酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

2010年F1第9戦 ヨーロッパGP

 今年で3回目の開催となるバレンシア市街地サーキットでのヨーロッパGP。事実上、今年2回目のスペインGPとも言えます。どことなく市街地コースっぽくはないコース幅、レイアウトのコースなのですが、コース脇には壁が迫り、周囲にはすぐビルや家屋が建ち並ぶ風景はまさしくストリートサーキットのものです。
 市街地コースのレースは荒れるのが定番ですが、過去2回のバレンシアのレースは落ち着いた展開の(もっと言えば退屈な)レースだった記憶があります。それが今回は序盤に起きた大きなクラッシュとそれに伴うセーフティーカーの導入が、多くのドライバーに決定的な影響を与え、ドタバタな展開となりました。

「上位でレースができてすごくよかった」小林可夢偉/ザウバー

 まず、前戦の観戦記で彼を見放すようなことを書いたことを後悔しています。今回の小林可夢偉のレースは完璧でした。何しろ18番グリッドからスタートをして、結果的に10台抜きを演じたのですから。
 今回のようなタイミングでセーフティーカーが入った場合、すぐにピットインしてタイヤ交換を済ませるのが、レース戦略の基本です。しかしなぜか彼はただ一人だけこの間にタイヤ交換をしませんでした。
 それによって一気に3番手のポジションに。トップチームからは大きくパフォーマンスが劣り、信頼性もないザウバーのマシン。後ろには格上チームのマシンがずらりと並んで追ってきます。そのポジションを失うのは時間の問題だったはず。が、彼はレース終盤、4周を残してソフトタイヤへスイッチするまで、そのポジションを守りきったどころか、わずかずつながらもギャップを稼ぎだしました。
 しかもそれだけでは終わらず、ソフトタイヤに切り替えてからの猛攻も見事しか言いようがありません。新品のソフトタイヤを生かし、使い古しのハードタイヤで我慢の周回を重ねるライバル達を面白いように仕留めていきます。
 見た目に派手だったのは最後のソフトタイヤでのオーバーテイクショーですが、実際今回の彼のレースを決定づけたのは、3位のポジションに見劣りしないペースで走り続け、順位を守りきったことにあると思います。
 これはポジションさえ良ければ、彼とザウバーのマシンは上位チーム並みのペースで走れることを証明して見せたと言えるのかもしれません。
 これまでの8戦のレース内容、特に前戦のミスを帳消しにするだけのパフォーマンスは今回で見せられたことは、「唯一の日本人ドライバー」としては大きいことだと思います。いわば、F1界に残された数少ない「東アジア枠」を守るために。

「得意ではないコースで優勝できたのは大きい」セバスチャン・ヴェッテル/レッドブル

 こちらもまた前戦の観戦記で「チャンピオン獲得に黄色信号が灯った」と書いてしまったヴェッテル、今回は見事なポール・トゥ・ウィンでした。
 ここを得意としていない、というのはヴェッテルではなくてレッドブルのマシンが、という意味かと思います。高速コーナーは得意ですが、長いストレートと市街地特有の荒れた路面は、RB6にあまり相性が良くないのでしょう。
 目立ったピンチと言えば、スタートとセーフティカー開けの再スタート時。どちらもハミルトンにあわや抜かれそうなところまで並ばれてしまいました。が、運良くギリギリのところでしのぎ切れました。
 この2回のピンチを除き、フリーな時の周回ペースは明らかに一枚上手だったようです。後半にハミルトンにギャップを詰められたのも、実は彼はマシンを労ってペースをコントロールしていたのではないかと推測します。
 条件さえ整えばやはりヴェッテルはピカイチの速さを見せます。なのに今シーズン、これがまだ2勝目だと聞くと、やはりここまでにいかにたくさんのポイントを取りこぼしてしまったのか、それがむしろ悔やまれてきてしまいます。この勢いで復調すればまだまだチャンスはありそうですが、このまま波に乗りきれるかどうかが、一番の悩みの種ではないかと思います。

「レースが操作された」フェルナンド・アロンソ/フェラーリ

 マシンに大規模なアップデートも施され、いよいよ復調が本物となってきたフェラーリ。予選まではそこそこ好調だったアロンソですが、今回はレース戦略上の不運に泣きました。いや、泣いたと言うよりは怒っているようです。
 アロンソのすぐ前にいたハミルトンが、セーフティーカーを追い越したために、ドライブスルー・ペナルティを受けましたが、そのタイミングが比較的遅かったため、ハミルトンはポジションを落とすことなくコースに復帰し、最終的に2位になりました。
 一方でアロンソはルールを守ったために、タイヤ交換で大きくポジションを落としてしまい、最後には小林にまでかわされるという屈辱を味わい、かなり頭に血が上ったようです。もちろん、これがスペインのレースだったということも大きいのかもしれません。
 同じようなことは以前、シンガポールGPでもありました。ロズベルグがペナルティ覚悟でクローズされたピットに飛び込みタイヤ交換、その後ペナルティを受けても差し引きで大きく得をしたことを覚えています。
 腑に落ちない気はするものの、それもレースとしか言いようがありません。ルールの矛盾は今後話し合いで埋めていくしかないのですから。ゴールラインを割っても審判が見てなければゴールではない、という方がどれほど無情なことでしょう。

 今回のレースは、ハミルトンを含め実に11人ものドライバーにペナルティが乱発されるという結果になりました。そのうち9人は5秒加算という微妙な内容。結果に影響が出たドライバーと出なかったドライバーに、命運はやはり分かれてしまいました。それもレースです。
 安全でフェアなレースというのは重要なことですが、レースがショーである限り、わかりやすさというのもある程度は必要かと思います。ま、たまにはこんな荒れた結果も良いのかも知れませんが。
 次は2週間後、伝統のイギリスGPです。