酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

このレースはターニングポイントになるかも知れない:F1 2017 第4戦 ロシアGP

 F1は早くも第4戦を迎えました。オーストラリアで始まって少しずつヨーロッパへと近づいていく中、開幕後フライアウェイ戦の最後が、ソチで行われるロシアGPです。冬季オリンピックが行われたということで、厳しい気候条件を想像しがちですが、遠くに雪を被った山々を見ながらもソチの街自体は温暖な気候だそうです。そして今年含め4回のレースは全て好天の中行われたことが示す通り、晴天率も非常に高いこともあって、オリンピック後も廃墟になることなく、リゾート地として開発が進められているそうです。

 その辺を世界中にアピールする良いチャンスとばかりに、例年通り今回もプーチン大統領はレース終盤にサーキットに姿を見せました。F1はどの国のレースにおいても政治的な関わりを一切禁止していますが、プーチン大統領はどういう名目で現れて、どういう扱いを受けているのか? その辺のF1の魑魅魍魎の世界はよく分かりません。

Kimi Räikkönen / Ferrari SF16-H / 2016年 日本GPKONE6123.jpg
 さて、今回のレースはフリー走行から事前予想をことごとく覆す、波乱含みの連続でした。何か波乱をもたらす事件があったわけではありません。それは今回限りの偶然ではなく、今後勢力図が塗り変わる予兆なのかも知れません。

「フィンランド国歌を聴くのは本当に特別だった」 ヴァルテリ・ボッタス

 前戦のバーレーンでボッタスは、初ポールを取ったもののレースではタイヤに苦しみ、最終的にはチームオーダーを受けてポジションを奪われるという屈辱的な扱いを受けてしまいました。そのままハミルトンのセカンドドライバーになってしまうのか、あるいはポイントを争うライバルになれるのか、メルセデスに移籍してまだわずか4戦目だというのに、早くもこの先のキャリアを決める瀬戸際に立たされています。

 バーレーンに続いてこのコースも得意としている彼は、今回も予選でハミルトンを上回って見せます。しかし問題はその結果得たグリッドがポールではないこと。メルセデスはなぜかフリー走行中から不調で、トップタイムをことごとくフェラーリに奪われてしまいます。苦肉の策でQ2からエンジンモードを予選モードに入れてみるものの、フェラーリを逆転することは出来ず、2台そろってセカンドロウに並んでしまいました。

 しかし、結果的にそれはむしろプラスに働きました。スタート後、事実上の最初のコーナーとなる2コーナーまではかなり距離があるため、蹴り出しも抜群でトラクションの掛かりが良かったボッタスのマシンは、ベッテルのスリップストリームを使いながらぐんぐんスピードに乗って、ブレーキング競争をする前にベッテルの前に出てしまいました。

 いきなりラップリーダーを奪い取ったボッタスですが、レースペースではフェラーリに分がある上、前戦で悩まされたタイヤの心配もあります。そのまま勝てる可能性は五分五分と思われていました。

 しかし、ボッタスはちゃんと前戦の屈辱と失敗から学習したのか、レース中ずっとペースを保ち、ベッテルを突き放すことは出来なくとも、ギャップを一定に保ちながら完璧なレースコントロールを見せました。さすがメルセデスに抜擢されるだけのことはあります。

 サイドバイサイドの争いこそなかったものの、最後までベッテルと戦い続けて見事トップチェッカーを受け、初優勝を飾ることが出来ました。参戦80数戦目にしての初優勝は決して遅いとは言えません。F1ドライバーになっても1勝も出来ずに去って行く人がほとんどなのですから、勝てただけでもすごいことです。

 これでボッタスはバーレーンでの悪夢を帳消しにし、ハミルトンのセカンドではないことをチームにも、全世界に対しても証明することが出来ました。確実に彼にとってこの勝利は、今後のキャリアにとってのターニングポイントになるはずです。

 問題はこれがまぐれと言われないために、今後もこういう成績を残していくことが出来るかどうかです。何となく今シーズンはハミルトン vs ベッテルという構図が見えつつありますが、そこに割って入る第三の男になれるか?今後が楽しみです。

「僕のスタートはよかったと思う」 セバスチャン・ベッテル

 いや、テレビ画面を見ている限り、そんなに良いスタートとは思えませんでした。明らかに蹴り出しでもたついていたと思います。ただ、恐らく普通のサーキット並みに1コーナーが近ければ、あるいはインを抑えたままトップ通過できたのかも。しかし、ソチのコースではスリップストリームを使われてあっという間にオーバーテイクされてしまいました。

