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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

東京のパナマ運河 扇橋閘門一般開放中

日記

 東京都の東部、小名木川の中間に扇橋閘門という施設があります。そもそもこの閘門がなぜ作られたのか、どういう機能があってどういう役割を担ってるのか?ということを説明し始めるととても長くなるのですが、要するに小名木川の東西の水位差を吸収し、船の通行を可能にするための二重の水門からなる施設です。小名木川とは江戸時代初期に行徳から塩や野菜を江戸へ運ぶために作られた人工の川で、もともと水位差はなかったのですが、戦後高度成長期に地下水のくみ上げに寄って江東区東部は大きく地盤沈下してしまいました。その対策のひとつとして扇橋閘門を設置し、小名木川東部の水位をわざと下げているのです。

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 この扇橋閘門は江東区で育った人なら、ほとんどの人がその存在を知っているはずです。それがこの夏の期間中、一般公開されているという情報を聞きつけ、早速見に行ってきました。小学校時代に見学したような記憶があるのですが、良く覚えていません。外からその姿を見たことは何度もありますが、施設の中に入るというのは貴重な体験です。

 以下、見学レポートです、興奮してたくさん写真を撮ってきたので、いつもより写真多めかつ長文です。お暇なときにどうぞ。

いざ扇橋閘門へ

 扇橋閘門は江東区の中央部、猿江にあり、小名木川にかかる新扇橋と小松橋の間に位置します。特に新扇橋からはその様子はよく見えます。
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 その新扇橋からの眺めはこんな感じ。前扉と書かれたこちら側は西側、つまり隅田川側で水位の高い方になります。横の赤い煉瓦が壁に貼られた真四角な建物が監視所。一般公開ではこの前扉とその向こうにある後扉の間にある敷地と監視所に入ることができます。

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 その前におさらい。扇橋閘門の役割がさらっとまとめられた看板。小名木川に沿って東へ行くに従って標高はどんどん下がり、いわゆるゼロメートル地帯が広がっています。地盤沈下と共にかさ上げされ続けた堤防はビルのようにそびえ立ち限界に達しました。そのため地下水の汲み上げを禁止すると共に、これらの水門を設置することで川の水位を下げるという措置が執られました。

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 ということで、やってきました扇橋閘門。ここに入るのははじめてです。渋い施設なので土曜日の日中ですが空いていました。受付のテントではたくさんのパンフレットをもらえます。

監視所見学

 まずは普段関係者以外は絶対に入れない監視所に行ってみます。
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 早速管監視所建物の最上階にやってきました。さっき渡ってきた新扇橋方面を眺めます。小名木川にはたくさんの橋が架かり、一番向こうには新小名木川水門もちらっと見えています。その向こうは隅田川です。

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 監視所には一般公開を見に来た人たちのためにたくさんのパネルが掲げられ、色々な説明がされています。ここで真面目に東京の治水対策について勉強しておきましょう。過去の経緯と現在の状況がまとめられています。江東ゼロメートル地帯で水害の危険が高い地域と言われつつも、私が物心ついてからはどんな大雨でも台風でも、一度もいわゆる洪水を経験したことはありません。知らないところでたくさんの設備が作られ、多くの人が働いて、普通に私たちの暮らしは支えられていることが分かります。

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 とても太っ腹なことに、監視所の中枢部にも入れてくれました。一般公開日とはいえ通常営業中でもあります。職員さんは通常勤務に当たりつつ、色々と説明してくれます。わざわざ注意書きはありませんが、もちろん機器に触ってはいけません。

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 機器はそれなりにクラシックです。扇橋閘門が完成したのは1977年のこと。今から36年前。これらの装置がその時代から使われているものかどうかは分かりません。他の水門が次第に自動化され無人となっているのに対し、ここ扇橋閘門は船の運航状況に合わせ、その都度適切に操作しないといけないので、今でも常駐職員が現場で働いています。安全のためにもここは自動化するのは難しいでしょう。

