メルセデス炎上:F1 2014 第11戦 ハンガリーGP

投稿者: | 2014年7月31日

 ドイツGPに続き2週連続開催となったハンガリーGPは、天候の不安定要素もあって何もかもが予想通りに進まない、波乱の連続となりました。ハンガロリンクはパーマネントサーキットでありながら、モナコのように平均速度の遅い低速サーキットとして有名です。しかもコース幅が狭く、20年以上前からオーバーテイクが難しいと言われ続けたトラックでした。

 そんな中でレースを進めるに当たって何よりも重要なのはポジション取りです。特にスターティンググリッドは重要で、多少スピードで劣っていても、前にさえいれば防御することは出来ると思われていました。しかし、今回のレースが終わってみれば、そんな定説も覆されるような内容だったと思います。つまり、とても面白いレースでした。

 今回のレースではMVPに該当しそうなドライバーが3人いました。その3人はそのまま表彰台に上がっています。いずれも定説からすれば、優勝争いには加われそうにないポジションから上がってきた3人です。

「初優勝のときと同じくらい嬉しい」 ダニエル・リカルド/レッドブル

 前回のレースの感想でウィリアムズのボッタスに関して「メルセデスに何かあったとき真後ろにつけていれば優勝できるかも」と書きましたが、その幸運を拾ったのは、カナダ同様に今回もリカルドでした。いや、今回の勝ち方は単に幸運を拾ったわけではなく、半分は実力と言えるのかも。

 彼のレースを決定づけたのは1回目のセーフティカーのタイミング。これによってロズベルグ始めトップ3を一気に逆転してしまいます。これは純粋な幸運だったと言えるでしょう。

 そして圧巻だったのは最終スティント。タイヤをフレッシュなソフトに交換してコース復帰後、熾烈な争いを繰り広げるハミルトンとアロンソを立て続けにオーバーテイクしてしまいます。この抜きにくいハンガロリンクで、しかもいかにタイヤが新しいとは言え、決して速いとは言えない今年のレッドブルで。

 運の良さはさておき、この勝負強さは目を見張るものがあります。チャンピオン経験者を相手に堂々とクリーンなバトルを仕掛けて、勝ってしまうのですから。

 色々ときな臭さが漂っているメルセデスの様子を見てると、後半戦でも彼が表彰台の頂点に立つ姿が見られるかもしれません。

「最も難しい場面でも最善の判断を下し、あらゆる機会を最大限活用した」 フェルナンド・アロンソ/フェラーリ

 彼もまた1回目のセーフティカーによって幸運を享受したドライバーです。それによって、またもや平凡に終わるかもしれなかったレースが、急遽優勝を狙えるポジションに躍り出ることが出来ました。

 そこでどういうレースをするか? が重要なわけですが、保守的な決断しか下しがちで、それが裏目に出ることが多い最近のフェラーリにあって、今回はアグレッシブな戦略をとってきました。アロンソは本来3回ストップをするべき所を、最後のピットインを取りやめてステイアウトすることを選びます。

 コース上の状況に合わせて、素早く判断を下し適応する能力にかけては、アロンソは依然として現役ドライバー中でも最高の力を持っています。現代F1においては、ドライバーがレースを主導することは決して良いこととは言えませんが、かといって、実際にマシンに乗っているドライバーの判断は、無視できるものではありません。ましてや、トラックから遠く離れたイタリアでレース戦略を練るなんて、バカげたやり方よりはずっとマシなはずです。

 今回はそうでなくてもコース特性がフェラーリに向いていたようです。それは燃費的にきつくないなど、フェラーリの持つネガティブな要素が影響しにくいと言うことも含めて。そのことは、完全に判断を誤り予選で17位に沈んでしまったライコネンが6位まで追い上げた素晴らしいレースぶりを見ても言えると思います。
 
 ただし、フェラーリとアロンソにとってネガティブな部分があったとすれば、これで3戦連続でレッドブルとコース上で対決し、敗れてしまったことかもしれません。メルセデスに何かが起きても、自分たちが勝てる可能性は依然として低いことも同時に証明されてしまったわけですから。

「なぜチームが僕に譲るよう言ったのか理解できなかった」 ルイス・ハミルトン/メルセデス

 ハミルトンにとっては、たくさんの深刻な出来事が次から次へと起きた週末でした。ハイライトはなんと言っても予選でのマシン炎上。マシンのリアエンドから炎が上がり、マシンを止めたいのにブレーキがきかずに空走するマシン。がっかりした以上に恐怖すら感じたのではないかと思います。

 しかしレース結果を見れば、ピットスタートから素晴らしい追い上げをして表彰台を獲得したことは見事としかい言いようがありません。2回のセーフティカーも味方しましたが、序盤はマシンの挙動が安定せず、これはダメなんじゃないか?と思わせておきながら、終盤気がついたら優勝争いをしていたわけで、どこからでも勝てる可能性を見せつけたことになります。

 しかし順位よりも重要な成果は、ロズベルグに勝てたことです。ロズベルグは楽勝出来る条件がこれだけ揃っていたにもかかわらず、1回目のセーフティカーによって、トップの座を失ったあとは、すべての歯車が狂ってしまったようです。

 そして今回、メルセデスチームは数々の失敗を犯しました。ハミルトンのマシンが予選で炎上したこともそうですし、レース終盤に戦略の全く異なる二人が接近した際に、ロズベルグを前に出せ、とハミルトンにチームオーダーを発したこともそうです。

 チームとしては、単純にロズベルグのピットイン後の位置を気にしていたのでしょう。しかし結局チームオーダーは無視され、ロズベルグは押さえ続けられたにもかかわらず、ライコネン、マッサを軽々とオーバーテイクし、最後はハミルトンに再び追いついてしまいました。

 結果的に、ハミルトンがチームオーダーを無視したことは正しかったとされ、チーム側が間違っていたとされていますが、実際そうなのだろうと思います。それは、新しいソフトタイヤの威力を見誤ったという点においてであり、そういう意味では終盤にステイアウトしたチーム、ドライバーはすべて失敗だったのでしょう。

 いずれにしろハミルトンにとっては面白くない出来事です。こういう微妙な場面は終盤戦になるにしたがってどんどん増えてくるはずですが、メルセデスにはチャンピオン獲得を狙う二人のドライバーをコントロールする能力について、不安を抱かせる結果となってしまいました。

 夏休みの間に改善すべきは、マシンの信頼性とともにレースマネージメントがメルセデスチームにとっては何より重要となってきそうです。

 約1ヶ月の夏休みをおいて、次のレースはスパ・フランコルシャンで行われるベルギーGPです。ヨーロッパラウンドもそろそろ終盤戦で、アジアツアーが近づいてきます。

カテゴリー: F1