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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

後にも先にもKマウントのフラッグシップと呼べるのはLXだけかもしれない

カメラ ZEISS

 新年早々にカメラを買ってしまいました。もちろんPENTAXです。でもデジタルではなくて今更ながらフィルムに手を出してしまいました。その経緯は追々説明するとして、今回手に入れたのはフィルム時代のPENTAXフラッグシップ機として、1980年に発売され2001年まで販売されていたPENTAX LXです。ちょうどニコンからはF3が、キヤノンからはNew F-1が出てきたMF一眼レフの全盛期、今よりはまだ老舗カメラメーカとしての地位がPENTAXブランドにもあった時代に、旭光学が創立60周年を記念して渾身の力を込めて作り上げたのがこのLXです。

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 AF世代の機種はほとんどジャンク扱いしかされなくなった今の時代、Kマウントをフィルムで楽しむとなると、結局はメーカーを問わず、この世代のMF最高級機に落ち着いてきます。私もPENTAXユーザーとして、ようやくLXにたどり着くことができました。

MZ-Sの故障

 そもそもLXを手に入れるきっかけとなったのは、MZ-Sが壊れてしまったからです。以前よりフィルムのKマウント機として持っていた一台なのですが、正直なところ使っていてあまり楽しいカメラではなく、ほとんど使わずに死蔵していました。

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 それを久しぶりに引っ張り出してきたのは、昨年末に買ったZEISS T* Distagon 2/35mm ZKをフィルムでも使ってみようと思いついたから。


 このZEISS ZKはKAマウントに対応しているので、MZ-Sで普通に全ての露出モードが使えます。最初はシャッターが切れなくてあれこれ悩んだのですが、MFレンズを取り付けた場合でも、AFモードスイッチをちゃんとMFにしておかないと、ピント優先レリーズ機能が生きていて、合焦判定されない限りシャッターが切れない、というだけのことでした。

 よし、動作確認できたぞ、ということでフィルムを買ってきて装填し、いざ撮影に出かけよう... と思ったら何やらファインダー内がおかしなことになっていました。やけに暗い上に、ピントが画面の上下で違っていて、それでも無理矢理画面中央でピントを合わせると、無限遠のはずなのにピントリングの指標は1m付近を指していたり。

 AFレンズに付け替えてみても同じ状態で、しかもAFはまったく機能しません。むなしくレンズが1往復するのみ。で、色々見てみたところ、どうやらミラーの駆動系が壊れてしまい、ミラーが下がりきらず中途半端な状態で浮いてしまっていることを発見。シャッターを切ればクイックリターンはするのですが、その後ちゃんと正しい位置にミラーが戻ってこないのです。


 Twitterにつぶやいたら、色々な情報を頂きました。どうやらこの現象はミラー駆動系のギアが欠けてしまうという、MZシリーズに特有の故障モードだそうです。

 もちろんメーカーではもはや修理できないし、直してまで使いたいカメラでもないので、寿命と思ってあきらめることにしました。あまり使ってやらなかったことが悪かったのかどうか分かりませんが、今までありがとう!MZ-S!

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 「ジャミラ」と呼ばれた独特な外装デザインは、PENTAXのデジタルカメラ試作機のベースともなりました。時代背景とその奇妙な姿と微妙なスペックから、PENTAX迷走時代の象徴のように言われる不遇のカメラでもあります。

 でも今こうして見直してみると、かっこいいですよね、これ。いやいや、本当に。最近出てくる最新鋭のデジタルカメラが軒並み保守的な姿をしてるので、一周回って未来を感じさせると思います。いやいや、本当ですって。

そしてLXを手に入れる

 ということで、フィルムでZEISSを試してみる、という思いつきが頓挫してしまった上、ほとんど使ってなかったくせにフィルムのKマウント機が1台もない、と言う状態がどうにも不安に思えてきました。

 こうなるともうMZ世代は同じことになりかねないし、それ以前のZシリーズはいまやジャンクでしかお目にかかりません。PENTAXに限らず中古フィルムカメラの主流は、ずっと時代を遡ってMF世代のものか、さらにずっと古いクラシック機が中心になっているようです。