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 水位計とモニターカメラの画像。外水位が+0.64m、内水位が-0.89mと表示されています。ここで使われる水位の基準はいわゆる標高ではなくて、A.P.(Arakawa Peil) という東京独自の基準が使われているそうです。A.P. 0mとは、中央区新川付近の隅田川の最低水位で、標高でいうと-1.13mほどだそうです。
 船の監視は目視と監視カメラ映像が使われています。カメラはあちこちに設置されており、ブラウン管のスタジオモニターに表示されています。見学中にも突然職員さんが「あ、来たよ」と言って、急に機器を操作し始めました。しかし素人の私には目視でもカメラ映像を見ていても、どこにどんな船が来たのかサッパリ分かりません。

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 さて私もやってきた船を目視確認できました。これからこの船を通すために扉が操作されるとのことなので、外に出てその様子を見てみましょう!

水位調節&前扉オープン

 船の進行方向とその時の閘門の状態次第で手順は変わりますが、基本は常に同じです。船がやってきた方向に水位を合わせてから入り口の扉を開けて船を閘室へ入れ、扉を両方とも閉めて出て行く方に水位を合わせてから、出口の扉を開けて船を出す... だけです。ほら、簡単!

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 船は西側からやってきました。閘門はちょうど東側が開放されていた状態ですので、これをまずは閉めてから水位調整をします。閘室に給排水路(これは地下にあって直接見ることはできません)を通じて西側から水を流し込みます。

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 最初はこのくらいの水位だったものが...

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 あっという間にここまで上がります。

 水位が合ったら前扉を開けて、船を閘室へ入れます。

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 約31トンの重さがある鉄製の扉が上がり始めます。前扉は幅11m、高さは5.9mです。


 前扉が上がっていく様子の動画撮ってみました。バックに流れるアナウンスは一般公開のためというよりは、遊覧船のために行われているもののようです。撮影機材は写真を撮るために持って行っていたPENTAX K-30。レンズはDA18-135mmで、おそらくワイド単。一眼レフで動画撮るのははじめてかも。ふと思いついてやってみましたが、K-30だとモードダイヤルを回すだけなので簡単です。ただ、いつもの癖で動画モードなのにファインダー覗こうとしてしまいましたけど(A^^; それにしてもやっぱり背面液晶は(老眼のせいで)よく見えなくて難儀します。

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 はい、前扉が開きました。ちゃんと水位は合っていたので水面は至って静かなまま。門から大量の水が落ちていますが、これは門に付いていた川の水がしたたり落ちているのではなく、門を揚げる際にわざと真水のシャワーを門に当てているものだそうです。というのも小名木川は海が近いために水に結構な塩分が含まれているため、ちゃんと塗装がされているとはいえ、そのままでは錆が発生しやすいので、その対策として門を開けるときに洗浄を行ってるとのことです。

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 船が閘室に入ってきました。遊覧船のようです。東京スカイツリーができてから東京の運河を巡る遊覧船はだいぶ増えているそうです。傘を差しているのは雨が降っているのではなくて、先ほどの門の洗浄用シャワーを浴びないようにするため。

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 閘室内に入ったら船は壁際に寄ってフックやロープで固定します。基本的には水面は静かに上下するだけなのですが、何か事故があって壁にぶつかると危ないですからね。

前扉クローズ&再び水位調節。

 次はすぐに前扉を閉じて、再び水位を調節します。こんどは東側の水位に合わせるために閘室の水を抜きます。


 再び動画です。さっきと同様、かなり地味です。でも実物は迫力あります。何しろ30トンの鉄のかたまりが上下するのですから。しかし騒音対策がされているのか、動力音は意外に静かです。この動画のバックに流れるアナウンスにあるとおり、この日のこの時間帯は水位差は1.8mだったようです。前扉の開閉には1分30秒ほどかかります。

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 相当に汚れていますが、看板の水位表示です。水を抜き始めた時点でこのくらい。

