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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

熱帯の摩天楼を駆け抜ける超高速耐久レース:F1 2016 第15戦 シンガポールGP

F1

 今年で9回目となるシンガポールGPは、カレンダー中でも他にはない特徴が山ほどある特別なレースです。たとえば大都会のど真ん中で行われること。市街地コースと言えばモナコやバクーがありますが、超高層ビルが建ち並ぶシンガポールの摩天楼の風景は、モナコやバクーの古いヨーロッパの街並みとは大分違っています。

 そしてそのトラックは直角コーナーが続く超低速コースで、セーフティカーの導入率が高く、レース時間が長く2時間の制限ギリギリになることも珍しくありません。F1でありながら耐久レース的な面を持っています。昨年は他のコースでは圧倒的に速かったメルセデスが、トラブルでもないのに予選でセカンドロウさえ取れないという事態に驚かされたものです。

 さらに、カレンダー中で唯一のナイトレースであることも大きな特徴です。煌々とした灯りに照らされた光の筋の中を走るF1マシンの姿は、ゲーム機のCGの世界のようです。日中は灼熱でスコールも多いこともナイトレースとなっている理由のひとつですが、別の面ではヨーロッパの日中に中継ができるように時間調整されているとも言われています。

Lewis Hamilton / Mercedes F1 W06 / 2015年 日本GPK3II1672-Edit.jpg
 さて、そんな何もかもが特殊なシンガポールのナイトレース、今年も波乱は起きたのでしょうか?

「終盤は少し接戦になった」 ニコ・ロズベルグ

 さすがにメルセデスはシンガポールのトラックに対して今年はしっかりと対策を打ってきたようです。ロズベルグは予選でも圧倒的な速さを見せて、レースでもそのまま逃げ切り、完璧なポール to ウィンを飾りました。

 各車2回目のピットストップを終えてこのままゴールまでの耐久レースとなるかと思われたとき、4位に沈んでいたハミルトンが突如タイヤを新しいスーパーソフトに換えて、表彰台を狙った一か八かの賭けに出ます。それをきっかけに3位のライコネン、2位のリカルドまでもが次々にタイヤを交換。トップを行くロズベルグがどうするのか注目されました。

 しかし彼は古いソフトタイヤのままじっと我慢してステイアウトすることを選択します。リカルドに合わせてタイヤを交換すると、ハミルトンに対するライコネンのように、アンダーカットされてしまう危険性があり、一方でステイアウトした場合に怖いのはセーフティカーが導入される事態が発生することでした。

 しかし結果的にロズベルグが恐れたようなことは起きず、ただ残り10周というところで、1周あたり2秒ずつリカルドに詰められるなど、最後はギリギリの展開となりましたが、なんとか1秒以下の差で逃げ切る事が出来ました。

 これで夏休み明け3連勝となったロズベルグは、ポイント・リーダーの地位を奪い返しました。完全にハミルトンに向いていたと思われた流れは、またもや風向きが変わったのか? ベルギーはPU交換によるペナルティ、イタリアはスタートミスが原因でしたが、今回はどう考えればいいのでしょう?

 いずれにしろ、3連勝してもなおこのままロズベルグが優勢とは思えない空気に変わりはありません。いずれまたハミルトンは戻ってくるはず... と、ロズベルグ自身が一番恐れているのかもしれません。

「彼に追いついたらどうなるかは考えなかった」 ダニエル・リカルド

 またもや2位。今シーズンはこれで4回目。スペインやモナコでチームの謎判断により失った幻の優勝のことは忘れていないと思いますが、ここ数戦の2位はどう頑張ってもこれ以上はなりようがないという意味で、表彰台の上でもかなり満足げに見えます。

 実際のところ、スタートやセーフティーカー明けなどなど、基本的なスピードではロズベルグに敵いそうにありませんでした。しかし終盤にタイヤ作戦を換えてから訪れたチャンスは、レースを大いに盛り上げます。2時間耐久レースになりがちなシンガポールで、久々に見られたスプリントらしいスピード競争でした。

 実際のところスーパーソフトタイヤを酷使してもう少し早いうちにロズベルグに追いついたところで、オーバーテイクするだけの余力があったかどうかは分かりません。リカルドお得意の深いブレーキングを生かせるようなコーナーもシンガポールにはありません。それよりも彼とレッドブルが願っていたのは、タイヤ交換後早いうちにセーフティカーが導入されることだったのでしょう。

 となると、F1界のダークサイドも大好きな私は、2008年のシンガポール初開催のレースで起きた「クラッシュゲート事件」を思い出していました。もちろん再びそんな事が起こる事を期待したわけではありませんが。

 リカルドの今季初優勝のためには、実力だけではなくて、運が必要なようですが、意外にそのチャンスは今後訪れるのかもしれません。チャンピオン争いが大詰めを迎えたときに、先頭で起こることと言えば、歴史が繰り返し証明していますから。

「彼らがどうやって僕らを抜いたのかわからない」 キミ・ライコネン

 この抜きにくいコースで、ハミルトンの一瞬のミスを突いてオーバーテイクし、3位の座を手に入れたたはずだったのに、終わってみればいつの間にか抜き返されて4位になってしまいました。

 ハミルトンの予定外のタイヤ交換作戦に翻弄され、フェラーリチームは一瞬ドタバタしたように見えましたが、すぐ翌周にライコネンをピントインさせてカバーしようとしたという事実からして、決断が遅かったわけではありません。

 なのに、5秒近いギャップもろともどこかに吹き飛び、わずか1周遅れただけでアンダーカットされてしまったことについて、その要因はなんだったのか?チームとしては検証する必要があるでしょう。ライコネンのインラップが遅すぎたのか? タイヤ交換作業にミスがあったのか? あるいはフレッシュなスーパーソフトを履いたハミルトンのアウトラップの速さを見誤ったのか?

 恐らく事実は再後者なのだろうと思います。

 このフェラーリとライコネンの失敗が、結果的にロズベルグにステイアウトの判断をさせた可能性があります。セーフティカーの可能性が高いこのコースでは、タイヤ戦略は後に合わせておくほうが定石の作戦だったはずですから。

 とすると、フェラーリの決断が遅れてライコネンが結果的にでもステイアウトしていたら? レース終盤の出来事は色々と大きく変わっていたのかもしれません。

「しばらくの間表彰台フィニッシュさえ期待していた」 フェルナンド・アロンソ

 スパやモンツァのような超高速コースは不得意な一方で、モナコやハンガロリンクなど低速コースを得意とするマクラーレン・ホンダにとって、このシンガポールはまさに好成績が期待できるはずのレースでした。

 しかしアロンソが何とかQ3に進出したものの、予選では特に見るべきところはなく、いつもの他のレースと変わらないようなスターティンググリッド。本当にこれで期待できるのか?と心配していましたが、レースが終わってみればアロンソは2つ順位を上げて7位フィニッシュ。現在の実力からすればまぁまぁの結果です。

 というのもトップ3は明らかに別次元で、マクラーレン以下中段勢とはまったく別のレースをしていたも同然です。結局事前の予想通り3強の次の7番手になっただけ、と言う意味ではサプライズは何もありませんでした。ウィリアムズやフォースインディア、トロロッソに勝てたことだけで良しとするしかありません。

アジア連戦第2戦はマレーシアGP

 次のレースは来週末、春から秋に移ってきて初めてのマレーシアGPです。鈴鹿前最後の一戦となります。メルセデスのどちらが勝っても、あるいはそれ以外の誰かが勝っても、チャンピオン争いは緊張した状態で迎えそうです。