酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

史上最もカオスで低レベルでしかも最高に面白かったレース:F1 2017 第8戦 アゼルバイジャンGP

 F1はカナダから再びヨーロッパに戻り、第8戦目となるアゼルバイジャンGPが行われました。いや、アゼルバイジャンってヨーロッパなのか? と基本的な地理が分かってないほど縁のない国ではあります。

 と、その前に... 第7戦のカナダGPはちゃんと観戦したのですが、色々タイミングを逸して感想エントリーを書けないまま次のレースを迎えてしまったので、このまま第7戦はスキップしたいと思います。スミマセン。

 それにしても面白かったですね、アゼルバイジャンGP。内容はおよそ世界最高峰の4輪レースとは思えないほど低レベルで酷いものでしたが、私個人的にはここ10年の中では3本の指に入るくらいに「面白い!」と思えるレースでした。

 首都バクーの市街地コースで行われるF1レースは今年で開催2回目。新興国レースの中でも最も新しいレースです。市街地コースは過去にも現在にも色々ありましたが、ここの路面は石畳ではないかと思えるような、石造りの建物に囲まれた旧市街の細い裏路地を走り抜けるコースは、かえって斬新です。

 というか、よくもここがF1規格の国際レースのサーキットとして認証されたものだと思います。昨年はみんな恐る恐る走っていたのか、比較的穏やかなレースでしたが、今年は大荒れに荒れました。途中3回連続でセーフティカーが導入され、さらには赤旗中断したときは、ここでF1を走らせるのはやっぱり無理ではないか? と確信したものです。

Lewis Hamilton / Mercedes F1 W07 Hybrid / 2016年 日本GPKONE5466.jpg
 しかしそんなクラッシュ続出だけではなく、前代未聞の珍事が続発しまくります。こんなレースは見たことありません。タイトルの「史上最も」は感覚的なもので、似たような大混乱のレースは数々ありましたが、天候要因ではないのにこんなに荒れたのは珍しいことです。

 カナダGPを飛ばした反動ではないのですが、今回はコメントを引用したいドライバーが山ほどいるので、かなり長いです。

「ハミルトンがブレーキテストをした」セバスチャン・ベッテル

 なんと言ってもこのレースの最大にして最高の珍事、見所はこれです。

 この問題のシーンをベッテル側から見てみましょう。

 1回目のセーフティーカー明けに、フェラーリの2台はトラクションがかからず、1コーナーで後ろの車に仕掛けられてしまいます。ベッテルは何とか守り切りましたが、ライコネンはオーバーテイクされてしまいます。フェラーリのマシンはタイヤの温度管理に手こずっていたのかも知れません。

 その轍は二度と踏むまいと、2回目のセーフティーカー中、ベッテルはかなりタイヤの熱入れに意識を奪われていたのではないかと思います。だから、ブラインドの直角コーナーを曲がったら、そこに加速しないハミルトンがいるなんて思ってもいませんでした。いつも通り、コーナーの途中から加速体勢に入っていたベッテルは堪らず追突してしまいます。

 ハミルトンが自分の目の前でブレーキテストをしたと思い込んだベッテルは激高し、車をハミルトンの横に並べ拳を振り上げ猛抗議します。それだけならまだ良かったのですが、なんとベッテルはマシンをハミルトンのマシンに横から体当たりさせてしまいます。これはかなり余計な行為でした。

 中継映像で見ると、そのマシンの挙動からわざとステアリングを切ってぶつけたようにも見えましたが、ベッテルの車載カメラを見れば、そうではなくて怒りに我を忘れたために、ステアリングの操作が疎かになり、うっかりぶつかってしまっただけにも見えます。

 いずれにしろ、この行為に対しベッテルには10秒のペナルティが出されました。ことの重大さから考えて、このペナルティはかなり軽く済んだ方だと言えるでしょう。わざとだったら論外ですし、わざとじゃないとしても(恐らくそうだと思いますが)、もっと遙かに重いペナルティが下る可能性もあったと思います。結果的にこの接触の直接の影響がレース結果に結びつかなかったことが幸いでした。

