酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2013年F1第6戦 モナコGP

 F1カレンダーの中でも特別かつ特殊なレースと言えばこのモナコGPをおいて他にはありません。伝統のオールドレースにて、そのロケーション、雰囲気、格式などなど、何もかもが特別です。中でも一番特殊なのはコースと言えるでしょう。狭くて壁に囲まれ、舗装も劣悪、くねくねとしたコーナーが連続する超低速にして、わずか4km足らずの短いコースは、現代のF1マシンが走るにはどう考えても適していません。
 ここに持ち込まれたピレリタイヤは、ソフトとスーパーソフトの二種類。他のまともなパーマネントコースではまともに持たないと言われているこれらのタイヤも、この特殊なモナコの公道コースでは、1回ピットストップで行けてしまうのです。だからといって今回はタイヤに問題がなかったわけではなく、やはり1回作戦を確実にするため、超スローペースで進行しました。
 決勝の周回ペースは、予選よりも5秒以上遅く、レース終盤に記録されたファステストラップでさえ、ポールタイムよりも3秒近く遅いのです。F1は今や半分くらい耐久レースと化していると皮肉を込めて言われることがありますが、それはこの特殊なモナコでは特に顕著に表れたように思います。セーフティカーが2回も入ったことも影響していますが、全車が同一ラップでレースを終えるというのも珍しいことだと思います。

「これまでずっと暮らしてきた街で優勝することは最高だ」 ニコ・ロズベルグ/メルセデス

 父はフィンランド、母はドイツ出身で、自分自身はドイツ国籍を持ち、しかしここモナコで生まれ育ったという、文字通り国際人にしてF1界のサラブレッドです。誰が見ても良いドライバーなのは確かですが、これまで優勝とは縁遠く昨年の中国GPで初優勝は遂げているものの、チャンピオン争いとは無縁にキャリアを過ごしてきて、もはや中堅からベテランの域に入りつつあります。
 もちろんこれまで勝てるマシンを手にしていなかったことが大きな要因ですが、そういう意味では今年のメルセデスは「勝てないマシン」の代表格のようなもので、予選では素晴らしく速いのに、レースではメタメタというのがシーズン序盤にしてもはや定説となりつつありました。今回も予選では圧倒的な速さを見せて3戦連続のポールを奪いましたが、やはりレースでは後退するだろうと見られていました。しかし、抜けないモナコのコース特性が幸いしたのと、2回のセーフティーカーへの対応を間違えず、リスタートも上手く決めたこと、そして史上まれに見るスローペースも幸いしたのか、最後までトップを守りきることができました。
 しかし... このロズベルグの見事な優勝に水を差しかねない事件が今やF1界では取りざたされています。それはスペインGP終了後に、ピレリがメルセデスと協力して秘密裏に1,000kmのテストを行ったというもの。モナコの特殊事情があったとは言え、メルセデスのマシンがレッドブルに追い立てられることなく、一定のギャップを守って走りきった裏に、このテストのフィードバックが大きく効いているのではないかと疑われています。確かにもしそうだとしたら、他のチームからすれば不公平だと文句を言いたくなるところでしょう。
 いずれにしろロズベルグには何の責任もなく、レースを見事にコントロールしたことは確かなわけで、彼の優勝の記録とその価値は変わらないことでしょう。しかし何かドロドロしたことが裏では起こるような気がしてなりません。さてさて、F1名物の政治的駆け引きがまた見られるのでしょうか。うんざりという気がする一方で、実は少し楽しみでもあります。

「誰かがあいつを殴れば良いのに」 キミ・ライコネン/ロータス

 誰をって... もちろんセルジオ・ペレスのことです。レース終盤、タイヤにやや苦しみながらも5位を守っていたライコネンに、ペレスがしきりに仕掛けます。しかも危なっかしいやり方で。2回目のセーフティカーが入る直前に、ヌーベルシケインでアロンソを押しだしたことに味を占め、同じアプローチでライコネンを押し出そうとして、実際に追突してしまいました。
 ペレスがリタイヤしたのに対し、幸いライコネンはパンクしたタイヤを交換してレースに復帰。わずか残り10周の間に最後尾から10位まで追い上げて、なんとか1ポイントをもぎ取り、連続ポイント獲得記録をかろうじて守り切りました。しかしここで失ったポイントの大きさを考えると、チャンピオンシップ的には大きなダメージを受けたはずです。
 いつもは冷静なライコネンには珍しく激しい言葉を吐き、ペレスを罵っているのは、チャンピオンシップへのこだわりがあるからなのでしょう。フェラーリ時代には同じヌーベルシケインでセーフティーカー空けに、奇跡的にポイント圏内を走っていたスーティルに追突したことがあります。しかし「あれは単純なブレーキミスだった」として、ライコネンはすぐに自分の非を認めスーティルに謝っています。
 今回はペレスだけでなく同じヌーベル・シケインでは元祖クラッシャーのグロージャンも激しい追突事故を起こしていました。自分のミスの経験があるだけに、ここで無理なバトルを仕掛けていい気になるような下手くそはF1を走るなと、ライコネンは言いたいのではないかと思います。

「接触はライコネンのせい」 セルジオ・ペレス/マクラーレン

 ドアを無理矢理閉められて逃げ場がなくなったと言いたいようです。でも車載カメラで明らかなように、実際ペレスがノーズをインに突っ込む前に、ライコネンはすでにターンインを開始しており、そこに後ろからぶつかっています。その証拠にペレスはウィングの翼端板を失い、ライコネンは左リアタイヤがパンクしているのです。ホイールとホイールはぶつかっていません。それ以前の問題です。
 昨年、ザウバーで何度か表彰台に上るという実績(と巨大なスポンサーマネー)が買われてマクラーレンに抜擢されたわけですが、終盤戦にはあまりにもラフなドライビングが目立ちました。失敗作となった今年のマクラーレンのマシンにいらつき、そのラフさはかなり増幅されているようです。填まると速いけど危なっかしい、と言う点ではグロージャンに近いものがあると思います。
 そういう暴れん坊は常にF1のコース上にはいましたし、それはそれで面白いのですが、一人いればで十分ではないかと思います。


 次回は来週末、ヨーロッパを少し離れてカナダGPが開催されます! 天候も結果もいつも荒れやすいレースですが、今年はどうなるでしょうか。