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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

デジタルカメラ黎明期の遺産(その2):SONY DSC-D700 を使ってみる

カメラ

 先週にNEC Piconaという古いデジタルカメラを使ってみたという記事を書きましたが(→こちらです)、それと同時に手に入れたもう一台の懐かしのデジタルカメラは、SONYのCyber-shot PRO(DSC-D700)という機種です。大きなグリップに大きなペンタ部、さらに比較的大きなレンズを搭載し左手側をスパッと切り落としたボディは、なんとなく懐かしさを感じます。オリンパスなどからもこんな感じのデジタルカメラが出ていた記憶があります。

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 発売は1998年の暮れで、SONYがコニカミノルタのカメラ事業を買収するずっと前のこと。まだレンズ交換式のデジタルカメラなど、民生向けにはほとんどなかった時代のフラッグシップ機であっただろう事は、その大柄なボディからうかがえます。

概要

 まずはでググってどんなカメラなのか調べてみました。仕様は以下の通りです。

撮像素子 1/2インチ 約150万画素 CCD
レンズ 5.2~26mm F2~2.4(フルサイズ換算28~140mm相当)
フォーカス CCD TTLオート(MFモード付き)
絞り ワイド端F2~11 テレ端F2.4~11
シャッター 4~1/2000sec
ISO感度 ISO100, 200, 400
液晶 2.5インチ TFT18万画素
ファインダー 光学一眼レフ形式
記録形式 1344×1024ピクセル JPEG(3段階)TIFF
記録メディア PCカード TypeII
フラッシュ 内蔵 GN10
電源 リチウムイオン
大きさ 130x100x150mm
重量 820g
発売 1998年10月25日

 手にしてみて驚いたのは、てっきりEVFだと思っていたファインダーが光学式だったこと。しかも一眼レフなのです。と言ってもセンサーサイズは1/2インチですし、レフレックスミラーを使ってスクリーンに結像するタイプではなく、素通しの中空像を見ているようですが、実際の仕組みはよく分かりません。電源OFF時とシャッターを切った瞬間は光学ファインダーも暗転しますが、それはレンズシャッターによるものなのでしょうか?

 次に、地味に驚いたのは背面液晶のサイズ。今でこそ3インチは当たり前になっていますが、この時代に2.5インチというサイズの液晶はカメラ用としては相当に大型だったのではないでしょうか? その後21世紀初頭になって私が手に入れたデジタルカメラの多くは、2インチ以下の今から見ると冗談みたいに小さな液晶を使っていたと思います。

 SONY製と聞いて真っ先に思い浮かべたのはメモリースティックなのですが、なぜか実物はPCカードスロットがついていました。コンパクトフラッシュではなくPCカードのType II。懐かしいですね、これ。一応SONYが発売していたキットにはメモリースティックとPCカード変換アダプタが同梱されていたようで、メモリースティック押しだったことに変わりはないようです。

 さらに!上の表には入れなかったのですが、WEBの過去資料を調べていてビックリしたのはそのお値段です。発表資料にある正規価格は税別でなんと23万5千円! その中には専用充電池と充電器が含まれておらず、別途アクセサリーキット(1万5千円)を必ず一緒に買う必要がありました。しめて堂々の25万円! おいそれとは手が出ない超高級機ですね。月産も千台程度だったようです。

 ちなみに電池と充電器を別売りする分割パッケージ商法は、インフォリチウムと名付けていた充電池をハンディカムなどを含めてソニー製品全般で共通化しようという戦略の中で考えられたものだと思いますが、逆に入り口のハードルを高くしてしまった本末転倒感が実にソニーらしいところです。

外観など

 そんな当時としては破格の高級機だったと言うことが分かったところで、細部を見ていきましょう。

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 全体像はこんな感じです。グリップは巨大なわりに深さはあまりありません。でもさすがにこれだけのサイズがあると、そこそこ持ちやすいです。

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 レンズ部です。リングが二つありますが、前玉側の幅広のほうがズームリング。ボディ側の細い方はピントリングです。メカ的にピント合わせ機構と繋がってるものではありません。それにしてもシルバー地のボディに文字色をどうして白字にしてしまったのか、理解に苦しみます。ソニーの悪いところが表れてる部分かと思います。

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 右肩の操作部です。上面には白黒の液晶があり、撮影機能に関する設定状態は概ねここで確認することになります。グリップ背面には電子ダイヤルと、その他ボタンがいくつかあります。何となく妙な配置ですが、この辺の操作系は当時のフィルムカメラにも通じるごく常識的な範囲かと思います。

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 ほとんどスペースのない左肩には大きなダイヤルがありますが、モードダイヤルではありません。"SIZE"とか"ISO"とか"W/B"などと書かれている通り、このダイヤルを指標に合わせて中心のボタンを押すと、各機能の設定モードに入り、右肩の電子ダイヤルで設定を切り替えることが出来るようになるというもの。なんともまだるっこしいな、と思う反面よく考えたなと感心しなくもありません。そういえば、PENTAXのフルサイズ機ももしかしたらこんなダイヤルが搭載されてるような気がします。

