2011年F1第6戦 モナコGP

投稿者: | 2011年5月31日

 F1カレンダーの中でもオールドコース中のオールドコースにして、もはや現代F1にはまったく適さないはずの劣悪な市街地コースでありながら、一方でもっともF1らしいとも言われる伝統のモナコGP。オーバーテイクがほとんどできないコース特性に加え、DRSもKERSも効果が危ぶまれるとともに、今年のレースの常としてタイヤの使い方は非常に重要となります。
 レッドブルのベッテルが勝ちすぎているといわれているチャンピオンシップですが、その一方でレース内容自体は毎戦非常に白熱して面白くなっています。そしてモナコGPもその例に漏れませんでした。波乱に満ちたレースは展開がめまぐるしく変わり、集中してテレビ中継を見ていても、レースの流れの全てを把握するのが難しいほどでした。



 今回は気になったドライバーを適当にピックアップしています。まずは何といっても素晴らしいレースをした日本人ドライバーですよね(^^;

「もう10位にはなりたくない」 小林可夢偉/ザウバー

 フリー走行や予選では苦戦し「このコースは好きではない」と公言していた小林可夢偉は、チームメイトのペレスの欠場により、グリッド順が一つ上がって12番手からのスタート。過去2戦で最下位から10位に入りポイントを獲得していましたが、今回も素晴らしい堅実なレースを展開し、最終的に5位でチェッカーを受けました。それも上位が総崩れしたわけではなく、上にはレッドブルが2台とマクラーレン、フェラーリが1台ずつ。つまり3強の一角に食い込んでの5位です。しかもここはモナコ。この結果の素晴らしさは単に「日本人として」の枠を越えています。
 作戦について「タイヤ交換はなるべく少ない回数に抑える」と太っ腹にも事前のインタビューで語っていました。幸運もあってその戦略は見事にあたり、途中のセーフティカー導入もうまく生かして1ストップ作戦を敢行。ウェバーやハミルトンを従えての終盤の走行は見事でした。
 赤旗中断によりタイヤを交換しての再スタートとなり、純粋なマシン性能でかなわないウェバーに抜かれてしまいました(それにしてもウェバーは下手くそです。相手をコース外に押し出してやっと抜いていくのですから)が、タイヤが摩耗した状態であればレッドブルさえも抑えきれたのかもしれません。あるいは、残り5周での再スタートが妥当だったのかどうか?という問題もあります。
 いずれにしてもこれこそがレースと言うことなのでしょう。最後の最後でポジションをひとつ失ってしまったとはいえ、レース後のインタビューでは彼は上機嫌でした。
 初戦こそマシンの違反で結果が取り消されてしまいましたが、それも入れたら今シーズン6戦連続の10位以内完走。どんなコースでも、どんなコンディションでも、どんな展開でも結果を残すこのレースの上手さは本物です。チームの信頼もますます篤くなり、来季に向けてのシート争いでもかなり有利になるはず。ザウバーは恩のあるチームではありますが、日本人らしい浪花節にとらわれず、自身の夢、全日本人F1ファンの夢のために、できる限り上へとステップアップしてほしいものです。

「よいショーを見せようとしていただけ」 ルイス・ハミルトン/マクラーレン

 ベッテルにとって最も懸念すべきライバルであるはずのハミルトンですが、今回はまるで数年前に逆戻りしてしまったかのような、ラフなバトルとドタバタなレース展開を見せました。予選で失敗したところから歯車が狂いはじめ、決勝がスタートしてからも何もかも期待通りには運ばず、その反動で「こんなはずではない」という失望とともに焦りが全面にでてしまったのでしょうか。
 ハミルトンの弱点はタイヤに厳しいドライビングとか、いろいろ言われますが、一番は「精神面の弱さ」なのではないかと思います。プラス方向へのプレッシャーにはそれなりに強いけど、マイナス方向には弱い…。そんな気がします。
 挙句の果てには、レース後に悪態ともとれるような数々のコメントを残し、とどめは(被)人種差別発言。それはともかく「F1はショーだ」というこの発言自体は基本的に正しいのですが、かと言って接触の末に相手を壁に激突させるようなラフなバトルは、F1に期待される「ショー」では決してありません。
 レース中にカッとすることはもちろん、レース直後もまた興奮が収まらないうちは、インタビューの受け答えを間違うことは、いくらトップドライバーといえどもありえることでしょう。見事なバトルによって抑えきられてしまった腹いせに、相手に拳を振り上げるような元チャンピオンもいるわけですから。
 それにしても、レース終盤テレビ中継の解説者が心配していたとおり、最後の最後に小林可夢偉の真後ろに迫ったハミルトンが、三たびラフなオーバーテイクを仕掛けなくて良かったです。

「ここはクレイジーだ」 セバスチャン・ベッテル/レッドブル

 今季5勝目にしてモナコ初優勝を遂げたベッテル。モナコ・ウィナーの称号はチャンピオンとして彼に唯一欠けていたタイトルと言えるのかもしれません。ポールからスタートし、先行逃げ切りを決めるのに順調な滑り出しを見せていましたが、最初のピットインに失敗。一転してバトンを追いかける展開になってしまいました。
 しかし1回目のセーフティーカーを経て、急遽ワンストップ作戦へ変更したというレッドブルとベッテルの作戦はきわどい状況に。2度目のセーフティーカーがなければどうなっていたかは分かりません。それでも持ちこたえた確率は高いと思いますが、いずれにしても中断再スタートが彼にとっては有利に働いたのは確実です。そもそも、ペトロフをはじめとする多重クラッシュに巻き込まれなかったのも幸いでした。
 今回は結果的に上手く行きましたが、状況を見て急遽奇襲作戦にスイッチしつつ、終盤に追いつかれて苦しくなってくるという状況は、中国GPとほとんど同じ展開でした。レッドブルの作戦能力はまだまだ低いのではないかと思います。もちろん、ピットインのミスが一番大きな影響を及ぼしたのは間違いありませんが。
 いずれにしても、難しい展開でめまぐるしく状況が変わり、一瞬たりとも気を抜けないレースで上手く綱渡りをし、多くの幸運にも助けられてトップチェッカーを受けたのは、やはり彼の勝負強さの表れだと思います。先行逃げ切り以外のレースができることを、前戦とはまた違った形で証明して見せたわけで、バトルや駆け引きに弱いとはもう誰も言わなくなることでしょう。

 中継をしてくれているだけでありがたいこともあって、最近はあまりフジテレビへの文句を言わないようにしていたのですが、今回の地上波放送の実況と編集はあまりにもひどかったと言わざるを得ません。大げさにショーアップするのも良いですし、間違いや興奮したコメントも、ある程度まではライブ感があって良いとは思います。
 しかしドライバー名の間違いを連発した上に全く訂正なし。しかもレースの重要なポイントをカットしてしまう編集は、どうかと思います。今回は国際映像が良くなかったという面はあるとは思います。しかし、終盤の多重クラッシュの発生状況と、その後クルマから出られなくなってしまったペトロフの様子、そしてレースが一時中断された結果、各チームがタイヤ交換を含むマシンのメンテナンスを行って、最後の5周が仕切り直されたことは、もっとしっかりとはっきりと時間を割いて放送するべきです。
 そこがばっさりカットされてしまった今回の放送では、最後の5周でなぜこうなったのかが分からないままいきなりチェッカーを迎えてしまいました。日本人ファンは小林可夢偉の順位にしか興味がないというわけではありません。

 さて、次回は2週間後。大西洋を渡って唯一のアメリカ大陸でのレース、カナダGPです。

 なお、モナコGPのリザルトはこちらです。

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