冷戦時代に逆戻りし緊張感が高まってきたチャンピオンシップ:F1 2017 第9戦 オーストリアGP

投稿者: | 2017年7月13日

 夏休み前の7月は、例年前半戦の追い込みとして、F1のレースが立て続けに行われます。昨年は7月中に連戦続きで4レースも行われましたが、今年はドイツGPがなくなった影響か、1レース少ない3レースが予定されています。その7月連戦最初のレースがA1リンク改めレッドブルリンクで開催されたオーストリアGPです。そのトラック名の通り、ここはレッドブルの本拠地となります。

 ただ残念なことにこのコースをレッドブルが買収し、名実ともにホームレースを開催するようになったのは2014年のこと。ターボ&ハイブリッド時代になり、ベッテルはチームを去り、レッドブルの常勝時代は終わっていました。とは言えレッドブルはF1に真剣に取り組んでいることに変わりはなく、どこぞの巨大自動車メーカーのように、勝てないからと言ってわずか2年でホームレースを投げ出してしまったりはしていません。

 今年もメルセデスとフェラーリの一騎打ちとなっている中、トップ4台に何かあれば、すかさず割って入る位置にいるのはレッドブルです。そろそろホーム初の表彰台が欲しいところではないかと思います。

 さて、メチャクチャなことになった前戦で、ハミルトンに体当たりをしたベッテルですが、この2週間の間にいろいろな情報が飛び交い、追加のペナルティが下される可能性が取りざたされていましたが、結局のところこれ以上のお咎めはなしと言うことで決着したようです。少なくとも表面上は。しかし、序盤にはあんなに仲良くじゃれ合っていたハミルトンとベッテルは、もはや目も合わせない関係になっています。

Max Verstappen / Red Bull RB12 / 2016年 日本GPKONE6057.jpg
 この二人が先々週の事件後、仕切り直しとして改めてコース上で戦うことになるわけで、何かが起こるのか起こらないのか? どっちが勝つのかが注目されました。

「かなりエキサイティングなレースになった」 ダニエル・リカルド

 ホームレースでようやくレッドブルが表彰台に上がる日が来ました。わりとパワー依存のコースなので、非力なルノーのパワーユニットを積むレッドブルは不利とみられていましたが、スタートでライコネンをオーバーテイクすると、そのまま安定して3位を走り続けます。

 常識的な1回ストップ作戦をとったリカルドに対し、ギアボックス交換で8位からスタートしたハミルトンは、途中にウルトラソフトを挟んだ2回ストップ作戦という奇襲をかけてきました。その作戦は当たりだったのかハズレだったのか分かりませんが、最後の2周は3コーナーでサイドバイサイドになるくらいまで、3位争いは白熱しました。

 圧倒的にパワーのあるメルセデス、しかもドライバーはハミルトンでDRSを得ているとなれば、リカルドは絶体絶命でしたが、持ち前のスーパーレイトブレーキングを駆使したのか、なんとか順位を守り切り、1.4秒差でチェッカーを迎えました。

 直後に無線で流れてきたのは興奮して喜ぶというよりは、疲れ果ててしかし笑いが止まらないと言った感じのリカルドの声。上位2チームがリタイアしたわけでもないのに、表彰台に上がれたのは望外の結果だったことでしょう。

 一時期は若いフェルスタッペンに押され気味に見えたベテランのリカルドですが、やはり経験の差というかレース感覚に優れていて安定した結果をリカルドの方が出すのが最近目立ちます。

 チームメイトのフェルスタッペンは最近流れがとても悪く、今回もスタート直後の1コーナーで、他責とはいえクラッシュに巻き込まれてしまいました。オランダからの大応援団はさぞかしがっかりしたことでしょう。

 しかし若くて勢いのあるフェルスタッペンと、経験豊富なリカルドという組み合わせのレッドブルは、なかなかバランスの良いチームだと思います。あと、少しだけパワーユニットに力があれば…。後半戦のチャンピオンシップの行方を左右する、ワイルドカードになりそうです。

