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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

澪と仲間たちの門出を祝う:美雪晴れ、天の梯/髙田郁

美雪晴れ―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)

美雪晴れ―みをつくし料理帖 (時代小説文庫)

名料理屋「一柳」の主・柳吾から求婚された芳。悲しい出来事が続いた「つる家」にとってそれは、漸く訪れた幸せの兆しだった。しかし芳は、なかなか承諾の返事を出来ずにいた。どうやら一人息子の佐兵衛の許しを得てからと、気持ちを固めているらしい―。一方で澪も、幼馴染みのあさひ太夫こと野江の身請けについて、また料理人としての自らの行く末について、懊悩する日々を送っていた…。いよいよ佳境を迎える「みをつくし料理帖」シリーズ。幸せの種を蒔く、第九弾。

天の梯 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)

天の梯 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)

『食は、人の天なり』――医師・源斉の言葉に触れ、料理人として自らの行く末に決意を固めた澪。どのような料理人を目指し、どんな料理を作り続けることを願うのか。澪の心星は、揺らぐことなく頭上に瞬いていた。その一方で、吉原のあさひ太夫こと幼馴染みの野江の身請けについて懊悩する日々。四千両を捻出し、野江を身請けすることは叶うのか!?厚い雲を抜け、仰ぎ見る蒼天の美しさとは!?「みをつくし料理帖」シリーズ、堂々の完結。

 五年前から始まった「みをつくし料理帖」シリーズの第九巻と第十巻を読みました。特に第十巻はこのシリーズの完結編となっています。シリーズものが綺麗に結末を迎えるのは、珍しいことではないのかもしれませんが、私の読書歴の中ではあまり記憶にありません。この完結編が文庫書き下ろしで発売されたのは昨年夏のことですので、半年も遅れてしまいましたが、ようやく読了することが出来ました。

 もう終わってしまった物語の細部にあれこれ言うのは野暮なので、結末を読んでの感想だけ書き留めておこうと思います。

 澪の周りにはたくさんの懸案がありました。野江のこと、自身の恋のこと、そして料理人としての行く末、恩のある「つるや」の面々とその行く末、ご寮さんと天満一兆庵の再興、若旦那のことなどなど...。第八巻あたりでおぼろに道筋が見えてきたこともありますが、いまだ全く霧の中だったのが野江の問題です。

 最後の二冊はそれの総まとめにほとんどが割かれています。一介の女料理人がどうやって吉原の大夫を身請けすることが出来るのか? 普通に考えると到底不可能な話ですが、そこに何らかの決着を見なくてはこのシリーズは完結しません。私なりにいろいろ想像していましたが、それらの想像はすべてはずれ、これ以上ないというくらいの見事な決着です。

幇間らのかけ声を機に、仲の町の両側に並ぶ引手茶屋の二階座敷の障子という障子が一斉に開けられ、そこから紙吹雪が撒かれた。紙吹雪は朝陽を受けて煌めきながら、あたかも桜吹雪の如く、翁屋の一行に降り注ぐ。

 吉原だからこそ許される、芝居がかったこのシーンは、映像的ですばらしいです。できすぎな展開も何もかも許されるほどの良い落ちだったと思います。

 一方でもう一つ大きな懸案だったのが、澪の恋のゆくへ。小松原を振ってからはもはや独身を通すのかと思っていました。家庭に入ることを拒否し、自分の人生の目的のために一人で生きていくことを決心したはずなのですが... それも野江の問題に見通しが付いたあたりで急速に変化を始めます。

・・・先の拙い恋でたいせつな人の想いを踏みにじり、もう二度と恋はしまい、と誓った身。誰かを想い、誰かに想われることが怖かった。
男の背中が俎橋の向こうへ消えてしまっても、澪は暫く心星のもとに留まった。

 いやいやいや、相変わらず頼りなくて弱々しくて優柔不断で、その一方で無駄に頑固一徹な澪です。何度この姿にイラッとさせられたことでしょう。まさかとは思っていましたが、この件にも決着が付きました。うん、私的には納得がいきませんけど。澪ちゃん、それで良いのか!と問い詰めたくなります。

 しかしある意味、澪は恋愛問題に関しては一貫して澪らしさを貫いたと言えそうです。そうそう理屈で割り切れないのがこの問題。私のイライラこそがウブで青すぎるのでしょう。澪の方がよほど現実的で大人です。このあたりはさすが女性の手による物語なのだと思い知らされました。

 周囲の読書仲間に聞いても、女性は納得し、あるいは最初から分かっていた、という一方、男性は私と同じようにもやもやしたものを感じている人が多いように感じます。

 ということで、いろいろ思うことはありましたが、結末までたどり着けて良かったし、後味の良いシリーズものでした。ちなみに、残りの懸案事項にもほとんど決着が付いたことは、本文には書かれていませんが第十巻の巻末に添付されていた料理番付で明らかになります。なるほど、そうなるんだ、とニヤニヤしながら読了となりました。

 で、せっかく終わったのに結局続編を期待してしまいます(^^;