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 それが静かに、見る見るうちに下がっていきます。

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 はい。さっきの写真と比べるとだいぶ水位が下がり船の位置が低くなってるのが分かるでしょうか? 水位が下がったら後扉が開きます。後扉は幅11m、高さは前扉より高くて7.3m、重さは39トンに達するそうです。

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 遊覧船が出て行きます。後扉にも塩分除去用のシャワーがあるのでやはり傘が開いています。後扉の向こう側では護岸工事が行われているようです。この日は土曜日だったので遊覧船が多かったですが、平日は働く船もたくさん通過していることでしょう。

 ちなみにこの閘門は小名木川を通過する船舶なら誰でも利用できるそうです。通行可能な時間は午前8時45分から午後4時半まで。ただし夏期3ヶ月間は午後6時まで。それ以外の夜間は緊急船舶のみとなっているそうです。

防災対策、ライフラインとしての小名木川と水運

 色々とそれ以外にも見所がありました。特に水運の役割と防災対策等々について、色々考えさせられるものがあります。

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 監視塔の下には非常用の自家発電機があります。30トンもの扉を開け閉めするものですので、流石にかなり大がかりなもののようです。

 職員の方は災害対策についても色々説明してくれました。東京都が管理する各所の水門は、二重三重の安全対策が取られており、電気等が寸断しても操作が可能なようになっている(最終的には自重で閉めることができる)とか、実際に東日本大震災が発生したときには、津波警報が東京にも出たことにより、水害防止用の水門は即座にすべて閉じられたことなどなど。あの日、東北の状況を見て東京都の江東治水管理センターは相当緊張していたそうです。

 交通機関の発達によって江戸時代から使われていた運河は、その役目を終えて埋め立てられてきましたが、逆に今こそ水運はもっともっと使い道があるんじゃないかと感じます。慢性的に渋滞する道路、朝晩は殺人的に混雑し、度々運行停止し混乱する鉄道に対し、第三の交通機関として。あるいは災害時の物流ルートとしても役立つ可能性はあるのではないでしょうか。もちろん津波や洪水など水害との兼ね合いはあるかと思いますが、水の都江戸を再び見直しても良いのではないかと個人的には思います。

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 扇橋閘門脇には防災船着場があります。この日は見学客を乗せた遊覧船が横付けされていました。こういうのもっと活用して、この辺の川岸から竹芝とか品川とか天王洲とか、あるいは羽田空港とかいけたら便利なのに、って思ってしまいます。

おまけ

 ということで、見学記は以上です。以下はおまけです。

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 監視所でお水を頂きました。その名も「東京水」です。噂には聞いたことがあったのですが、飲むのははじめて。いや、正確にははじめて飲む水ではありません。

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 裏を見てみますと... 採水地は板橋の浄水場、原材料には「水道水」とあります。販売者は東京都水道局。そうです、東京都が水道に供給しているお水をボトル詰めしたもの。その場で飲みましたが普通に美味しいです。写真では欠けてますが、それなりにミネラル分が入っていて、硬度は52〜98となっていました。結構硬いですね。

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 扇橋閘門の出入り口からは東京スカイツリーの上半分くらいが見えます。カヌーなどでスカイツリーを見に行くみたいな水上レジャーがそれなりに流行ってきているそうですが、そういったカヌーなどもこの扇橋閘門を通過していきます。実際この日もカヌーで見学に来ている人とかいました。最終目的地はやっぱりスカイツリーだそうです。

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 すっかり長居をしてしまって帰り道。再び新扇橋を渡ろうとしたらまたまた閘門が開いて船が通過していきました。これは東京都清掃局の船のようです。何やら白い発泡スチロールの箱をたくさん積んでいますが、何してるんでしょう?いつものは川の掃除(浮いてるゴミなどを回収する)をしている船だと思います。治水に関しては、本当にたくさんの人が関わって維持されてることを実感する一日でした。(と、優等生にまとめてみる^^;)

 今年の扇橋閘門一般公開は、明日25日と来週30日、31日の残り3日のみです。時間は午前9時半から午後5時まで。入場無料で自由、予約等は要りません。


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