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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

時間が全てを解決する:ときぐすり/畠中恵

ときぐすり (文春文庫)

ときぐすり (文春文庫)

女房のお寿ずを亡くした麻之助だが、町名主・高橋家の跡取りとして裁定に追われる毎日。「人が人を、大事だって思う気持ちにつけ込んで、下司なことをするんじゃねえよ」―幼馴染で親友の八木清十郎と相馬吉五郎の助けもあり、魂の抜けたような麻之助も徐々に回復してゆく。大人気「まんまこと」シリーズ第四弾

 「しゃばけ」シリーズで有名な畠中恵さんによるもう一つのシリーズもの、「まんまこと」シリーズの最新刊です。妖たちは出てこずファンタジー要素はないのですが、登場人物達のどこか滑稽な姿と、なんとも平和でのんびりした江戸の街の様子は、まさに畠中さんの描き出す時代小説の真骨頂です。

 お気楽に暮らす町名主高橋家の跡取り麻之助をはじめ、彼を取り巻く幼なじみの清十郎や吉五郎たちの青春グラフティ的な側面もあり、支配町で起こる人々のいざこざを解決する、ドタバタコメディでもあり、不思議な事件の謎解きをするミステリーでもあり、いずれにしても気楽に読める娯楽小説です。

 と思っていたら、前作では最後の最後に思わぬ大事件、麻之助の恋女房、お寿ずがお腹の子とともに亡くなってしまうと言う予想もしなかった悲しい事件に、読んでいて思わず狼狽えてしまうほどのショックを受けてしまいました。笑いあり涙ありと言っても、そういう涙はないだろうと思っていたのに...。

 さて、お寿ずをなくしたあとの麻之助はどうなってしまうのか、読むのが怖いような気がしつつ、続編をようやく読んでみました。

 そもそも表題が「ときぐすり」なわけで、これはもうタイトルからしていろいろ想像してしまいます。どんな悲しいことも辛いことも時間が解決する、時こそが唯一にして一番の心を癒やす薬... と誰もが思うことでしょう。とても上手い表題だと思います。

 本文にもこういう言葉が出てきます。

時は誰の上も等しく過ぎてゆく。それが薬になってくれるとしたら、そんなに嬉しいことはなかった。

 しかし、この「ときぐすり」と言う言葉にも、そのまま一筋縄ではいかないちょっと裏があります。でもそれだからこそ、この言葉の意味は一層重みを増します。表題だけでなく物語の運びも実に上手いと思います。

 一年が経過してもなお、普段の生活のそこかしこにお寿ずの幻影を見る麻之助の姿にヒヤヒヤしながら、時に「しっかりしろ!」と励ましたくなりながら、麻之助という腫れ物に触るように読み進めていきました。

 でも大丈夫、どうやら麻之助にもじわじわと「ときぐすり」が効いてきているようです。続編を楽しみにしたいと思います。

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