「間違いなくこれまでで最高のスタートだった」 ヴァルテリ・ボッタス

 ハミルトンにペナルティがあろうとなかろうと、正真正銘予選で最速タイムを出してポールポジションを獲得したのはボッタスでした。そしてレースも完全に支配し、事実上トップを譲ることなくチェッカーを受け、キャリア2回目の優勝を遂げました。

 トップチームに移籍して、チャンピオン経験者に囲まれた中でレースを戦い、初優勝をすることは非常に重要な一歩でしたが、その後もコンスタントに勝ち続けることは、自身がいずれチャンピオンへの挑戦権を得るのに重要なことです。

 こうして実績を積んでいかないことには、ハミルトンにサポート要員として認定され、前戦のように「ボッタスのペースを落としてベッテルをブロックしろ」などと横柄なことを言われ続けかねません。

 さて、ボッタスにとってのハイライトはスタートでした。2番グリッドにいたベッテルが「あれはフライングだ」としつこく言っていたほど、完璧なスタートでした。反応時間は0.201秒。陸上と同じように、見込みスタートは禁止されているので、反応時間が0.2秒を切るとフライングと判定されてしまうそうです。

 だとすると実質的な反応遅れは僅か1/1000秒という、ほぼ完璧なスタートだったことが分かります。その後のホイールスピンも最小限に抑え、ゆとりを持って1コーナーをクリアしていきました。

 しかし思ったほどギャップを築くことはできず、最終スティントではタイヤに苦しんでいたのか、ベッテルに激しい追い上げをくらい、チェッカーを受けた時点で僅か0.6秒という僅差でした。あと1周あれば… というのはベッテルの弁ですが、さてどうなっていたことでしょう。

 ボッタスは地味にポイントを重ねてきて、気がつけばハミルトンに対し15ポイント差です。このままチャンピオン争いに絡んでくると、色々面白いことになりそうです。

「最初のコーナーで1メートル余分に進む必要はない」 フェルナンド・アロンソ

 ようやく待望のスペック3が投入されたホンダのパワーユニットですが、残念ながらアロンソのマシンにはフリー走行で問題があったのか、結局土曜日には古いスペック2に戻されてしまいました。

 しかしその予選ではQ2に進み12番グリッドを獲得。決勝スタートではもたつくトロロッソをかわし、一気にポイント圏内に入ったと思った矢先、そのかわしたはずのトロロッソに追突され、フェルスタッペンも巻き込んだ多重クラッシュとなってしまいました。

 彼のコメントは追突してきたクピアトに対するものです。大混乱の前戦でも「みんな一度落ち着くために赤旗にすべきだ」とチームを通じてレースコントロールに進言していましたし、それ以前にもアロンソは、若いドライバー達に対し、闘争心だけで前のめりになってラフなドライビングをするべきではない、と良く苦言を呈しています。

 こういうシーンは何十年も前から繰り返されてきたもので、ベテランと若手の間に常に存在する世代ギャップなのでしょう。

 さて、予定通りスペック3を決勝まで使ったヴァンドーンは13番グリッドからスタートし、12位でフィニッシュしました。途中青旗無視のペナルティも受けていますが、この結果にがっかりするべきなのか、期待を持つべきなのかなんとも言えません。

 あと数戦、少なくともアロンソが最後まで走りきるところを見てからでないと判断できなさそうです。とりあえず私は期待しておきたいと思います。

次戦は早くも今週末

 次のレースは現代に残るF1のクラシックコース、イギリスGPです。その舞台はもちろんシルバーストーン。最近またイギリスGPも先行きが不安視されていますが、数年前にもあった大人の駆け引き最中なのだと思いたいです。とはいえ、ドイツGPやフランスGPの例もあるので予断は許しませんが。

 いずれにしろ、多くのチームにとってのホームレースであり、ハミルトンにとってもホームとなります。これ以上ポイント差がつくのはまずいですし、全力で巻き返しを図ってくるはずです。さてさてどうなることでしょうか?

カテゴリー: F1