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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

惰性で読み続けている佐伯泰英作品シリーズもの二作

読書 佐伯泰英

うぶすな参り 鎌倉河岸捕物控(二十三の巻)

うぶすな参り 鎌倉河岸捕物控(二十三の巻)

享和二年(一八〇二年)の残暑の朝、十一代目の元気な泣き声が、鎌倉河岸に響きわたっていた。金座裏は、「神田明神」へのうぶすな参り(お宮参り)の話題でもち切りだ。そんな折、赤ん坊に蛍をと龍閑川に蛍狩りに出掛けた亮吉たちが、浴衣を着た若い娘の死体を見つけてしまう。手には蛍が入った紙袋を掴んでいた―。政次たちは早速、探索をはじめるが…。金座裏の面々は、人々の平和を守るため、強い結束で今日も江戸を奔る!大ベストセラーシリーズ二十三弾、ますます絶好調。

未決: 吉原裏同心(十九) (光文社時代小説文庫)

未決: 吉原裏同心(十九) (光文社時代小説文庫)

吉原にある老舗妓楼「千惷楼」で人気の女郎が客と心中した。知らせを受けた吉原裏同心の神守幹次郎と会所の番方・仙右衛門は、その死に方に疑いを抱く。真相を究明せんと探索する二人だったが、その前には常に大きな影がつきまとう。そして、吉原自体の存在を脅かす危機が訪れる。幹次郎、そして吉原の運命は―。快進撃の人気シリーズ、一気読み必至の第十九弾。

 どちらも佐伯泰英作の文庫書き下ろしシリーズもの。鎌倉河岸捕物控のほうは早いものでもう二十三巻目、もっと昔から読んでいると思っていた吉原裏同心は十九巻目です。

 「惰性で読んでる」とはひどい言いようですが、実際の所そんな感じなのです。どちらのシリーズも読み始めた当初から大体十巻ぐらいまでは、次が楽しみで楽しみで仕方が無かったのですが、十五巻も過ぎると、登場人物たちにも慣れ親しんできて、新鮮味がなくなってきます。早い話が倦怠期なのかも知れません。そうするともはや当初のワクワク感はなくて、本屋さんの店頭で新刊らしき本を見つけると、何も考えずに手にとってそのままただ流れで読んでしまう状態となっています。

 しかしそんな感じで読むのをやめてしまったシリーズものもいくつかある中、この二作はいまだに読み続ける気になると言うことは、決してその「惰性」もネガティブな意味だけを持っているわけではありません。

 あまりに刊行ペースが早いとついて行けなくなったりしますが、この二作は私にとってはちょうど良いペースです。とは言え、実は今回読んだ二作とも最新刊ではなく、鎌倉河岸捕物控はすでに二十四巻が、吉原裏同心に至っては二十一巻まで発行済み。うかうかしているうちに後れをとってしまったようです。

 さて鎌倉河岸捕物控のほうですが、金座裏第十代目、政次のスーパーマンぶりはますます磨きがかかってきました。タイトルにあるとおり、十一代目となる子供のうぶすな参りが主要なストーリーの軸です。家族親戚縁者を巻き込んでの一大イベントのてんやわんやの様子は、核家族化が進んだ現代に暮らす私にも容易に想像が付き、ほのぼのとしたストーリーを楽しむことが出来ます。それと同時進行する凶悪な事件は十一代目とは関係なく、しかしながら捕物としての主軸でもあります。

 そこには、相変わらず奇想天外な展開を巻き起こす佐伯ワールドは健在です。一介の岡っ引きが事件探索に絡んで、町奉行や御目付に留まらず、老中にまで面会を求め、相談事をするというのですから。それも幕府の根幹に関わる金融事件について。さらっと書き流されていますが、江戸時代ファンにはなかなか刺激的な展開です。いえ、そういった奇想天外なところがこのシリーズの良いところです。あり得ない、などと野暮なことを言ってはいけません。
 
 社会の底辺にいる人間が時の権力者を利用する、あるいは正義の権力が弱き庶民をの味方となり、身分という差を超えた人間関係が協力して悪を倒す... と言った痛快さは、水戸黄門に代表されるいわゆる「時代劇」の面白さに通じるわけで、だからこそ繰り返し繰り返しでも惰性で楽しめるのだろうと思います。

 そして一方の吉原裏同心。鎌倉河岸の政次よりも吉原の「幹どの」のほうが、ずっと魅力的な人物です。もちろんスーパーマンであることには変わりありませんが。今回吉原に発生する事件は二つ。どちらも独立した事件で関連はありません。ミステリーというか捕物帖としても楽しめるこのシリーズ、それが当たり前の捕物帖にあるような、八丁堀の同心や岡っ引きではなく、半ば治外法権の独立国と化したような吉原会所が取り仕切るというところが、このシリーズの面白さの源です。しかも場所は吉原。特殊な社会に起こる事件は、当たり前の江戸の町で起こる事件とはだいぶ事情が異なり、決着の付け方も大きく異なります。

 そんな面白さを今作も十分に楽しめました。しかしよく考えてみると今作のタイトル「未決」が示すように、前半に発生する事件については落ちというか、謎解きが全くされていないのです。なのに消化不良を起こすことなくそのまま読めてしまうあたり、やはり読者たる私は、事件の内容そのものよりも、幹どのたちの一挙手一投足を楽しんでいるからなのでしょう。事件を解決することが出来ず、やけ酒を飲んで酔いつぶれる番方と幹どのの様子を読んだだけで、納得してしまうのです。

 これもまた佐伯ワールドのなせる技。なのでやはりこのシリーズもきっと惰性でこのまま読み進めていくことになるのだろうと思います。

 とは言えあまりに後れをとってはまずいことになるので、なるべく早く追いつこうと思います。