 ベッテルは基本的に愛想が良くてナイスガイなのですが、昨年あたりから「キレる」シーンが目立つような気がします。その怒りがもたらす影響はかなり甚大で、確実に彼のレーシングキャリアを傷つけているとしか思えません。フェラーリがどの程度彼の手綱を握っているのか分かりませんが、基本的なこととして「アンガーマネージメント」のトレーニングを受けさせるべきじゃないかと思います。

 頭に血が上っても6秒待てば良いそうですから、何らかのアクションを取るのは、せめて2コーナー待てと...。

「セーフティカー先導中のペースをコントロールしていた」 ルイス・ハミルトン

 今度はハミルトンの目線で考えてみましょう。

 1回目のセーフティカー先導中にちょっとした失敗をしたのは、フェラーリの2台だけでなくハミルトンも同様でした。ただし、タイヤの熱入れやマシンのペースには問題ありません。先頭を行く彼にはセーフティカーとの距離を一定範囲に保つことも要求され、それに少し失敗していたのです。ペナルティにはなりませんでしたが、FIAから注意が来たことがチームから無線で伝えられます。そもそもセーフティカーのペースは遅すぎてかえって危険だ、とハミルトンは不満を持っていました。しかしFIAには逆らえません。

 なので2回目のセーフティカーでは、ハミルトンはペースコントロールに気を取られていたのだろうと思います。その結果15コーナーで減速しセーフティーカーとの距離を取ろうとします。ブレーキは踏んでいませんが、アクセルを緩めたところでベッテルが追突してきます。

 追突されたあげくに横に並びかけて激しく怒るベッテルを見て困惑したことでしょう。そればかりか体当たりされたのだから堪ったものではありません。幸いこの二人の2回にわたる接触の結果、マシンに深刻なダメージを負うことはありませんでした。むしろ幸いなことに、その後赤旗中断になったために、多少壊れた部分は修理することが出来ました。

 ただし、ハミルトンに取っては不幸なことに、レース再開後にベッテルとは無関係なところでヘッドレストが壊れ、余計なピットインをしたために優勝を逃してしまいまったうえ、結局ベッテルに負けてしまうという、踏んだり蹴ったりのレースとなりました。怒りのやり場はベッテルにぶつけるしかないでしょう。10秒ペナルティは軽すぎると。

 ハミルトンとベッテルはお互いを尊敬し合い、チームが違うだけにコース上では思い切り何の気兼ねもなくバトルができ、正々堂々とチャンピオンシップを争う良きライバルであるかのように振る舞ってきましたが、今回の件はかなりの遺恨を残すのではないかと思います。序盤戦で見せてきたような和気藹々とした姿はもう見られず、F1らしいドロドロとした感情が渦巻くどす黒い戦いになりそうです。

 それはそれでF1らしくて楽しみで仕方ありません。

「1レースで2回もリタイアした」 キミ・ライコネン

 大荒れの今回のレースの中でも、最大級のドタバタ劇を演じていたのがライコネンです。オープニングでボッタスに当てられてしまったことで、大きく順位を下げてしまった上に、2回目のセーフティーカー明けに、前をゆく2台のフォースインディアの同士討ちに巻き込まれてリアタイヤがバーストし、リアウィングとフロアを大破させてしまい、リタイアを余儀なくされました。ここでライコネンのレースは終わったかに見えました。

 一度はマシンから降りたものの、その直後に赤旗中断となり、チームはこの間にマシンを突貫工事で修理することを決断。30分に満たない赤旗中にフロアまで交換されたマシンは、再びコースに復帰することに成功します。

 その時点で既に2ラップダウンでしたが、レースはまだ半分残っている状態でした。これだけ荒れたレースですからまだ何が起こるか分かりません。そんなわずかな可能性にかけ、短時間でフロア修理するフェラーリもすごいですが、そのマシンに慌てて飛び乗って「ステアリングホイールをよこせ!」と叫び、慌てふためくアイスマンの姿もなかなか珍しい光景だったように思います。