 となると、Kマウント的にはMシリーズかLXか、その辺に自然と落ち着きます。どのくらいの相場なのだろうと、雨の新宿を散歩しながら中古カメラ屋さんを巡っていると、LXの完動品で概ね3〜4万円台と言ったところ。チタン外装の特別仕様は20万円超えのコレクターズアイテム。Mシリーズはピンキリという感じでした。

 MXあたりが可愛くて良いなぁ、と思ってブラブラ見ていたあるお店で、激安のLXに出会ってしまいました。

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 プライスタグは1万5千円。後期型でFA-1W付き。もちろん安いのは理由があって、ファインダーのロックレバーが壊れているらしく、なかなか外れないとのことでした。お店のおじさん曰く、入荷した当時はがんばれば外れたんだけど、この前試したらもう外れなくなっていた、とのこと。それで値をグッと下げたそうです。

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 ファインダーを覗いてみたら、ゴミはそれなりにあるものの、ちゃんとスクリーンは見えるし、露出計にも問題はなさそう。その他の動作は一通り完動するし、ダイヤル類の動きも見た目のやれ具合に対して、とても滑らかでかっちりしているし、巻き上げレバーの感触もしっとりしてガタも引っかかりも感じられません。モルトやゴム部品の類も大丈夫とのことでした。

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 ただし、相当に使い込まれた個体らしく、外装は傷だらけ。特に底蓋はガリガリです。いったいどんな扱いをしてきたのやら。でも、どこかに死蔵されていたのではなく、使い込まれていたのだとすれば、そっちの方が動作面では信用できるかも? と良い方に考えることにしました。そもそもこの世代のカメラに新品同様の美品を求める方が間違っていますから。

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 右肩には特徴的なシャッターダイヤルがあります。こうしてみると、K-1はじめ最近のKシリーズのダイヤル外周部のローレットパターンは、このLXのダイヤルをモチーフにしてることに気がつきます。シャッターボタン周辺のガードはシャッターロックのスイッチを兼ねており、このスイッチの形状が後期型の特徴でもあります。巻き上げレバーはもちろん分割巻き上げ対応。というか、手巻きは懐かしいですね。

 ちなみにシャッターは電子式と機械式のハイブリッドで、X接点より高速側は機械式、低速側は電子制御。機械式をベースにしながらも、スローシャッタのための複雑な減速ギアを廃した効率的な仕組みです。当時ライバルのニコンF3は完全電子制御の最先端仕様でしたが、キヤノンNew F-1はLX同様にハイブリッド式でした。電池がなくてもシャッターが切れる、と言うところが売りになっていた時代です。

 さらに、重要なことなのですがPENTAXの防塵防滴の歴史はこのLXから始まっています。レンズ側の対応がどうだったのかよく分かりませんが、LXのボディ単体では防塵防滴および低温動作保証を行った、恐らく初めてのカメラじゃないかと思います。その防塵防滴のDNAは現在のKシリーズまで受け継がれていることはご存じの通り。実に35年以上の歴史があるわけで、PENTAX機の耐候性能はその辺の防滴風カメラとは違うのです。

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 左肩には巻き戻しクランクと、露出補正兼ISO感度設定ダイヤルがあり、それぞれ個別にロックボタンがあります。この辺はこの時代のカメラを触った経験があれば、説明書を読まなくても何となく使い方が分かります。

 なお、問題のファインダーロックは露出補正ダイヤルロックボタンの周囲にある小さなレバーで操作します。ファインダー側に押しながらペンタ部を引っ張ると、スルッと外れるはずなのですが、確かにこの個体ではロックされたままでなかなか動く気配がありません。まぁ、ロックできずにスカスカと言うわけではないのでよしとしましょう。

 ファインダー交換機構は当時のフラッグシップ機だけに許された特徴的な機能でした。LXにも8種類ほどの交換ファインダーがラインナップされていたようです。でも、今となってはほとんど手に入らないでしょうし、ファインダーを交換する必要もありません。ギミックとしては楽しいのでやってみたいですけどね。

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 と納得していたのですが、カチャカチャやってるうちに偶然スルッとファインダーが外れました。レールとか綺麗だし動きも滑らかです。次はいつ外れるか分からないので、今のうちファインダー内をしっかり清掃しておきました。

 ファインダーユニットのFA-1WはFA-1の改良型で、視度調節範囲がマイナス側に広げられています。しかしこんなところに視度調節ダイヤルがあるなんて!

