酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

ホンダ初優勝の地で23年ぶりに開催された高地レース:F1 2015 第17戦 メキシコGP

 秋のアメリカ大陸連戦第二弾は、1992年以来23年ぶりに開催されたメキシコGPです。舞台は昔と変わらずメキシコシティ郊外のエルマノス・ロドリゲス・サーキット。ティルケによる改修を受けていますが、基本的なレイアウトは昔のまま。標高2300mという高地にあるため、エンジン性能や空力に大きな影響を与えるそうですし、ドライバーにとっても他のサーキットでは経験しないような負荷がかかるに違いありません。そんなこんなを含めて23年ぶりともなれば、現代F1にとっては初めてのサーキットも同然です。
 しかしテレビの画面を通してではありますが、サーキットに多くの老若男女が詰めかけて熱心に応援している姿を見ていると、新興国のそれとは大きく異なり、メキシコにも成熟したF1 文化が根付いていることが感じられます。
 さらに、歴史を紐解いてみると、ここは1965年にホンダがF1で初優勝を果たした地でもあります。奇しくも今回のレースは時期的にもちょうど50年目の記念日に近かったはずなのですが、現在のホンダは過去の栄光を懐かしむ状況にないのか、そんな話題はついに聞くことはありませんでした。

「人生最高の表彰台だった!」 ニコ・ロズベルグ

 このコメント、分かるような気がします。今回のレースが彼のF1キャリアにとって決定的な意味があったということはありませんし、レース内容が劇的だったわけでもありません。しかし、メキシコGPの表彰式の様子は素晴らしいものでした。野球スタジアムを利用したという巨大な観客席に囲まれているというロケーションもそうですし、冒頭に書いたように非常に成熟した熱心なファンによって祝福されたこともそうですし(メキシコの観客はブーイングなどしませんでした)、メキシコの国旗カラーの紙吹雪による演出も見事でした。

 紙吹雪の演出といえばブラジルを思い出します。ライコネンがチャンピオンを獲得した表彰台、あるいはマッサが惜しくもチャンピオンを逃したときの表彰台、いずれもブラジルで大量の紙吹雪が舞っていました。実際には今回は既にチャンピオンシップは決定し、しかもロズベルグは敗者(しかも惨敗)の側だったわけですが、何となくそんな昔の記憶を思い出してしまう光景で、ロズベルグもなんだかチャンピオン獲得を祝福されているかのような錯覚に陥ったのかも?と思ってしまいます。

 レースは久々にポールからスタートしたロズベルグが、そのままトップを守りきることができました。そういう意味ではポールtoウィンでありながらも、見所の多いレースでした。いつどこでロズベルグはやられてしまうのか?という観点でレースを見ていたわけで、幾度の危機を乗り越えてトップを守りきったことが、今回のレースの大きなトピックです。それこもれもチャンピオンが決して失うものがなくなった故なのかもしれません。

 そうだとしたら、まだ彼には多くの課題が残っているわけで、大事な場面でこういうレースができるようにならなくては、真の意味でハミルトンのライバルとなることはできないでしょう。人生最高の表彰台の味を来シーズンの糧に出来れば良いのですが。

「2回目のピットストップの判断には同意できなかった」 ルイス・ハミルトン

 メキシコシティは高地にあってマシン的にもドライバー的にも、他では経験したことのない条件で戦われる... というようなことを冒頭に書きましたが、結局蓋を開けてみればメルセデスの独走は変わりませんでした。みんな条件が同じというわけでパワーユニットの差、空力の差、メカニカルグリップの差は埋まることはなかったようです。

 そんな中ロズベルグと激しいトップ争いを演じた、新チャンピオンのハミルトン。隙のないロズベルグに対し今回は攻めあぐねてしまったようです。今回のレースはほとんどのチームが1回ストップ作戦をとった中、後続に対し十分にマージンを築いたメルセデスの2台は、念のために2回目のタイヤ交換を行います。ロズベルグが先にピットインし、その後ハミルトンの番でしたが、ここでハミルトンは少し抵抗して見せます。タイヤを替える必要はない、と。

