酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

深川黄表紙掛取り帖

深川黄表紙掛取り帖 (講談社文庫)

深川黄表紙掛取り帖 (講談社文庫)


 時代小説の中でも、私が特に好んで読んでいるのは江戸時代の町人の生活感が溢れる市井もの、特に江戸を舞台にした小説です。北原亞以子、宮部みゆき、佐伯泰英、藤沢周平、佐藤雅美などなど、好きな作家、好きな作品はたくさんあります。

 でも、身近な江戸、深川を舞台にした時代小説と言えば、欠かせない人気作家作品が私の読書歴の中には欠けています。そうです、山本一力を私はほとんど読んでないのです。

 それは昔読んだ作品から、「これは私には肌が合わないな」と感じたから。それ以来手に取らなくなっていました。でも最近になって「やっぱり山本一力を読まないのは損ではないか?」と思い始めました。「肌に合わない」というのは何かの思い過ごしかも知れない。ということで、再挑戦してみることにしました。

 前置きが長くなりましたが、そんなわけで読んでみた山本一力リベンジの一冊がこの本。表紙&タイトルの語感で決めました。が、読み始めて愕然... これ、絶対読んだことある...。しかし、そのままその後を最後まで読み切っても、落ちも含めてストーリー全体はほとんど覚えていませんでした。

 その記憶の薄さが「肌に合わない」に繋がったのかどうかは分かりません。しかし今回改めて読んでみて、これはこれで素直に楽しめる娯楽小説だと感じました。若い四人組で請け負う様々な難しい仕事とその顛末。奇抜なアイディアで世間をあっと言わせるストーリーは痛快で楽しいものです。

 そして、さすがは山本一力作品。富岡八幡宮を中心に冬木、佐賀、平野、仲町、木場、海辺... 馴染みのある地名がぽんぽん飛び出してきます。そして深川っ子の心意気も。

富岡八幡宮への思い入れは、地元で生まれ育った者には格別の深さがある。急ぎ足で名を成した文左衛門と、深川に根付いた御輿の粋の間には、深くて超えられない隔たりがある。

 ここに出てくる文左衛門とは、元禄時代の伝説人物、紀文こと紀伊国屋文左衛門です。紀州出身の彼は蜜柑船で江戸に出て材木商として大成功をした後、深川界隈に多くの足跡を残しています。そのひとつが富岡八幡宮に寄贈された三基の御神輿。残念ながら実物は関東大震災で焼失してしまったそうです。

 架空の四人の若者の活躍を中心にしつつも、紀文伝説と深川文化をテーマにした裏のストーリーもとても楽しめます。うん、これなら十分に読めるはず。ということで、遅ればせながら、これから少しずつ山本一力作品も手を付けていこうかと思います。

 【お気に入り度:★★★☆☆】