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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

秋の訪れを告げるオールージュの景色:F1 2015 第11戦 ベルギーGP

F1

 長い夏休みを経てF1の後半戦というか終盤戦が始まりました。ヨーロッパラウンドも残すところあと2戦。シーズン全体ではあと9戦。テレビの画面でベルギーはスパの風景を見ると、秋が来たなぁと感じるF1ファンも多いのではないかと思います
 会場となるスパ・フランコルシャンのトラックは他のどことも似ていない特徴的なレイアウト。特に鋭角な1コーナーから続く急な下り坂と、一転してS時コーナリングしながらの急な山登りのオールージュ、そこから続く長いケメルストレートは、過去にも様々なドラマを生んできました。
 一周が7kmにもおよび、周回タイムも2分弱という長さ。そして変わりやすいスパウェザーもあります。休み明けの一戦としては非常にタフな条件で、見応えは十分です。

「ここぞというときにすべてがまとまった」 ロマン・グロージャン

 数年前は表彰台争いをしていたことが嘘のように、最近のロータスチームはどん底の状態です。財政危機に加えて契約不履行に関する裁判沙汰の影響で、あわやこの週末中にもマシンが差し押さえられてしまうところを、チーム関係者が寝ずの番をして守り切ったそうです。レースとは別の次元でスリリングな週末を過ごしたことでしょう。

 そんなごたごたがあると、チームの士気も下がり戦略やレース運営の精度も落ちて、成績は散々なことになりそうな気がしますが、ロータスのベルギーGPはその全く反対で、今シーズン一番の成績を予選とレースで残しました。

 もちろんこのパワーサーキットでは、メルセデスPUを搭載しているマシンに圧倒的なアドバンテージがあります。とはいえ、全てが異次元のメルセデスワークスはさておき、フォースインディアはただの直線番長、ウィリアムズは何かの歯車が狂ってしまった中、メルセデス勢の最下位かと思われていたロータスは、逆に上手いこと全てのバランスをまとめ上げるという逆境への強さは、いったいどこからもたらされたのでしょう?

 マシンの競争力を手に入れてようやくグロージャンの腕も生かされたようです。数年前の暴れん坊時代とは変わって、バトルも非常に上手くスマートにこなすようになりました。終盤にベッテルのトラブルによる繰り上がりとはいえ、メルセデスの2台に続く3位表彰台を手にしたレース運びは見事でした。やればできるじゃないか!

 ただし、チーム運営の危機は去っていないようです。元ルノーワークスだったこのチームは、ハイブリッド時代になって早々にルノーに見切りをつけ、いつの間にかメルセデスパワーを得ています。それがまた近々ルノーワークスに戻るという噂がありますが、どうなることでしょうか。

 メルセデスの成功とフェラーリの奮闘を見ても分かるように、現代F1マシンにおいてシャシーとパワーユニットは切っても切れない関係にありそうです。ルノーが本気でF1で生き残りを賭けるには、ワークスチームを持つことは必要条件なのかもしれません。(だとしたらホンダは...?)

「200m手前で起きていたら僕はここに立っていなかっただろう」 セバスチャン・ベッテル

 予選ではメルセデス・パワーユニット勢が上位を独占し、フェラーリには厳しいレースとなるであろうことはあらかじめ予想されていました。そこでフェラーリとベッテルがとった作戦は、まさかの1ストップ作戦です。テレビ放送に流れたチーム無線を聞いてる限り、チームはぎりぎりまで迷ってるように感じられましたが、ベッテルは強く1ストップ作戦を主張していました。「2ストップしたのではレースをしてる意味が無い」と。

 それは一か八かの賭けではあり「リスク」は確かにありました。しかしここで言う「リスク」とは、後にピレリが言い訳で使う意味での「リスク」ではなかったはずです。ベッテルとフェラーリにとっての「リスク」とは「チェッカー前にプライムタイヤが崖を迎えること」であり、失う可能性があるものはポイントでした。

 実際のところベッテルのフェラーリはペースを維持し、3位表彰台を賭けてグロージャンとのバトルを行っていました。使い古しのプライムタイヤはそれなりに機能し、タイムは出ています。残り2周となった時点で、メルセデスPUが生きるケメルストレートを押さえるために、ベッテルはオー・ルージュをギリギリまで攻めていましたし、それが可能なだけのグリップとトラクションがあったということなのでしょう。

 しかしオールージュを登り切ったところで何かが吹き飛ぶのが、テレビ画面にはっきりと映っていました。直後ベッテルのタイヤは突如バーストしてしまいます。もしこれがオールージュで起きていたら... もしこれがケメルストレートエンドの最高速が出ているところで、グロージャンとサイド・バイ・サイドの状態で起きていたら... もっと大きな事故になっていたかもしれません。

 ドライバーに極度の緊張を強いるコースで起きたこと、金曜日にロズベルグに同じようなタイヤバーストが発生していたこと、ピレリタイヤは過去シーズンにも前科が多数あること、つい2ヶ月前にビアンキが亡くなったこと、そして時間的には前後してしまいますがアメリカのインディで死亡事故が起きたことなどなど、タイヤの安全性に明確な疑問があり、自分が「命のリスク」にさらされ、そしてピレリが誠実に対応していないことに怒っているのだと思います。

 そうした中で、メルセデスの関係者がポジショントークをするのは間違っていると思います。タイヤの問題か、ドライビングの問題か、トラックの縁石の問題か、あるいは偶発的な事故であるか、それらを明確にしたうえで安全性を議論すべきで、ベッテルの文句には理由があり、それをメディアに向かって口にする権利はあるはずです。「リスク」に晒されてるのは彼らドライバーの命なのですから。

「唯一楽しかったのはスタートだ」 フェルナンド・アロンソ

 F1の夏休み期間中、ホンダは不休で働いていたと言われています。そうしないといけない理由が彼らにはあります。そしてようやくエンジンアップグレードのトークンを消費し、本格的な改善へ打って出たのがベルギーGP... となるはずでした。

 しかし結果は惨憺たるものです。いえ、いくらアップグレードしたと言ってもそれだけでメルセデスに敵うとは、誰も期待していません。しかしそれにしても競争力が強化されたという形跡は予選にもレースにも、コース上のどこにも見られませんでした。アロンソのコメントにあるとおり、唯一スタートが上手くいったと言うだけ。彼のコメントは全体的に短くて皮肉たっぷりで冷淡です。何かが切れてしまったのではないかと思えるくらいです。

 バトンに至っては回生システムの動作がめちゃくちゃで、ドライビングできる状態ではなかったと言っています。これではパワーアップの効果も何もあったものではありません。

 もはやマクラーレン・ホンダが今シーズンを棒に振るのはほぼ確定と言えますが、ホンダとマクラーレンとアロンソとバトンと、それぞれの辛抱はどこまで続くでしょうか?

 ロータス同様にルノーに見切りを付けたいレッドブルは、実はホンダに期待していたのではないかと思いますが、彼らもさすがに来季のホンダにも可能性を見ることはできなかったようです。

次もパワー勝負

 次のレースはいよいよヨーロッパラウンド最終戦、イタリアGPです。もちろんフェラーリのお膝元。ここもまた全開区間がながくトップスピードが伸びるエンジンサーキットです。メルセデス勢の強さが予想されます。レイアウトが単純なだけに、今度こそホンダのアップグレードの真価が見られる... と良いなぁ、と消極的に期待しておこうと思います。