 チームはやや焦ったでしょうし、見ているファンは何か起こるのでは?とざわめくなか、しぶしぶハミルトンはチームの指示に従い、順位が入れ替わることはありませんでした。その後ベッテルのクラッシュでセーフティカーが導入されることになり、「結果的に」ですが、チームの指示に従っていて正解だったわけですが、しかしそこで今年のモナコのことを思い出した人も少なくないでしょう。

 チームのミスにより余計なタイヤ交換を一人だけしたことによって失った優勝。それを弁償してもらうタイミングだったのではないか、と。まぁ、実際には過ぎ去ったことは過ぎ去ったことで、チャンピオンも決した今となっては過去を蒸し返す必要はないでしょう。そんな形で勝っても仕方ないですし。

 でもこれがもし、チャンピオン争いがもつれている状態、あるいは今回で決着がつくという状況だったらハミルトンはどうしただろう? といろいろ想像してしまいます。チームオーダーを無視して優勝を、そして最終的にチャンピオンをもぎ取ったドライバーは過去に前例がいくらでもありますから。なんかそういう泥仕合を見てみたかった気がします(^^;

「彼は意図的にしたのかって? わからない。」 キミ・ライコネン

 ライコネンのレースぶりが最近気になります。ロシアではボッタスのインにあまりにも楽観的に突っ込み、アメリカでは濡れた路面に足を取られてスピン、無理矢理マシンを脱出させます。そして今回メキシコでは、ロシアと立場が逆になりつつも、やはりボッタスとぶつかってしまいました。実際どっちがどの程度意図していたのかはわかりません。

 しかし今回、意図的にインを閉めたのは確かでしょう。ボッタスが諦めることを念頭に。左コーナーで並びかけ、次の右コーナーで仕掛けるという流れはロシアと同じ。ただ立場が入れ替わっているだけです。ある意味ライコネンの今回のライン取りは、ロシアでボッタスが取った行動へのお返しと言えなくもありません。ノーズが前に出てない以上、優先権はこっちにあるんだよね、と。

 しかし、ぶつかってポイントを失っては元も子もありません。ロシアではライコネンの否が認められ、今回は単なるレーシングアクシデントと判定されました。しかしライコネンはリタイア、ボッタスはそのまま走りきって表彰台に上ります。その後のことを考えると、あの場面でクラッシュを避けていれば、その後3位争いをする可能性はライコネンに十分残されていたはず。その辺がどうにも残念でなりません。

 キミはこれまでベテランのチャンピオン経験者らしく、あまりラフなバトルをしないことが特徴でした。来期のシートが確定したそばからこれですから、チーム側のイライラも想像がつきます。あと2戦、なんとか彼らしい円熟のレースを取り戻して欲しいと思います。

「他のマシンの直線スピードはおそろしく速かった。」 ジェンソン・バトン

 今回はホンダにとっては踏んだり蹴ったりの週末となりました。長いストレートを持つコースレイアウトから見て、こうなることはある程度分かっていたのでしょう。そのスピード差を改めて確認させられただけでなく、信頼性にも問題が出ました。バトンは予選に出走できず、決勝は逆にアロンソが1周で終了となります。

 ホンダ初優勝から50年目の記念となるメキシコGPは、惨憺たる結果に終わってしまいました。残り2戦、スピード差は何ともなりませんが、せめて信頼性の問題くらいはちゃんと解決してほしいものです。もうシーズンも終盤なのですから。

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 次のレースは来週末、南米に渡ってブラジルGPです。長らく最終戦となっていたレースですので、インテルラゴスの風景を見ると、いよいよ今シーズンも終わりだなぁ、と寂しさを感じることでしょう。