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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

バカバカしさと不条理... からのどんでん返し:インスタント リア充/地主恵亮

インスタント リア充  人生に「いいね! 」をつける21の方法

インスタント リア充 人生に「いいね! 」をつける21の方法

なりたい自分に実は簡単になれる! 小さな工夫で男の夢を叶える痛快エンタメ・ノンフィクション。医者、競艇選手、クリエイター、仕事がデキる人間にセンスの良い人間……「世界で最も気持ち悪い男」(英ガーディアン紙)に選ばれた地主恵亮が挑戦した、少しの勇気と知恵でなりたい自分になる21の方法とは。
くだらないし、生産性はゼロ。ただ、これを読んだあとはなんだか元気になれる。世の中の鬱屈した思いを抱えたすべての男子(もちろん女子も! )に捧ぐ、妄想ノンフィクションがココに誕生する!

 デイリーポータルZをはじめとして数々のメディアでライターとして活躍中の地主恵亮さんによる新作。年明け早々に発売されていましたが、最近ようやく手に入れて読んでみました。

 本作は副題として「人生に「いいね!」をつける21の方法」と銘打たれているように、SNSを通じて自分がいかに「リア充」であるか、あるいは自分がいかに「意識高い」かを手軽に発信するためのノウハウが詰め込まれています。

 筆者の考えるリア充とは何か? センスが良いとは何か? 人間の魅力とは何か?といった21種類の典型的類型にまとめた切り口には「なるほど!」と思わせる部分が多少あるものの、内容を読めば読むほど、そこにはただひたすらバカバカしさと不条理があるだけです。

 例えばこんな感じです。

「今日はバーベキューだった。初めて会う人も大勢いたけど。みんなと仲良くなれた。またやりたいね」とコメントを添えてSNSにアップした。SNSの私は勝ち組だ。本当は終日一人。この原稿を書きながら遠い目をしているけれど。SNSの中の私はバラ色の人生を歩んでいる。

 バーベキューは格好のSNSネタです。誰もがこういうこと書くし、私も書いたことがあります。そしてSNSでバーベキュー報告をするには写真が欠かせません。そのために実際のバーベキュー場に行って大勢の人の中に紛れて、いかにもその輪の中の一員であるかのような自撮りを敢行する、という技が紹介されています。

 それはあまりにもバカバカしく、非実用的で、痛々しくすらあります。

 もちろんこの本はそれを狙って書かれたものであり、間違っても本当に「リア充」になるためのノウハウが書かれた実用本ではないわけです。ニヤニヤしながら、そのくだらなさを楽しむためのコメディ本です。

 そのニヤニヤの奥には、現実のFacebook等に蔓延する「リア充アピール」や「意識高いアピール」に対する揶揄の気持ちがあるわけで、そういう意味では本書の副題も、「○○のための7つの方法」みたいなテンプレートで世の中に氾濫する、ライフハック系の記事に対するパロディでもあるわけで、その徹底ぶりは痛快ですらあります。

 その一方で、そういう「リア充」に憧れてフェイク投稿を作るさびしい独り者、というフィクションを筆者自身の境遇に重ね、自分自身を最終的に一番落としてオチを作っているという点で、安心して笑える本になっています。その辺の力量はさすがです。

 が、正直言って「21の方法」のうち、15くらい読んだところでかなり飽きが来てしまったのも事実。途中で読むのを中断ししばらく放置してしまいました。何となく先の展開が読めるというか、展開を考える必要もないというか。笑いの質はどこまで行っても同じなので、もうこのくらいでお腹いっぱいかな?と思ってしまったのです。

 が、それは間違いでした。本書の一番の読みどころは最後の最後、21番目の「親孝行している人間になりたい」に訪れます。

 この最後の一章は唐突であり、まったく予想していなかったのでかなり面食らいました。んー、これは参ったぞ、と。途中で放置したままにせず、最後まで読み切って良かったと心の底から思いました。

 「親孝行している人間」はどうして「リア充」なのか? どうしたらそうなれるのか? この最後の一章だけはフィクションでもなく、コメディとしてオチが用意されているわけでもなく、ガチの筆者自身が体験したノンフィクションとなっています。それでいて本書全体のまとめとして綺麗な締めとなっています。

 実際にこんな書込みをFacebookで見つけたら、こんな写真をInstagramで見つけたら、きっと私だけでなくほとんどの人は心の底から「いいね!」を付けるはずです。

 なお、本書は最近Kindle版が発売されています。

 ちなみに余談ですが、地主恵亮さんの最近のネット記事では↓これが超面白かったです。本書も是非お勧めですが、もし彼をご存じないという場合にはまずはこれを読んでみることをお勧めしておきます。

 昔のガイドブック関連は以前も書籍化されていますが(以下参照)、海外シリーズも今後書籍化を期待したいと思います。

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