 なおLXがF3やNew F-1に決定的に負けていたのは、ファインダー視野率が100%ではなかったこと。縦方向98%、横方向95%という微妙な数字でした。ちなみに倍率はFA-1またはFA-2で0.9倍でしたが、このFA-1Wでは0.84倍になってしまいます。K-1のファインダー倍率が0.75倍しかないところから考えると、FA-1Wでも夢のような高倍率ですが、当時は0.9倍越えのカメラは当たり前にありました。その差は覗いてみると明らかです。

 レンズが描き出した映像がフワッとスクリーンに浮かび上がる様は本当に綺麗です。一眼レフバンザイ!

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 FA-1Wを取り外した本体側を見てみると、ファインダー内表示用の指標が見えます。ペンタプリズムで左右反転されて右側に見えるわけですが、シャッターダイヤルの設定が青いバーで示され、露出計がはじき出した適正値は、その横の小さなLEDで表示されるようになっています。

 ニコンF3では確かファインダー内表示に液晶を使っていて、経年機では表示の劣化が目立つ部分だそうですが、LXはそういう心配はなさそうです。

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 マウントはもちろんKマウント。電子接点などがない一番プレーンな仕様です。LXはマニュアルと絞り優先モードのみなので、カメラ側から絞り値を制御する必要がなく、これで問題ありません。ファインダーFA-1Wの下部には小さな窓が付いていて、ファインダー内でレンズの絞りリングの位置を見ることができるようになっています。ニコンとかもこういうのありましたね。

 ちなみにファインダー交換式でありながら、ファインダースクリーンはマウント側から交換するようになっています。一応、特殊な工具は不要なので外して掃除をしておきました。ちょっと傷を付けてしまいましたけど。装着されていたのは標準のスプリット&マイクロプリズム付き。位相差センサーの原理が目で見えるこのピント合わせ機構に久々にお目にかかりました。これがあればMFでもピント合わせなんて簡単です。

 ちなみに露出計はボディ側にあるので、スクリーンはどんなものを使っても露出に影響しないようになっているそうです。

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 外装はボロボロですが、さすがに裏蓋を開けると綺麗です。巻き上げスプールはマジックニードル式。注目はシャッター幕で、見ての通り分割幕ではない横走り式シャッターで、どうやらチタン製だそうです。横走りシャッターはX接点が遅くなって、動体歪みが出やすいですが、信頼性の問題からか、ニコンF3もキヤノンNew F-1も横走り式シャッターを採用していました。

 なお、このLXを買ったカメラ屋さんの話によると、Mシリーズも人気はあるし、信頼性も高いが、スプロケットが滑ってコマ送りがうまくいかない固体が増えているとのことでした。LXはあまりそういうことがなく、やはりフラッグシップ機は機械的にもしっかり作られているとか。まぁ、半分はセールストークかも知れませんが。

付属品

 購入したLXにはちょっとした付属品が付いていました。

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 まずはこれ。LXのボディをよく見て貰うと分かる通り、ストラップ取り付け環がありません。ボディ前面に金具が出っ張ってるだけ。ストラップを付けるにはこうした専用クリップが必要でした。片方は表面の化粧板が剥がれてしまっていますが、中身は実は金属製でわりとしっかりした部品です。これを取り付ければ普通にどんなストラップでも取り付けられます。

 ストラップはつけるかどうかも含めてちょっと検討したいと思っています。

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 もうひとつがマウントキャップ。ロゴ含め基本的なデザインは現在も販売されているものと変わってないのですが、このLXに付属してきたマウントキャップは、裏に"ASAHI Opt. CO,. JAPAN"の文字入り。現行品は"JAPAN"のみで、もちろんASAHI...なんで文字は入っていません。そして、現行品はマウントロックピンが刺さる穴が空いており、キャップを取り外すのにもリリースボタンを押さないと外れないようになっているのですが、このキャップにはそういった穴はなく、テンションだけで固定され、捻れば外れるようになっています。