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 ちょっと見づらい写真ですが、背面側はこんな感じ。ファインダー接眼部の下にあるダイヤルがメインスイッチです。"OFF"は電源OFF、"CAM"は撮影、"PLAY"は再生の3ポジションとなっています。

 また背面液晶の左側にボタンがずらっと並んでいます。こちらにも"MENU"と言うボタンがあって、これを押すと背面液晶にメニューが表示され、上下ボタンや"EXECUTE" "EXIT"ボタンなどと組み合わせて操作する形になります。こちらでは主にファイルに関する操作をすることになります。

 つまり、カメラについての設定はボディ正面左右にあるダイヤルと白黒液晶で、記録されたファイルに対する操作は背面液晶とメニュー操作で行うようになっています。全く異なる操作系が混在したカオスな作りとなっています。

 この辺りのちぐはぐさは、設計がタコだったと言うわけではなく、まだデジタルカメラがどうあるべきか?が定まっていない試行錯誤の時代だったこと、あるいは使えるハードウェアのリソース(プロセッサの能力やメモリー容量など)に制限があったこと等々、苦肉の策というか一生懸命「カメラをデジタル化した」という雰囲気が感じられます。

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 ちなみに背面液晶のメニュー表示はこんな感じ。大きな画面のわりに小さくて不鮮明なフォントは、GUIを生成するグラフィック性能の制約でしょうか。なお、どこを探しても言語の設定が見つからなかったのですが、英語表示のみなのは製品仕様なのか、あるいはこの個体が日本向けではなく海外で販売されたものなのかは不明です。

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 さて別売りになっていたというリチウムイオン電池はこんな感じでグリップ部に収まります。私が手に入れた個体ではだいぶ電池が傷んでいるようですが、なんとか撮影は可能な状態でした。

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 メモリーカードもグリップの背面側にスロットがあります。PCカードが丸ごと入るスロットはかなり巨大です。実は当初この写真にある40MBのType IIカードを使ってみたのですが、今となってはこのType IIのメモリカードを読み出す手段がないことに気がつきました。以前はノートPCには必ずPCカードスロットがついていたものですが、いつの間にか跡形もなく消えており、市販の万能USBカードリーダーなどをみても、PCカードをサポートしている製品は皆無です。

 幸いにもコンパクトフラッシュをTypeIIに変換するアダプタが見つかったので、先日Piconaで使った20MBのコンパクトフラッシュで撮り直しました。

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 なにげにすごいのはレンズです。5倍ズームもなかなか使い道がありますが、ワイド端でF2、テレ端でもF2.3(公式の仕様ではF2.4となっているのですが...)という明るさがあります。フィルタ径も62mmもあってなかなか存在感のある立派なレンズが付いています。見た目にコーティングはかなり弱そうですけど。

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 ファインダーの中を覗いてみるとこんな感じです。倍率とかよく分かりませんが、そもそも1/2インチセンサーなので、かなり深い井戸底を覗いている感じです。最初に書いたようにスクリーンはほとんど素通しでピントはよく分かりません。これでMFは絶対に無理だろうと思います。そして一応画面下に液晶で撮影データが表示されますが、経年劣化のためかかなり表示は薄くて見づらいです。表示情報は非常にシンプル。

 ちなみに実は背面液晶によるライブビューも可能です。ただこれも経年劣化なのか、あるいは当時の小型液晶の限界なのか、日中の屋外では直射日光が当たってなくても、何が写っているかほとんど見えないという代物ですので、実用性があったかどうかは怪しいでしょう。また電池への負荷も厳しかったのではないかと思います。なのでデフォルトでは電源を入れても背面液晶はオフしたまま。光学ファインダーを使うのが前提になっていたと思われます。

 正直なところそうはいってもこれじゃぁねぇ... という残念感がたっぷりなファインダーです。視野率もよく分からないですし、これで写真を撮るのは難しいというのが偽らざる感想です。

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 フラッシュはペンタ部にあります。脇のスイッチで手動でポップアップします。但し電池も心配だったので今回は一回も使用しませんでした。

撮影結果

 多機能な分、設定なども複雑で基本的な部分を抑えるのにいくらか試行錯誤しました。幾度かの失敗の末、なんとか撮影に成功しました。ある意味Piconaよりも苦労したと思います(^^;

 ちなみに前回紹介したNEC Piconaとはクラスも違いますし、世代も約1年半ほどずれています。この間の技術の進化も相当大きかった時代だろうと思います。ですので、Piconaに比べると撮影時の操作性は大幅に改善されており、撮るだけなら最近のデジタルカメラとほぼ同じように撮影をすることは出来ました。どんなに井戸底でピントの分からない素通しであるとは言え、撮影するという作業においては光学ファインダーがあるのは非常に大きいです。

