酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

紫房の十手

紫房の十手―鎌倉河岸捕物控〈17の巻〉 (時代小説文庫)

紫房の十手―鎌倉河岸捕物控〈17の巻〉 (時代小説文庫)

箱根への湯治旅に出かけた宗五郎としほたちの留守中、江戸では、大坂で七人を殺害して逃亡した凶賊の手配書が廻っていた。九代目不在とあって、政次の肩に金座裏の看板が重く圧し掛かる。そんななか、鴫立沢に立ち寄った宗五郎一行。西行ゆかりの地で絵筆を取ったしほは、黒い塗笠姿の武芸者を目撃する。偶然にもしほの筆が捉えたその男は、なんと手配中の凶賊だったのだ。賊の江戸入りを危惧した宗五郎は、政次たちにある一計を託すが―。箱根と江戸を跨ぐ、大捕物の行方は?大好評時代長篇、待望の第十七作。

Amazon.co.jp: 紫房の十手―鎌倉河岸捕物控〈17の巻〉 (時代小説文庫): 佐伯 泰英: 本

 鎌倉河岸捕物控シリーズの第十七巻です。折しもNHK土曜時代劇でこのシリーズを原作とした「まっつぐ」が先週で最終回を迎えたばかり。このテレビドラマは、原作で言うとちょうど第七巻「下駄貫の死」あたりまがカバーされています。恐らくそのうち第八巻以降を第二シーズンが作成されるものと思われます。
 ちなみにこのNHKのドラマ、途中から見始めたのですが、なかなか良くできていました。政次も亮吉も彦四郎もはまり役。豊島屋の清蔵はちょっと私の中のイメージと違いましたが。マツケン演じる宗五郎は文句なし。そして意外だったのが"おみつ"役の南野陽子。素晴らしくしっかりと江戸の女を演じていました。

 さて話を戻して本作ですが、前作と同様に捕り物としてのストーリー展開が非常にしっかりとしていて、その周辺で起こる人間ドラマも厚みが出てきてとても楽しめる素晴らしい娯楽作品になっています。ま、細部を言えば偶然が重なり過ぎとか、いろいろ突っ込みどころはあるのですが、そんな隙を気にする必要がないほど、スッキリと読み切れます。

 金座裏の面々の個性がしっかりと生かされ、事件のからくりが少しずつ明らかになり、結末の大捕物へという定番のストーリー展開。そんな中で今作の目新しいプロットは、箱根へ湯治に出かけた九代目宗五郎と、江戸に残る十代目政次たちの、距離を隔てた中での連携がポイント。連絡手段が限られていた時代のこと、意思疎通のもどかしさというよりも、時間がゆったりと流れる感覚が伝わってきます。

 しかし、このシリーズも初期は独特の雰囲気と緊張感を持っていたのですが、二十巻目到達を目前にしたこの期に及んでは、これはもう典型的な佐伯ワールドになってしまっています。それは、ある意味期待通りで安心して読めるという一方で、どこかで読んだ感が感じられるのも、ちょっと寂しいものがあります。でも、新作が出たらもちろん読んでしまうのですが。

 【お気に入り度:★★★☆☆】