 現行品はK-1付属のリニューアルしたボディキャップにそのうち置き換わっていくかと思いますが、こういう細かい部分にもPENTAXの歴史が見て取れて、この古いマウントキャップが付いてきたことがちょっと嬉しいです。

レンズを付けてみる

 さて、ここまではボディ単体を見てきましたが、レンズを付けてみましょう。

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 まずは当初の目当てだったZEISS T* Distagon 2/35mm ZKです。LXよりも遙かに新しい時代のレンズですが、まるで違和感がありません。超しっくり来ます。ボロボロとは言えレンズにボディがまったく負けていません。これは眺めてるだけでうっとりしてしまいますね。

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 さらにこういうのもアリですよね。FA77mmF1.8 Limitedです。これも時代が違いますが、大きさと言いデザインと言いしっくり来ます。AF用に設定されたトルク感のないピントリングだけが惜しいです。

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 FA77mmを見ていると、やはりシルバー仕上げよりはブラックペイント版が似合うかな?と思って、FA43mmF1.9を付けてみるとこんな感じに。かなりコンパクトになりますし、やはりブラック仕上げのレンズはに合います。うーん、素晴らしい。

 なお、これ以外に私の手持ちレンズでLXで使用可能なのは、FA31mmF1.8AL LimitedとFA50mmF1.4と、MZ-Sに付いていたFA24-90mmくらいです。DAやDFAレンズは物理的には取り付け可能なはずですが、絞りリングがないので撮影は出来ません。いや、最小絞り専用であれば使えるのかな? まぁ、そうだとしても意味ないのでどっちでも良いです。

フラッグシップ 35年ぶりの出会い

 ということで、80年代の古き良きMF一眼レフの時代を懐かしく思い出しながら、色々LXについて調べて書いてしまいました。当時の私はニコン小僧でしたので、LXのことは知っていましたが、正直なところ「欲しい」と思ったことはありません。もちろんF3にも手が出なかった子供のわたしにLXが買えたわけでもありませんが。

 改めてLXを見直してみて思ったことは、LXは登場当時ニコンやキヤノンのフラッグシップ機と肩を並べる事ができた... 少なくとも肩を並べようという気概を持って作られた、唯一の最初で最後のKマウント機ではないかということです。その後、一眼レフはAFの時代を向かえ、デジタル化されて今に至りますが、このクラスのカメラはPENTAXからは出ていません。

 昨年には2003年発売の*ist以来、12年ぶりとなる35mm版フォーマットのKマウント一眼レフK-1が登場しました。LXの発売から数えて35年、生産終了から数えると14年の月日が流れています。

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 こうして並べてみると、その大きさの違いが目立ちます。スリムでかっちりしたLXに対し、K-1はかなり太ってしまいました。時代は流れ中身はまったく別物となっているわけで、しかしこれでも同じマントと同じ撮像フォーマットを持ち、同じレンズで同じように写真が撮れるカメラとして、それなりの互換性があるというところが逆に不思議に思えてきます。

 Kマウントフリークの多くは、フルサイズセンサーを持つK-1の登場に、Kマウントフラッグシップの再来を感じたことと思いますが、実際のところ製品としてのK-1はLXと同格ではないと感じます。LXのほうがずっと高みにあるような気がします。

 しかし、LXやF3やNew F-1はオールラウンダーとして一眼レフの頂点に位置づけられたのに対し、現代のフラッグシップであるD5やEOS-1DXは、時代の流れとともにスペシャリストになってしまいました。だからK-1がD5やEOS 1DXと並ぶカメラでないのは仕方ありませんし、この先そういうカメラが出ることもないでしょう。

 であるならば、オールラウンダーとしての一眼レフ、その頂点においてD810でもEOS 5Dでもない第3の選択肢として位置づけられるとすれば、やっぱりK-1はLXの再来なのかも? と思い直しました。

 ということで、最後にタイトルを否定して記事を締めたいと思います。早速フィルムを詰めて撮りに出かけてきましたが、それについてはまた後日。