銀二貫

投稿者: | 2010年9月25日

銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫)

銀二貫 (幻冬舎時代小説文庫)

大坂天満の寒天問屋の主・和助は、仇討ちで父を亡くした鶴之輔を銀二貫で救う。大火で焼失した天満宮再建のための大金だった。引きとられ松吉と改めた少年は、商人の厳しい躾と生活に耐えていく。料理人嘉平と愛娘真帆ら情深い人々に支えられ、松吉は新たな寒天作りを志すが、またもや大火が町を襲い、真帆は顔半面に火傷を負い姿を消す…。

 高田郁さんの文庫最新刊です。高田さんの小説は友人から借りた「出世花」しか読んだことがありません。最近本屋さんでは、高田郁さんの作品は目立つ場所に平積みされてることも多く、良く目にするのですが、何となく手を出していませんでした。それは「出世花」が気に入らなかったからではなく(むしろその逆なのですが)何となくタイトルの語感にピンとくるものがなかったというか何というか…。

 しかし、なぜかこの本にはピンと来ました。「銀二貫」とくれば、お金が絡んだ話に違いありません。いや、そういったドロドロしたイヤらしい話を期待したのではなく、何というか前向きで威勢のいい部分がある物語ではないかと、そんな気がして手に取ってみました。

 物語の舞台は大阪。寒天問屋を営む和助に拾われた少年、鶴之輔あらため松吉が主人公です。彼が寒天問屋で働きながら、仕事に目的を見いだし、人生に夢見ながら成長していく過程を通じて繰り広げられる人間ドラマです。現在でも広く普及している寒天という食品の成り立ち、大阪の商人達と天満宮を信仰する大阪の町人達の風俗、若者達が繰り広げる青春恋愛ドラマ、そして江戸と同じように大阪でも恐れられていた火事の被害…。

 何度も何度も打ちのめされながらも、そのたびに目標と夢に向かって立ち上がっていく松吉と周囲の人々を描きつつ、全体的に非常にシリアスで悲しい出来事が頻発するドラマでありながら、なぜか悲壮感が漂うことがありません。

 私は捻くれたところがあるので、この本に描かれている松吉のような、純真で真面目一筋な人物像があまり好きではないのですが、なぜか彼のことはすんなりと腑に落ち、心の底から応援する気になれました。

 それは、この物語を読み進める私自身の目線が、主人公の松吉ではなく、彼を銀二貫で買った井川屋の主人、和助と同じ位置にある為ではないかと思います。漫然と寒天問屋を営んでいた和助の目を覚まし、まるで自分の子供のように見守ってきた松吉。松吉の夢はいつしか和助自身の夢になります。

 だからこそ、最後の和助の言葉にウルッと来てしまうわけです。ある意味大阪商人らしいその一言は、この物語にとってこれ以上ないオチとなっています。

 【お気に入り度:★★★★☆】