酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

完璧なる母国グランプリ:F1 2017 第10戦 イギリスGP

 モナコGPと並ぶ、F1にとって伝統のクラシックレース、イギリスGPが行われました。フランスで始まったF1の歴史(というか4輪自動車レースの歴史)は、現代ではイギリスで最も発達しているとも言えそうです。というのも、現在F1に参戦しているチームの多くが、その親会社やオーナーの国籍にかかわらず、活動の本拠地をイギリスにおいています。

 それは各チームのルーツをたどると、そのほとんどがイギリス人が興したプライベーターに行き着くからに他なりません。現在トップチームとして君臨するメルセデスでさえ、その祖は6輪マシンで有名なティレルから始まっており、そのティレル時代と同じブラックリーのファクトリーを今でも使っています。

 同様に、レッドブルはジャッキー・スチュワートが始めたチームが元になっているし、フォース・インディアはエディ・ジョーダンのチームがベースになっているし、ルノーでさえもテッド・トールマンのチームのなれの果てだったりして、現在でもそのままイギリスにファクトリーを持っています。

 もちろん、元の名前のまま変わらず活動を継続しているマクラーレンやウィリアムズは純血イギリスチームなのは言うまでもありません。純粋にイギリス外のチームと言えば、スイスのザウバーと、イタリアのフェラーリおよびトロロッソだけかも知れません。ハースはアメリカに本部がありつつ、同時にイギリスにもファクトリーを置いています。

Lewis Hamilton / Mercedes F1 W07 Hybrid / 2016年 日本GPKONE2211.jpg
 ということでイギリスグランプリは多くのF1チームにとってのホームレースです。それだけでも特別なレースであることが窺えますが、それよりもイギリス人ドライバーにとってのホームレース、との意味合いの方が当然ながら強いようです。

「非の打ちどころがない」: ルイス・ハミルトン

 そりゃそうでしょう。唯一心残りがあるとしたら、この流れで一気にベッテルを逆転してポイントリーダーになれなかったことくらいかと思います。それ以外は何もかも理想的で完璧なグランプリとなりました。

 メルセデスはフリー走行から好調でフェラーリもレッドブルも寄せ付けません。そんな中で唯一鬱陶しい存在として浮上してきたチームメイトのボッタスは、ギアボックスを壊してグリッド降格ペナルティを受けるとなれば、ハミルトンにとってほとんど敵はいないに等しいです。

 残る心配は天候です。多くのドライバーが雨を期待していましたが、ハミルトンだけはドライを望んでいたはず。そしてその願いは叶い、微妙な雲行きながら決勝は最後までドライを保ち、足下をすくわれたり、タイヤ交換タイミングをミスしたりという、荒れた展開になることはありませんでした。

 その上でスタートを完璧に決めたとなればレースは決まったようなものです。2位をずっと追いかけてきたライコネンとの差は思ったほど開きませんでしたが、印象としてはトップ独走と言える危なげないレース展開に持ち込むことが出来ました。

 自分の個人的な好き嫌いのせいか、何となくハミルトンはアンチヒーローとして見てしまいがちですが、イギリス人F1ファンからすれば、紛れもない自国の正統派ヒーローに違いありません。これだけ多くのF1チームを生み出してきたイギリスですから、ファン層も厚く成熟しているのだと思いますが、こんなに熱狂的にサーキット中がハミルトン一色になるとは、ちょっと意外な気がしました。

 でも冷静に考えてみればそれは当たり前のことです。母国レースで自国ドライバーが大活躍したときの熱狂ぶりはどこでも同じで、それは2012年の鈴鹿でも自分自身の体験として実感があることです。

 ですから、これは毎年書いてるような気がしますが、イギリス人F1ファンが羨ましくて仕方ありません。いつか、またそう遠くない将来に鈴鹿に魔法の瞬間が再来することを願いたいと思います。