 残念ながらその後結局マシントラブルにより、今レース2回目のリタイアを決断しました。でもそこは実際のところ、ポイント圏内まで戻れそうにないことが分かった時点で、レースを止めたのだろうと思います。

「あらゆるカオスと赤旗のあと表彰台に手が届くと感じていた」 ダニエル・リカルド

 予選で奮わず10番手からスタートした上に、ブレーキダクトのトラブルで序盤に予定外のピットインを余儀なくされ、ほとんど最下位からレースをスタートしたも同然となったリカルド。しかもここは市街地でありながら、長い直線があるパワーサーキットです。ホンダと並んでパワーの足りないルノーを積むレッドブルのマシンにとっては苦手としているはずのトラックです。

 そこで表彰台どころか、その頂点に上り詰めてしまったのだから笑いが止まらないことでしょう。その様子はレース後の彼の笑顔によく現れていました。

 彼の言う通り序盤は本当にカオスでした。ある意味、ほぼ最後尾にいて「カオス」に巻き込まれなかったがために、このサバイバルレースに残れたのかも知れません。いえ、そこにはもちろん彼のドライビングがあってこそ。特に再スタート直後にウィリアムズを2台まとめて1コーナーで仕留めたブレーキングは、リカルドにしか出来そうにない素晴らしいオーバーテイクでした。

「フィニッシュ・ラインを史上最も僅差でサイド・バイ・サイドで越えた」 ランス・ストロール

 ウィリアムズのペイドライバー。大金持ちの父親が18歳の息子に買い与えたシートと言われ、実際にシーズン序盤は、超ベテランのチームメイト、マッサのタイムにまったく届かず、レースでも良いところがなく、いくら金を積んだと言っても、これは早晩クビになるのでは?とみていたファンは多かったことでしょう。はい、私がその一人です。

 ある意味彼も今回の「カオス」をくぐり抜けて生きのこった一人です。しかし、そのサバイバル力はなかなかのものでしたし、終盤に猛烈なスピードで追い上げてくるボッタスとの戦い方もなかなかのものでした。

 通常のコースなら最終ラップの1コーナーを過ぎれば、ほぼ順位は確定したも同然です。しかしこのコースは最終コーナーからフィニッシュラインまでが長く、その間十分にDRSが利くという特性があります。

 恐らくストロールは最終ラップの最終コーナでミスし、トラクションをかけられなかったのでしょう。最後の直線で横に並ばれ、フィニッシュラインを超えるほんの少し手前でボッタスに抜かれてしまいました。その差はわずか0.1秒です。これが本当に記録上、最も僅差のレース結果だったのかは分かりませんが、そうであってもおかしくなさそうです。

 それでもチームは大喜び。彼自信も大喜び。父親は泣いていました。久々の表彰台を名門ウィリアムズにもたらしたわけですから、それが棚ぼたであろうとなかろうと、F1ドライバーにとって重要なのは、取れるポイントを確実に、最大限に取ることと考えれば、彼の成し遂げた仕事は素晴らしいもので、序盤戦は練習だったと言っても許されるレベルではないかと思います。

 ここまで来たら、今シーズン残りのレース内容が彼の将来を決めることになりそうです。もう少し真剣にフォローしていきたいと思います。

次回はオーストリアGP

 カオスを生きのこったと言えば、マクラーレン・ホンダのアロンソも、このパワーサーキットを走りきり9位フィニッシュ。今シーズンの初ポイントをようやく獲得することが出来ました。しかしそこにはあまり前向きな評価はないでしょう。ホンダはとにもかくにも新スペックのパワーユニット投入が待たれます。カナダから延期されたままですが、いよいよ次戦で投入されるようです。

 その結果如何では... マクラーレンの、というよりホンダの今後が決まってしまうのではないか?と思うとちょっと怖い気もしますね。

 次のレースは2週間後、レッドブルの地元オーストリアGPです。