 さて、またもや追う立場になってしまったベッテルですが、今回はピットストップは1回だけ。アンダーカットもあまり効かないということで、逆に第1スティントを延ばしてステイアウトという作戦をとってみたものの、状況はあまり変わりませんでした。

 ただし、レース終盤に新しいタイヤで急激に追い上げ、トップを行くボッタスに追いつきましたが、最終的にわずかに届きませんでした。仮にマッサとの一件がなかったとしても、オーバーテイクまで持って行くのは難しかったでしょう。

 久々にポールを取って、独走逃げ切りのレースを描いていたはずですが、思わぬ伏兵にやられてしまい、レース後の表彰台などでの様子は今ひとつ元気がなさそうでした。少なくとも同じ2位を取った上海のようなはしゃぎぶりではありませんが、勝てると思ってたのに勝てなかったのだからそれも仕方ありません。

 しかし、チャンピオンシップを戦っていく上では、このレース結果はベッテルにとっても重要な意味を持ってくるかもしれません。ここで勝てなかったことがマイナスに響くのか、ハミルトンに勝ったことがプラスに働くのかは分かりませんが。

「レースはスタートで決まった」 キミ・ライコネン

 久々に表彰台に上がったキミにはロシアでも大歓声が沸き起こります。実際、フィンランドからやってきたファンも多かったのかも。ボッタスのために演奏された表彰式のフィンランド国歌でしたが、キミは何度もポディウムの頂点で聴いてきた経験があります。しばらく勝利から遠ざかっていますが、彼にとっても懐かしい表彰台の雰囲気だったことと思います。

 予選ではベッテルとの接戦を演じて見事にフロントロウを獲得して見せましたが、既に書いた通り2番グリッドは非常に不利でした。路面のグリップが悪かったことが全てなのか、クラッチミートに失敗したのか、キミの蹴り出しは非常に悪く、一時はかなり順位を下げたように見えましたが、絶妙なライン取りで気がついたら3位に復帰していました。

 結局上位の4台はオープニングラップで固まった隊列のままゴールしたことになり、キミの言葉通りレースはスタートから数コーナーのうちに決したと言えます。

 最近はチームの謎タイヤ戦略でかなり損をする事が多かったですが、今回は極常識的な戦略がとられました。しかし相対的にフェラーリの力が上がった今シーズン、是非キミの久しぶりの優勝を見てみたいと思ってるファンは、ロシアにも負けず劣らず日本にも多いのではないかと思います。もちろん、私もその一人です。

「彼は一緒に仕事をするには素晴らしいチームメイトだ」 ルイス・ハミルトン

 さて、このコメントは心の底から言ってるのか、彼らしい優等生を演じたコメントなのか? 恐らく後者なのではないかと思います... というのは、意地悪な見方が過ぎるでしょうか。でもねぇ...。

 これまで圧倒的な強さを誇ってきたハミルトンとメルセデスのコンビですが、今回はこれまでに見たことがないくらいの不調を見せました。マシンにトラブルは何もないのに、タイヤのオーバーヒートに悩まされ続け、予選でも4番手に沈んだ上に、レースでもまったく良いところがなく、スタート順のままチェッカーを受けてしまいます。

 同じマシンに乗るボッタスは優勝できて、なぜ自分はペースがなかったのか? 違いがあるとすればセッティングか、もしくはドライビングのはずですが、経験豊かでメルセデスのマシンをよく知ってるはずのハミルトンに合わなかったというのは、ハミルトン自身にとって面白くないところでしょう。

 今シーズンここまでの数戦では、ベッテルとのバトルは楽しいと、上機嫌な顔を見せていたハミルトンですが、対ベッテルだけでなく、対ボッタスとのポイント差が縮まってくると、昨年までのような苛立ちと不機嫌さと、それに伴う精神面の不安定さが顔を出してきてしまうかも知れません。

 今回の不調の原因が何だったのか?は分かりませんが、メルセデスとハミルトンの常勝時代はそろそろ終わりを迎える時が来たのかも。過去、フェラーリ、ウィリアムズ、マクラーレンやレッドブルに至るまで、数年にわたりトップに君臨したチームは数ありますが、必ずその時代は終わりを迎えます。(私の個人的願望も含みつつ)このレースはその前兆かも知れません。

次はヨーロッパラウンドの開幕

 いよいよF1はヨーロッパに凱旋します。次のレースは来週末スペインGPです。各チームがマシンを大幅アップデートしてくるタイミングでもあります。特にホンダがどうなるのか、注目していたいと思います。