酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

マイ・ファースト・ニコン

 ニコンのカメラを買いました。しかしこれは私にとっての「初めてのニコンのカメラ」ではなく「初めてのニコンだったカメラ」です。以前「カメラ遍歴:一眼レフ編」で書いたように、私が高校生になったときに初めて自分のカメラとして手にしたのが、このニコンF-501でした。

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 そのF-501はとっくの昔に手放してしまっています。しかしつい先週のある日、フラフラと当てもなく新宿のとある中古カメラ屋さんを覗いていたところ、ジャンク品が投げ込まれた箱の中に、懐かしい見覚えのあるカメラを発見したのです。(以下長文です)

 本能的に手を伸ばしてみると、ボロボロになったF-501でした。ジャンク品ですのでマウントもむき出し。傷だらけのゴミまみれ。急に色々思い出して懐かしさがこみ上げてきます。

 お店の人にお願いして電池を入れてみたところ、シャッターは一応切れるし、ミラーもちゃんと動くし、ファインダー内の表示も出ます。AFは分かりませんがインジケーターは出ています。モルトも傷んではいないようですし、外装も加水分解はしていません。

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 お値段は1,800円なり。正直高いのか安いのかよく分かりません。この時代の銀塩AF一眼レフなど、ジャンクじゃなくてもほとんど値はつかないでしょう。実際に写真はまともに撮れないかも知れませんが、そんなことはどうでも良いのです。最悪飾りとして眺めるだけでも良いので、そのままお買い上げしてしまいました。

 考えてみればF-501は不遇のカメラと言えます。ニコンにとっては本格的なシステムAF一眼レフの初号機であり、AF無しの兄弟機F-301とともにイージーローディング&ワインダー内蔵、DXコード対応など、大幅に近代化、電子化を進めた新世代のカメラでした。垢抜けないデザインのプラスチック製の外装に対し、その骨格にはしっかりしたアルミダイキャストが使われています。意外に重量があり、がっちりした剛性感のある手触りです。

 しかしそんなF-501にとって最大の特徴は「伝統のFマウントであること」でした。設計が古く、増改築を重ねて様々な突起だらけになっていたFマウントのまま、さらに電子接点と駆動カプラーを追加してAF化を果たしたことは、ミノルタやキヤノン(当時まだEOSは存在してませんでしたが)と正反対のアプローチで、ニコンが頑としてFマウントを守っていく意思を見せた重要な製品でした。

 しかし、そのF-501自体はユーザーから見て実に微妙なスペックの中途半端なカメラです。でもその詳細はもはやどうでも良いこと。ここで書き連ねるのは野暮なのでやめておきましょう。

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 さて、こうして連れて帰ってきたジャンクなF-501。一生懸命掃除して磨いたら、意外に綺麗になりました。もちろん傷は消えないし、外装のゴム類もやれています。でも汚らしさは消えて古さだけが残りました。うん、悪くありません。

 マウントむき出しで放置されていた時間が短かったのでしょうか、ミラーボックス内も意外に綺麗ですし、ファインダースクリーンも取り外せるので、中まできっちり掃除。ファインダーもクリアになりました。

 ファインダースクリーンは、今見るとビックリするほどざらついて薄暗いのですが、その分ピントがきっちり見えます。視野率も倍率も大したことない当時の普及機ファインダーですが、APS-Cデジタル一眼の小さなファインダーに慣れていると、そのファインダー像は広大で、浮き立つピントのエッジは美しく見えます。

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 操作系は昔ながらのダイヤルオペレーション。液晶はファインダー内も含め一切使われていません。シャッターボタンの周囲のリングが電源スイッチとドライブモード選択をかねています。シャッターはかなり固いのですが、これがこのジャンク品のコンディションによるものなのか、元々こうだったのかはもはや思い出せません。

 シャッターダイヤルがモードダイヤルを兼ねているのは、この時代の標準的ニコン式オペレーション。なぜかシャッター優先はなく、絞り優先とプログラムのみ。絞りはレンズの絞りリングで操作します。このカメラは「瞬間絞り込み測光」という方式を採用し、絞り制御が正確に出来ない古いレンズでもプログラムオートが可能となっていました。今では絶滅した前時代の露出制御方式ですが、古いニッコールレンズでフル機能を使えるようにするための知恵だったようです。

 そんなこともあって、FマウントのAF機の中でも絞りリングの使用を前提に設計されたカメラはこのF-501(とF4も?)だけだったと思います。F-401以降はボディ側から絞りも制御するようになり、MFレンズとの互換性はかなり希薄になりました。そして最近のニッコールレンズはGタイプになってもはや絞りリングが消えてしまっています。

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 マウントです。長年にわたり少しずつ機能追加を繰り返した結果の、山ほどの機械連動機構はそのままに、AFレンズのための電子接点とAFカプラーが追加されています。ある意味Fマウントの歴史の中でも一番多くのレンズに対応しているカメラかも知れません。この時点ではあまり注目されていませんでしたが、F3AF用のレンズ内モーター駆動も可能でした。

 時は移ろい、Fマウントにはその後もいくつもの機能が追加され、一方で普及機からは古い機械連動機構は省かれつつ、Fマウントはデジタル時代になっても脈々と続いています。一見すると余り変わりなさそうに見えますが、その実、現在主力のGレンズやAF-Sレンズ、VR入りレンズなど最新AFニッコールレンズは、F-501には取り付けられるだけで、まともに使うことは出来ません。変わっていないようでいてFマウントは着実に進化しているのでしょう。

