最近読んだ本5冊:新海誠、宮部みゆき、佐伯泰英、宇江佐真理

投稿者: | 2017年2月16日

 ここ最近の読書記録です。相変わらず時代小説が好きなのですが、そうじゃないものも時々読むようになってきました。紙の本なら絶対買わないものも、電子書籍だと気軽に買ってしまうのが原因でしょう。私の個人的体験だけを見れば、電子書籍は購買へのハードルを下げ、読者の裾野を広げる効果はあると思うんですけど、いまだその辺も論争が絶えません。まぁ、縦書きの活字を読む限りにおいて、電子書籍は読書体験の質としては紙に遥かに及ばないと、思っていますけど。好きな本は出来れば紙で読みたいです。

 さて、特に今回は昨夏以来話題沸騰の流行りものに手を出してみました。いまさら感満載ですがそこから始めましょう。

君の名は。:新海誠

小説 君の名は。 (角川文庫)

小説 君の名は。 (角川文庫)

山深い田舎町に暮らす女子高校生・三葉は、自分が男の子になる夢を見る。見慣れない部屋、見知らぬ友人、目の前に広がるのは東京の街並み。一方、東京で暮らす男子高校生・瀧も、山奥の町で自分が女子高校生になる夢を見る。やがて二人は夢の中で入れ替わっていることに気づくが―。出会うことのない二人の出逢いから、運命の歯車が動き出す。長編アニメーション『君の名は。』の、新海誠監督みずから執筆した原作小説。

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 映画を見るという習慣がほとんどない私が、この大人気映画は久しぶりに映画館まで足を運んで見に行ってしまいました。それも自発的というよりは友人に付き合って、ということではあるのですが。私が見に行くくらいだから大ヒットなのは本当なんだろうな、と思います。

 で、この本を買ったきっかけはまさに映画を見たからです。すごく感動して気に入った… という面もあるにはあるのですが、それよりも細かいプロットが映画を一度見ただけでは飲み込めず、その解説と言うか種明かしがほしい、というのが主な動機です。

 だってあの映画、難解ですよね? 大筋分かりましたが細かいところで「???」となると、私は性格的にそこが気になって流せなくなるのです。ネットのネタバレ解説記事もいろいろ読みましたが、いまひとつ納得できません。

 そこで、新海誠氏が書いた原作があって、それを読めば分かると言う助言を頂いたので、Kindle版を即買いしてみました。小説としては短くて、2時間もあれば読破出来てしまいます。

 あとがきによればこれが原作と言うのは正しくなさそう。あくまでも映画が主であって、この本は副。たまたま映画の公開より先に発行されただけ、ということのようです。そのせいか、映画を見ずにこの本だけ読んだら、なお意味不明になると思います。

 映像で見た世界を補完し、完全な新海ワールドを私の頭の中に定着させることが出来ました。映画を何回も見るのも良いですが、おさらいの意味でこの本を読むのもお勧めです。

泣き童子:宮部みゆき

泣き童子 三島屋変調百物語参之続 (角川文庫)

泣き童子 三島屋変調百物語参之続 (角川文庫)

三島屋伊兵衛の姪・おちか一人が聞いては聞き捨てる変わり百物語が始まって一年。幼なじみとの祝言をひかえた娘や田舎から江戸へ来た武士など様々な客から不思議な話を聞く中で、おちかの心の傷も癒えつつあった。ある日、三島屋を骸骨のように痩せた男が訪れ「話が終わったら人を呼んでほしい」と願う。男が語り始めたのは、ある人物の前でだけ泣きやまぬ童子の話。童子に隠された恐ろしき秘密とは―三島屋シリーズ第三弾!

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 三島屋変調百物語シリーズものの第三巻。だいぶ前に前二巻も読んでいるはずでうっすら記憶があります。さすが宮部作品とあって、どの物語も面白いのですが、時折設定の不自然さが気になってしまいます。設定と言うのは、各話の出来不出来ではなく、三島屋で”おちか”が百物語の聞き役をやっている、というシリーズのベースとなる設定そのものです。

 このままでは、シリーズものとしての今後の展開がありそうななさそうな… その辺の曖昧さがちょっと退屈なんですよね。人はこんなにも昔話を赤の他人にしたがるものだろうか? と。それは教会で行う懺悔なのか、あるいは心療内科カウンセリングと考えるべきか。

