンスで、超小型のレンズ交換式カメラである、以上でも以下でもないと思います。このカテゴリーにはQ以外のカメラは存在しないわけですが、ライバルとの比較は出来なくとも、期待値以上の性能を持っているのは確かだと思います。
決め手がなくて買わずにいた6ヶ月が勿体なかったな、とさえ思っているところです。もちろん、Limited Silverを手に入れられたことは良かったのですけど。
今後も飽きずにQで写真を撮っていきたいと思っています。そのためにも、新しいレンズが出ることに期待しています!