 時代に応じて互換性をある程度保ちつつ、最新機能を取り入れ続けてきたFマウントにとって、もはや問題はその小さな口径と長いフランジバックだけかも知れません。

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 さて、そのAF。ハネウェル製のCCDラインセンサーを使用したもので、AF速度や暗所性能などは今のAFから見たら、壊れてるかと思えてくるようなレベルです。登場した当時でさえすでにα-7000と比べて見劣りがしていました。1年後のEOS650/620登場に至っては、もはや同じ土俵で比べることも出来なくなっていました。

 今になって改めて触ってみると、まるで人間が迷いながらピント合わせをしているかのようで、最初にギュイン!とピントリングを回した後は、ジリジリと行ったり来たりしながらゆっくりピントを合わせていきます。呆れると言うよりは微笑ましいとさえ思えてきます。ファインダー内にはLEDによる大きなピント表示があり、ピント合わせが出来ないときのために×マークまで用意されています。そうそう、この×マークをよく見たよなぁ...と懐かしくなりました。

 AFモードはコンティニュアスとシングルの2モードがあり、マウント脇のレバーで切り替えられるようになっていました。この基本的な操作系はつい最近までニコン機では踏襲されていたものです。コンティニュアスAFとは言え、タイムラグ補正もなく動体追従なんてお話にならないレベルです。

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 裏蓋を明けたところ。ジャンク品でしたがフィルム室は裏蓋の圧板も含めてとても綺麗で掃除の必要もないほど。シャッターを切ればスプールもスプロケットも動くことを確認しました。

 パトローネ室にある接点はDX読み取りのためのものです。懐かしいですね、DXコード。シャッター幕はごく普通のアルミの縦走りシャッターで最高速度は1/2000秒まで。

 右下の電子接点はデータバックMF-19との通信用接点です。MF-19は単なる日付移し込み用のバックではなく、インターバルタイマー機能が追加されるなど、機能拡張バックとなっていました。とても欲しかったのですが結局買えずじまいだった思い出があります。

 右側のフィルムを巻き取るスプールの中に、フィルム巻き上げ用のモーターが入っています。このモーターはシャッターチャージとミラー、絞り駆動にも使用されていたはずです。そしてもちろん、このモーターとは別にAF駆動用のモーターがボディのどこかにあります。

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 しかし外観を見て分かるように、フィルムの巻き戻しは手動でした。巻き戻しレバーが左肩についており、その周囲に露出補正ダイヤルと感度設定ダイヤルがついているという構成は、他のニコンのMF機と全く同じです。

 当時、同様にワインダーを内蔵していたミノルタのα-7000やキヤノンのTシリーズは、巻き戻しもモーター駆動による自動だったのに。ニコン的には最悪壊れても撮影済みのフィルムは取り出せるようにするため、という説がありましたが、そうではなくて単にこの時点では出来なかっただけだと思います。実際手動巻き戻しの方が静かで早かったわけで、実用上はこれはこれで問題ありませんでした。

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 電源は単三電池が4本。ボディの底に電池室があります。液漏れの跡もありません。電池室の蓋を兼ねる底板も意外なくらいに綺麗で傷はほとんどありません。
 蓋は小さなネジで固定されているので電池の交換は結構面倒ですし、底面のほとんどを電池が占めるために三脚穴がボディの端っこに激しくオフセットしてしまっています。私が三脚嫌いになったのはこのカメラのせいではないかと思っています。

 ちなみに電池寿命がどのくらいあったのかは覚えていません。アルカリ電池でもそれなりに動きましたが、ニッカド電池を使っていた記憶があります。電池がへたってくると目に見えてAF速度が遅くなったものです。色々な点でアナログ感覚なカメラでした。

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 ちなみに買ってきたのはボディのみ。上に貼ったいくつかの写真ではレンズがついていますが、これは私の手元にずっと残っていたオリジナル品(私が高校生時代に使っていたもの)です。

 AiAF35-70mm F3.3-4.5という今では絶滅した2倍標準ズーム。F-501と同時発売されたもので、その後リニューアルされて少し鏡胴デザインが変わったりしましたが、私が持っているのは正真正銘の初期型です。性能はともかく、このレンズはボディ内AFモーターがあれば最新のDシリーズのカメラでも使えるはずです。

 いずれにしてもF-501に組み合わせるには一番ぴったりとくるレンズです。思わずジャンク品を買ってしまったのも、このレンズを死蔵していることを覚えていたから。そのジャンク箱の中には、AFニッコールレンズはありませんでした。いかにボディが安く手に入ったとしても、まともに動く中古のニッコールレンズを手に入れようとしたら、むしろそっちにコストがかかってしまうでしょうから。

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 このレンズ、それほど気を遣って保管していたわけではないのですが、カビも生えていないし光学系は今でもとても綺麗です。絞りリング、ズームリング、ピントリングともにスムーズにガタもなく動きます。ただし絞り羽根のグリスが滲みだしています。そのうち固着して絞りが動かなくなってしまうのかも。同じようなことがF-501のボディ内部のあちこちで起きていても不思議はありません。

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 ということで、思いがけず手に入れてしまったF-501。飾りでイイやと思っていましたが、ここまでちゃんと動くとなるとやはり写真を撮ってみたくなるのが人情でしょう。近いうちにフィルムを通してみる予定です。多分、一本撮ったら満足してしまうと思いますが。それでも、忘れ得ぬ思い出のカメラとしてずっととっておこうと思います。なんか、未練たらしいですけど(A^^;