おたから蜜姫

投稿者: | 2010年10月28日

おたから蜜姫 (新潮文庫)

おたから蜜姫 (新潮文庫)

隠密姫君、今度は千年の謎に挑む!存続危ぶまれる讃岐の小藩に、仙台藩62万石から結婚話が舞いこんだ。その条件は「かぐや姫が求婚者たちにねだった宝物を持参すること」(ただし本物)。え、竹取物語っておとぎ話じゃないの?若武者姿も凛々しい蜜姫さまの、冒険好きの血が騒ぐ。忍び猫タマ、愛書家の母・甲府御前も大活躍。吉宗、伊達家を相手に三つ巴の財宝争奪戦が始まる。

 久しぶりに米村圭伍さんの文庫新刊が出ました。タイトルからも分かるようにこれは「おんみつ蜜姫」の続編です。今回も破天荒な暴れ姫、蜜の冒険物語となっています。父親は温水藩主乙梨利重、その側室で母親の甲府御前、飼い猫のタマ、甲府御前お気に入りの若い熊野忍び笛吹夕介、蜜の許嫁である風見藩主時羽光晴、蜜の子分となった船頭の五平と船乗りの雲吉。これらのあり得ないくらい風変わりな周辺人物達も健在です。

 あり得ないほど突飛な人々が織りなす、あり得ないほど突飛な物語。ですます調の文章で、小気味よく流れるこの物語は、基本的には落語的にコメディっぽい雰囲気を醸し出しています。しかし、その中で語られている”筋”は実に硬派な内容。前作「おんみつ蜜姫」は、徳川吉宗にまつわる有名なスキャンダル、天一坊の事件を異説で解き明かしつつ、なぜか甲斐武田家の滅亡の歴史へとつながってゆく、歴史ドラマとなっていました。

 今作も蜜のお転婆ぶりを存分に生かした冒険活劇である一方で、裏では日本人なら誰でも知っている昔話、「かぐや姫」こと「竹取物語」の謎を解くというテーマが貫かれています。多くの文献を引用され、江戸時代からさらに何百年も遡った奈良時代の歴史が事細かに分析され、解説されています。途中でいったい何を読んでいるのか分からなくなるほど複雑で難解になる瞬間があります。でも、分かりづらければ、それらは流してしまっても実はこの小説は十分に楽しめます。なにしろ、かぐや姫にまつわる「おたから」を探すという、これ自体が一つのお伽噺なのですから。

 ところで「竹取物語」に隠された謎というのはいったい何なのでしょうか?それは読んでのお楽しみです。言われてみれば「なるほど!」と思う点が多々あります。そして、蜜姫たちはどういう結論に達するのでしょう? 前作の天一坊事件の謎や、「紀文大尽舞」で扱われた紀文の謎解きよりは、もっと力が入っているように思えます。

 ページ数も多く、思いがけず歴史の勉強をさせられ、読み進むのに時間がかかりましたが、読後感はスッキリしていて文句ない娯楽小説です。

 【お気に入り度:★★★★☆】