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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

幸運を総取りした18歳とトップチームの憂鬱:F1 2016 第5戦 スペインGP

 F1は早くもヨーロッパラウンドの開幕を迎えました。各チームのファクトリーから巨大なトランスポーターを使って陸路で移動できることもあって、例年このヨーロッパ開幕戦となるスペインGPには、各車大幅なアップデートが持ち込まれます。ロシアGPからのインターバルは通常通り2週間しかなかったわけですが、今年もそのスケジュールに変わりはなかったようです。

 バルセロナ郊外のサーキットはオフシーズン中のテストでも使用される、みんなが勝手知ったるサーキットです。データも十分にありドライバー達も細部まで知り尽くしているはず。それはすなわち「波乱は起きにくい」を意味するかと思えば、実はそうでもありません。数年前には、当時低迷していたウィリアムズに乗るマルドナドがいきなり優勝したこともありました。

 さて、今回のレースはこれまでの5戦で文句なしに一番面白いレースだったと言えると思います。見所はスタート直後からチェッカーまでずっと続きます。しかもその主役はめまぐるしく入れ替わります。

「優勝できるなんて予想もしていなかった」 マックス・フェルスタッペン

 前レースではクピアトの来期のシートを心配していたところでしたが、さすがF1の世界は想像を上回る早さで動き、ロシアGP後電光石火でクピアトはトロロッソへの降格移籍がなされ、代わりにフェルスタッペンがレッドブルに昇格してしまいました。

 さて、バルセロナのコースはバランスの良いオールドコースでありながら、マシンとの相性が如実に出ることがありセッティングも難しいトラックです。フェルスタッペンにとっては、棚ボタ(ではないのかもしれませんが)のシート獲得に加えてさらに幸運なことに、ハイブリッド時代になって低迷が続くレッドブルのマシンは、このコースにぴったりと嵌ってました。

 予選ではメルセデスには届かないものの、フェラーリを完全に押さえ込みセカンドロウを独占。そのスピードは決して予選スペシャルではなくレースでも維持され、フェラーリとほぼ互角に渡り合います。そうなると、前にいたものが優位になると言うのが、こうしたオールドコースの特性です。

 さらにフェルスタッペンには幸運が続きます。スタート直後にメルセデスの2台が消えただけでも儲けものでしたが、さらになぜかトップを行くリカルドが謎の3回ストップ作戦を取った上、真後ろを追いかけてくるベッテルまでもがリカルドに付き合って3回ストップ作戦にスイッチ。彼は1台もオーバーテイクしないまま気がついたらラップリーダーになっていました。

 しかも、3回ストップ勢のリカルドとベッテルは思ったほどペースが上がらず、程なくして2回ストップが圧倒的に優位であることが判明します。つまり、フェルスタッペンはベッテルに代わって真後ろをついてくるライコネンさえ押さえきれば、優勝が手に入る位置までやってきたことに気がつきます。2週間前のソチでは想像もしていなかったことでしょう。

 優勝の可能性が俄然高まってからの後半30周は、慌てず騒がずミスをすることなく、タイヤをマネージし、完璧なラップリーダーの走りでした。0.5秒差に迫るライコネンの強烈なプレッシャーを跳ね除け、初めて乗るレッドブルのマシンをチェッカーまで運びきります。

 10代の優勝者はF1史上初。ベッテルの持つ最年少優勝記録を大幅に塗り替えることになりました。そしてオランダ人のF1優勝も初めてのことということで、初めてづくしの初優勝です。今回の優勝には数多くの幸運が重なったことは事実ですが、それらの運を結果に結びつけたのは彼の腕です。今後が楽しみなドライバーです。

 どんなチャンピオンドライバーにも、初優勝の瞬間がありました。実力で得たもの、幸運で得たもの、いろいろだったはずですが、そのまま一発屋で終わるか、チャンピオン争いに名乗りを上げるかは、その後の運と実力次第です。レッドブルのマシンを手に入れたフェルスタッペンの次の一手が楽しみです。

 さて、フェルスタッペンの初優勝の影で、悔しい思いをしている人々もたくさんいます。まずはフェラーリ。ここでレッドブルに持っていかれたのは想定外だったことでしょう。そしてチームメイトのリカルド。予選を制し、レースをリードしていたところでまさかの作戦。誰があの作戦を主導していたのか分かりませんが、リカルドにしてみれば勝てるレースをわざと捨てたに等しい結果です。もしかしたらチーム内に微妙な疑心暗鬼の空気が流れているのかも。

 さらにレッドブルのシートを奪われたクピアトはもっともがっかりしている一人かも。あのマシンは俺のものだったのに... と。そして千載一遇のチャンスをフェルスタッペンに先を越されたサインツJrも裏で悔しがってる一人かもしれません。でもそこは過去の実績と、政治力(お父さんの?)が物言うF1の世界です。フェルスタッペンはいろいろな面でとても恵まれたドライバーだと思います。

「誰かを非難することはない」 トト・ウォルフ

 さて、私的にはフェルスタッペンの初優勝よりも、メルセデスの同士討ちのほうが俄然興味があります。今年の残りのレース、あるいは今後数年にわたってF1界に横たわる事件となったかもしれないのですから。

 思い出してみれば二人の接触は2年前のベルギーでもありました。このときは強引にインに突っ込んだロズベルグが悪いとされ、その後しばらくロズベルグは表彰台に上ってもブーイングを受けることになり、さらには、その後ロズベルグの勝負弱さの原因となったのではないかと思っています。

 それ以前にもおおよそチャンピオンを獲得してきたドライバーは、ライバルたちとのきわどい接触を経験し、チーム内外で激しい対立を生んできました。セナとプロストの話を持ち出すまでもなく、Mシューマッハは数多くのライバルに激突したし、ベッテルだってウェバーと激しくやりあい、険悪な仲になりました。

 だから仕方ないとか、もっとやれとか、そういうことではないのですが、真剣であるからこそ、今回のようなきわどいクラッシュと言うのは起こるものなのだろうと思います。特に今シーズンの流れから行くと、いつかは必ず起きることだったような気さえしてきます。

 ロズベルグがパワーモードの設定を間違えたとか、ブロックする際にラインを残さなかったとか、ハミルトンは楽観的過ぎたとか、そもそもグリーンにタイヤを落としたことが間違いとか、一瞬のうちに起きたいろいろな要素が絡み合っています。しかし、この件を審議したレーススチュワードもレーシングアクシデントであると結論を出したし、それが正しいのだろうと思います。

 いずれにしても、これをもってロズベルグとハミルトンの関係はますます冷え込むことでしょう。ただでさえ言葉を交わすどころか、視線を合わせることがなかった二人です。今後のチーム内のピリピリ感はいかばかりか想像がつきません。その緊張感が一線を越え、お互いの譲れない意地の戦いに発展してしまうと、ろくなことにはなりません。今回のように大量にポイントを落とすことはチームとしては絶対に容認できないことですから、やり過ぎるとクピアトのような運命を辿る可能性だってあります。

 正々堂々とクリーンなバトルを期待します... というのは半分だけ本気ですが、残りの半分は意地のぶつかり合いを見てみたいような気がします(A^^;

伝統のモナコGP

 次戦は2週間後、F1カレンダー中でも特別なモナコGPです。超低速の市街地コースはあらゆる意味で特別なレース。今からスタート直後の1コーナーを想像するだけでドキドキしてきてしまいます。楽しみですね!