 ただAFは非常にのんびりしているし、そもそもピントが合ってるのかどうかもよく分かりません。撮影結果の確認も大きいながらもうす暗い液晶では出先ではあまり役に立たなず、まるでフィルムカメラのように現場では撮りっぱなしで結果はあとで確認する、というスタイルに自然と落ち着きます。まだまだ写真と言えばフィルムが主流だった当時は、もちろんこれでよかったのでしょうね。

 以下、適当に撮ってみた写真ですが、サイズは最大の約150万画素、1344X1024ピクセルです。何枚かはTIFFで撮ってしまったものもあるので、今回はLightroomで書き出していますが、全て無調整の撮って出しと言えるものです。またExifもごく基本的な項目は記録されているようですので、撮影データも付けておきます。

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 晴天の屋外、ほぼ無限遠の風景です。撮影条件は良いのですがこの画質には時代を感じますね。ホワイトバランスも微妙です。

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 もう一枚似たような条件で。東京スカイツリーもなんだかノスタルジックな感じに写ります。

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 最短撮影距離はズーム全域で20cmということで、そこそこマクロも行けるようですが、ピントがどうにも怪しいので少し控えめに近寄って見ました。結果ちゃんとAFは働いたようです。それよりもむしろダイナミックレンジの狭さを感じます。昔の携帯カメラみたいなハイライトの飛び方です。

 そしてやっぱりホワイトバランスが妙です。当然のようにオートに設定したのですが、AWBは時代的にまだまだ開発途上で、使い方としても太陽光固定などで撮ることが前提だったのかも。

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 中距離の被写体。緑の葉っぱにはやや傾いた太陽光が燦々と当たっているのですが、なぜか全体的にかなりオーバー目に写りました。どうもこの時代のデジタルカメラは緑の描写が苦手だったんではないかと思えてきます。

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 日没前の太陽を画面に入れてみましたが、Piconaで起きたようなスミアは発生しませんでした。変にHDRとか出来てしまう最近のカメラよりも、むしろ臨場感を感じるほど素直な写りです。

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 そして日没後の夕焼け空。このカメラはISO感度を100, 200,400の3段階に設定することが出来ます。ISO100のままでは写りそうになかったので、最高感度のISO400に設定してみました。するとすごいことになりました。そういえばこういう画像ありましたね。最近の高解像度なセンサーのノイズとは全く違った粒状感です。これはISO400は緊急用だったと思われます。

感想まとめ

 ということで約18年前の超高級機、しかも一眼レフファインダーを持つデジタルカメラ、SONY DSC-D700を使ってみました。

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 約18年の間に進化したのは、撮像センサーそのものの性能であり、画像処理の技術であり、そして液晶やプロセッサなどの各デバイスの性能であると同時に、デジタルカメラとしてあるべき姿というか操作系の洗練度なども、相当に変化(進化?)してきたことを実感します。

 低解像でノイズだらけで動作がのろいカメラであること以上に「こんなメチャクチャな操作性のカメラがあったのか」という点が印象に残りました。それはプロセッサ能力などの限界でこれ以上はどうにもならない面もあったかもしれないけれど、とにかくコストは度外視し、手に入る技術と最新のデバイスを結集してデジタルカメラを作ってみた、という意気込みは感じられます。

 いまだ「カメラメーカー」としては成熟していなかったソニーの勘違いがそこここに感じられるのも事実ですが、だからこそこんな試作品みたいなめちゃくちゃなカメラを世に送り出せた、というポジティブな面をむしろ評価すべきなのでしょう。NECがパソコン周辺機器としてデジタルカメラを作ったのだとすれば、ソニーはまた別の考えでデジタルカメラを作っていたのだと思います。恐らくA/V機器的な位置づけだったのかも。好き嫌いは別にしても、そのアプローチは結局正しくて、今でもソニーがデジタルカメラの世界で一定のシェアを持っていることにつながっていると思います。

 こうしてみるとデジタルカメラ黎明期は、市場がまだまだ未開拓であったからこそ、そこに出てきた製品はとことん自由だったんだな、と思います。単純にセンサーや液晶やプロセッサなど、各要素技術のレベルが低かったことを半ば笑い、半ば懐かしむというよりは、デジタルカメラとはこういうものだ!という各社の独創的なコンセプトが非常にとんがった製品を生み出していたことに、むしろ20年弱という時代の流れを感じました。

 たまには古いデジタルカメラを使ってみるのも面白いです。フィルムカメラを楽しむのとは時代的にも方向的にもまったく違った世界ですが、むしろ容赦なく過ぎ去った時間の流れを懐かしむことが出来ると思います。

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