酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

遊女のあと

遊女(ゆめ)のあと (新潮文庫)

遊女(ゆめ)のあと (新潮文庫)

八代将軍・吉宗の時代、質素倹約を強いる幕府に対抗して、尾張名古屋は遊興を奨励し、空前の繁栄を見せていた。異人との出会いから、夫をすて福岡を出たこなぎと、女敵討ちのために江戸を離れた鉄太郎。長い旅路の末に名古屋の地でめぐり逢った二人は、それぞれの秘密を胸に秘めたまま接近する。巨大な政争の具となっていることも知らずに―。著者渾身の傑作歴史時代小説。

Amazon.co.jp: 遊女(ゆめ)のあと (新潮文庫): 諸田 玲子: 本

 久しぶりにガツンと来る小説を読みました。諸田玲子さんの小説は初読です。最近女性作家の時代小説を読むことが増えてきたような気がします。この本は少し前から本屋さんで平積みされていて、タイトルの語感がなぜだか気になっていたのですが、ようやく読む機会が巡ってきました。

 「遊女」とくれば吉原、島原などの花魁を思い出します。しかも文庫版の表紙はなにやら遊郭のような賑やかな雰囲気で人々が描かれています。しかしこの小説は花魁の物語ではありません。表紙には題名に「ゆめのあと」とふりがなが振られています。いったいどういう意味なのでしょうか?

 主要な人物は二人。一人は福岡の海辺の貧しい村に暮らす漁師の女房「こなぎ」。もう一人は江戸の御家人(つまり武士)の高見沢鉄太郎。そして物語が繰り広げられる舞台は尾張名古屋。身分も出身も全く関わりのないはずのこの二人が、なぜ名古屋にやってくるのか? どういう出会いを果たすのか?

 最初は一章ごとに、福岡のこなぎと江戸の鉄太郎、それぞれの独立したストーリーが交互に語られていくのですが、二人のそれぞれの人生はいつしか名古屋に向かい、一つにまとまっていきます。このあたりの展開の面白さ、スケールの大きさ、偶然と必然の絶妙なバランス、そして描かれている世界の奥行きの深さに、ぐいぐいと引き込まれていきます。

 「ガツンと来た」と感じた要因は、ストーリー展開の面白さという点にあるのはもちろんなのですが、それよりも登場人物達、特にこなぎの生き様に感動するからに他なりません。ここでいう「感動」とは、涙を誘うような同情とは別の、何かもっと逞しさというか、人間としての懐の深さ、常に命をかけて毎日を生きる真剣さを感じさせるものがあります。

 この小説は武家社会を描いていながらも、実際の主題は「女」の物語です。そして同時に「ラブストーリー」でもあります。江戸の市井を描いた人情ものとは全く違うこの雰囲気には、読み始めた当初、ちょっと面食らいました。しかしどんどん引きずり込まれてやめられなくなってしまいます。私が読んだことある中では、松井今朝子さんの小説に似た感じだなと感じました。
 これでまた、読まなくてはならない小説がどかんと増えました。うれしい限りです。

 【お気に入り度:★★★★☆】