「今日は素晴らしい日ではなかった」 セバスチャン・ベッテル

 確かにベッテルにとっては散々なレースとなりました。ですが、最悪だったわけではありません。3番グリッドからスタートし、スタートでフェルスタッペンに抜かれ、その後なんとか表彰台圏内を取り戻したものの、レース終盤にボッタスに追い付かれ、それでも何とか4位は確保したかと思った矢先、チームメイトのライコネンに続いて、ベッテルの左フロントタイヤもパンクしてしまいました。それもファイナルラップの1周前のことです。

 シルバーストーンは右回りの超高速トラックで、左フロントタイヤに厳しいと言われていましたが、フェラーリの2台が揃ってレース終了間際の同じタイミングで左フロントタイヤを壊したのには、偶然ではない理由があるのでしょうか? ベッテルだけであれば、ボッタスとのバトルでタイヤを傷めた可能性もありますが、2台揃ってとなるとフェラーリのマシン特性になにかあるのでは?と疑いたくなります。

 もしそうだとするとフェラーリにとっては、後半戦に向けて頭の痛いことになりそうです。これまでは、タイヤに厳しいのはメルセデスの方で、フェラーリはタイヤを上手く使えることを武器にして戦ったきた面があるわけですから。それが失われてしまうと、手も足も出ないと言うことになってしまいます。

 最終的にベッテルは7位でチェッカーを受け6ポイントを獲得したわけで、悪いなりに持ちこたえたと言うべきなのかも。でも、レース展開を考えると取れるはずのポイントを次々に失っていった感はかなり大きいはずです。

 その結果、ハミルトンに一気に19ポイント巻き返され、わずか1ポイント差でかろうじてポイントリーダーに踏みとどまっています。しかし、現在のメルセデスの好調さと、フェラーリの不調さを比べると、先行きはあまり明るくないというのが最大の問題で、現状のポイント差とか順位というのはベッテルにとってはあまり意味のあることではないのだろうと思います。

「あれがエンジンにダメージを与えず、今後も使い続けることができればよいと思う」:フェルナンド・アロンソ

 つまりは、これ以上グリッド降格ペナルティを受けるのはごめんだ、と言うことです。

 ここはパワーサーキットなので、ホンダには辛いレースだと始めから分かっていたけれども... というコメントを聞くのはいったい何回目でしょうか? その昔のホンダと言えば、パワーだけでマシンを走らせていたみたいな面があったのに、現在のホンダは、いまだパワーが不足している上に信頼性は著しく悪化している状況から脱していません。

 そんな中でも今回、アロンソにとって一つハイライトがあったとすれば、予選のQ1でトップタイムを記録したこと。これはウェットから急速に乾きつつある路面コンディションにおいて、最適のタイミングで最適なタイヤで、唯一アタックできたからであって、決して奇跡が起きたわけではありません。それでも、今はこういうチャンスをとにかくものにしていくしかないのだろうと思います。

 ホンダにとってのハイライトは、アロンソのチームメイトでスペック3を使うバンドーンが、予選でQ3に進出したこと。このパワーサーキットで、しかもアロンソの熟練の腕に頼らず上位10台に入れたことは、アロンソがQ1でのトップタイムを記録したことよりも、よほど重要なことに違いありません。

 しかしアロンソは結局レースでは良いところがないまま下位を争った末に、トラブルでリタイアしてしまいました。そして8番グリッドからスタートしたバンドーンも、結局レースペースは完全に不足していて、ずるずると順位を下げてノーポイントに終わってしまいました。

 何というか、実際のところどうなのか分からないのですが、少なくともファン目線から見ている限りにおいては、ホンダには全く良いところがなく、希望も持てず、もうダメなのかも知れないな、と悲観的なことを思ってしまいます。

 次戦は超低速サーキットのハンガロリンクですが、そこで仮に少々良い成績を残したところで、もはや「そうじゃない」感しか残っていないし、もし万が一また信頼性問題でメタメタだったら、いったいどうしたら良いのか... と、ため息しか出てきません。

次戦はハンガリーGP

 2週間空けて7月最終週に行われるのは、ハンガリーGPです。これが終わるとF1は約1ヶ月の夏休みに入ります。前半戦を笑って終えるの誰なのか? 山ほどの宿題を抱えてしまうのは誰なのか? しっかりと見届けたいと思います。