 でも、今作の表題作となっている「泣き童子」は鳥肌が立つほど強烈な印象を残す物語でした。まさに宮部節全開です。この人は心温まるヒューマンドラマを書く人ではなく、こういう少し残虐でホラー的要素を持ったファンタジーにこそ真価があると思います。

 うん、この一話を読むだけのためにこの本を手にする価値があると思います。

流鶯:佐伯泰英

流鶯: 吉原裏同心(二十五) (光文社時代小説文庫)

流鶯: 吉原裏同心(二十五) (光文社時代小説文庫)

吉原会所に突然、「裏同心」を希望する女性が現れた。十八歳と若い「女裏同心」に戸惑う吉原裏同心の神守幹次郎と会所の面々。一方、札差の伊勢亀半右衛門が重篤な病に罹り、幹次郎は遺言を託される。遺言には、薄墨太夫にかかわる衝撃の内容が書かれていた―。薄墨太夫、幹次郎、汀女にとって大きな転機となる内容とは何か。シリーズ最大の山場が待つ第二十五弾!

流鶯: 吉原裏同心(二十五) (光文社時代小説文庫) | 佐伯 泰英 | Amazon

 吉原裏同心シリーズの第25巻です。実は24巻をまだ読んでいないのですが、先に今作を読んだ友人が「大変なことが起こった!」と言うから気になってしまって、24巻は飛ばしてしまいました。でも、良くも悪くもそれで大した問題にならないのが佐伯シリーズものの特徴です。

 で、なるほど。これは大変なことになりました。というか、幹どのファン達が半ば期待し、半ば恐れていた事がとうとう起こりそう!ということで、ここへ来てようやく盛り上がってきました。でもそんないいところで「次回に続く」みたいな、いやらしい終わり方をしてしまいます。なにこれひどい!

 第26巻を早く出してくれ!

君を乗せる船、雨を見たか:宇江佐真理

君を乗せる舟 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)

君を乗せる舟 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)

伊三次の上司である定廻り同心の不破友之進の嫡男、龍之介もついに元服の年となった。同心見習い・不破龍之進として出仕し、朋輩たちと「八丁堀純情派」を結成、世を騒がせる「本所無頼派」の一掃に乗り出した。その最中に訪れた龍之進の淡い初恋の顛末を描いた表題作他全六篇を収録したシリーズ第六弾。

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雨を見たか 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)

雨を見たか 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫)

北町奉行所町方同心見習い組には六人の若者がいる。伊三次の仕える不破友之進の嫡男、龍之進を始め、緑川鉈五郎、春日多聞、西尾左内、古川喜六、橋口譲之進という面々。俗事に追われ戸惑いながらも、江戸を騒がす「本所無頼派」の探索に余念がない。一方、伊三次とお文の関心事は、少々気弱なひとり息子の成長だが。

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 髪結伊三次シリーズの6巻と7巻です。宇江佐真理さんが亡くなって、遅ればせながら読み始めた代表作シリーズです。まだ比較的初期に書かれた物語が中心であるせいか、晩年に近づくにしたがって色濃く出てくる女性らしい視線、文体ではなく、どちらかと言うと時代小説の王道を行く、非常にハードボイルドな作風が意外でもあります。

 でも伊三次とお文の子、伊与太や不破家に生まれた娘、茜など赤ん坊の描写にはもしかしたら母ならでは目線が生きているのかも。挙句の果てにはお文と”いなみ”にこんな台詞を言わせます。

ああ、女でよかったって、しみじみ思うんですよ

 それはともかく、この2作は不破家の跡取りである龍之進を中心に進んでいきます。なので今まで江戸市井の空気が濃かったのですが、ここに至って八丁堀の捕物感が増してきました。でもそのおかげで、このシリーズにはずっと先が見えてきました。伊三次や友之進が引退しても、龍之進と伊与太がいるし、茜だってどう絡んでくることやら。

 宇江佐さんなりの、将来回収しようとしていた伏線がいくつも埋め込まれているなぁ、とそんなことばかりが気になってしまいます。このシリーズは16巻で終わってますが、どこまで回収されたのか、そのまま残ってしまったのか?

 先を読みたいと思いつつ、終わりを先延ばしにするために、のんびりと読んでいくつもりです。