酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

6m幅の裏路地を駆け抜ける:F1 2016 第8戦 ヨーロッパGP

 今シーズン初の連戦は、大西洋の西にあるカナダから、ヨーロッパを飛び越えてカスピ海西岸にあるアゼルバイジャンまで、1万キロ以上の距離を中3日で移動してくるという強行軍で行われました。バクーの市街地に作られたサーキットはもちろんF1初開催。直角コーナーが連続する前半区間はなんだかフェニックスのアメリカGPを思い出させる懐かしいレイアウトです。しかしその周囲に並ぶ街並みはどちらかと言うとモナコに似た石造りの建物が並ぶヨーロッパ風。いやどことなくヨーロッパとは違う独特な町並みです。

 色んなものが混ざっていて時に懐かしさを感じますが、ここは正真正銘の初開催。しかも市街地に作られた非パーマネント・サーキットですから、まったくデータがなくドライバーも誰一人走ったことがありません。シミュレーション技術が発達した現代であっても、実際に走ってみなくては分からないことが一杯あるようです。

Sergio Perez / Force India VJM08 / 2015年 日本GPK3II0259.jpg

 コーナーエンドにはエスケープゾーンが作られていますが、基本的にコースの両側はコンクリートで固められています。一部区間は幅が6mしかないと言う裏路地に過ぎません。

 誰もが手探り状態で行われたレースは、その超高速なコース特性もあって、セーフティカー導入は必至と思われましたが、みんな初めてで慎重に走ったためか、結局コンクリートウォールの餌食になったマシンは1台もありませんでした。

 一見F1とは縁がなさそうなこの街でレースが行われた理由も、それが「ヨーロッパGP」と名付けられた理由もよく分かりません。しかし一ファンとしてこのコースはなかなか気に入りました。

「トラックでこういったことが修正できないことのメリットがわからない」 ルイス・ハミルトン

 今シーズンようやくエンジンがかかってきてノリノリのまま迎えたこのレース、フリー走行ではダントツの速さを見せて、これはもう3連勝は手に入れたも同然か?と思った矢先の予選では一転して絶不調。ブレーキのフィーリングが合わずにタイヤロックを連発し、コーナーを行きすぎ、最後は6m幅路地からの出口で、クリップを見誤って壁にフロントタイヤをヒットするというドタバタぶりでした。

 それでも中段からスタートしたとしても、メルセデスの速さを生かしてすぐに表彰台争いくらいには上がってくるだろうと思われていたところで、またもやトラブルに見舞われます。いや、実際は何が起きていたのか分かりませんが、いずれにしろハミルトンのマシンは何かが間違ったモードに入り、パワーを失ってしまいます。

 そこからの無線のやり取りがこのレースのひとつのハイライトだったと言えるでしょう。テレメータでピットは状況を把握しているものの、今年の無線規制でマシンのセットアップに関する指示やアドバイスは禁止されています。

 しきりに状況説明と解決策をたずねるハミルトンに、レースエンジニアは何も答えることができません。ハミルトンは譲歩して「スイッチをいじるから正しいモードに入ったら教えてくれ」と提案しますが、それに対してもピットの答えは No I can't とつれないものでした。

 同じようなことはライコネンにも終盤発生していました。これも偶々ではなく、初めてのサーキットならではのことだったのかもしれません。

 この厳しい無線規制については確かにハミルトンの言うとおり何のメリットがあるのかが分かりません。現代のF1マシンは非常に複雑な電子制御の塊で、ドライバーが一人ですべてを面倒見切れる範囲を超えたモンスターです。エンジンやERSの状況を適切に監視し、コントロールすることまで、すべてドライバー任せにすることが、レースの本質なのかどうか? 再考が必要ではないかと思います。

「僕はハンドルを見て自分で修正した」 ニコ・ロズベルグ

 前戦の感想で「彼のダメなところが全部出てきた」と書きましたが、本当にそうだったらハミルトンが下位に沈んだ今回のようなレースを確実に拾うということもできなかったでしょう。まだロズベルグにも芽はあるのかもしれません。

 このコメントはいろいろ示唆に富んでいて、ハミルトンとまったく同じマシンに乗るロズベルグも、レース中盤にやはりパワーダウンを感じたということがひとつ。だとすればハミルトンの問題は何らかの偶発的なトラブルや、ハミルトンが間違ってスイッチを触ってしまったとかではなく、メルセデスのマシンと、そのセッティングと、このコースの相性で起きる必然的な現象だったと推測できます。

 そしてもうひとつ面白いことは、ロズベルグがここで言いたいのは「ハミルトンと違って自分は完璧にマシンを把握してたから一人で対処できたよ」と言うことではないかと思います。つまり自分は実力で勝つべくして勝ったのだと。ダッシュに警告が出てもその意味が分からず慌てるハミルトンとは違うのだと。

 それが事実なのか、話が盛られているのか良くわかりませんが、こういったの舌戦を仕掛けるくらいの緊張感がやはりちょうど良いと思います。

「今年2度目の表彰台は最高の気分だ」 セルジオ・ペレス

 ザウバーでデビューを果たしたとき、小林可夢偉のチームメイトとなり、その後の二人のキャリアの変遷が大きく異なってしまったことなどから、逆恨みと妬みに近い感情があって、決して好きなドライバーではないのですが、チームが変わってもこうして時々ポッと表彰台に上って見せるあたり、やはりとても良いドライバーなのだろうと思います。

 フォースインディアは決してトップチームではないし、メルセデスPUの力に頼った直線番長と揶揄されることもありますが、この超高速トラックでその速さを生かしきり、結果に結びつけることができるのは、彼の力なのだろうと素直に認めたいと思います。

「直線でのスピードを考えると19番から11位はそれほど悪くない」 ジェンソン・バトン

 バクー市街地コースは非常に長いストレートがあり、最高速度は360km/hにも達する超ハイスピードコースです。トラクションが良くてストレートスピードの速いメルセデスなどは、メインストレートと裏ストレートだけで0.5secのアドバンテージを稼ぎ出すと言われるほど。

 それを裏返せばストレートスピードの遅いマクラーレン・ホンダにとっては厳しいコースということになります。そして実際に予選ではその通りとなりました。バトンはQ1落ち、そしてアロンソも今回はQ3に進めず。

 オーバーテイクのほとんどがストレートエンドで行われることを考えると、レースでもマクラーレンは厳しいことになると予想されましたが、実際のところバトンはもう少しでポイントが取れるというところまで追い上げてきました。

 結果はイマイチだけどこれはポジティブな面があったのではないかと思います。少なくとも昨年のように、長いストレートではクラス違いのようにごぼう抜きにされるということはなくなりました。

 シルバーストーンとかスパとかモンツァあたりでもそこそこ戦えるのかも。そしてやはり超低速コースのハンガリーに期待がかかります。

次回はオーストリアGP

 夏を迎えヨーロッパラウンドも最盛期に入ります。7月は連戦により計4回ものレースが行われる予定。最初はオーストリアGP、レッドブルのホームレースとなります。旧A1リンクはまったく印象に残っていないのですが、どんなコースでしたっけ? まぁ予選を見たら思い出すかもしれません(^^;