酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

明日できることを今日するな:場末の文体論/小田嶋隆

場末の文体論

場末の文体論

読者をうならせる天才コラムニスト、その原点を語る。ビートルズ、北杜夫、立川談志、ソニー……。オダジマは、いかにしてオダジマになったのか?ネットで大人気コラムを連載する著者が、その心の故郷を初めて明かす。激論を巻き起こした数々の名コラムを生み出した「文章の職人」の秘密に迫る。日経ビジネス オンラインの大人気連載、待望の書籍化!『地雷を踏む勇気』『もっと地雷を踏む勇気』『その「正義」があぶない。』に続く、切れ味するどいオダジマワールドがここに! 津田大介氏との「同郷」特別対談も収録。東京都北区赤羽があの男を育てた!

Amazon.co.jp: 場末の文体論 eBook: 小田嶋 隆: Kindleストア

 いつもの時代小説ではなく、だいぶ毛色の違う本を読んでみました。私は日経ビジネスオンラインを毎日愛読しているのですが、その中で毎週金曜日に更新される小田嶋隆さんのコラム「ア・ピース・オブ・警句」を楽しみにしています。

 このコラムには「世間に転がる意味不明」という副題が付いており、その時々の時事ネタなどを小田嶋隆さん流の切り口で取り上げていくもので、日々の出来事やニュースに触れて、なんとなく頭の中でモヤモヤしていることが、すっぱりと綺麗に文章に書き表されていることが多く、読んでいて痛快であったりスッキリであったり、とにかく面白いのです。

 ただし、小田嶋隆さんはわりと政治的な立場というか、政治家や政党に対するスタンスが明確なので、その辺に触れる話題については好き嫌いが激しく分かれるかもしれません。私は非常に相性が良い方向なので、いつも頷きながら、時にニヤニヤしながら読んでいるのです。

 さてそこで本書です。この本はそのWEBコラムのなかから選ばれた13作を収めたもの。主に2012年中に書かれたものが中心となっています。同じようにこのコラムをベースにした本は既に3冊が発行済みで、この本は4作目となるそうです。

 日経ビジネスオンラインは無料の会員制のサイトですので、過去ログを辿っていけば同じ文章を読むことが出来るのわけで、なぜそれにお金を払うのか?と言われると答えに窮するのですが、それはやはり好きなミュージシャンのベスト盤を買ってしまうようなものではないかと思います。毎週書かれている数多くのコラムの中には、会心の一作もあれば、締め切りに追われて仕方なく書いたものもあるかもしれないわけで、書き手による(あるいは編集者の意向が入ってるかもしれませんが)選別を経たものはどれなのか?ということは、大いに興味があるところだったりします。

 いえ、実際のところ本屋さんで紙の本に出会っただけなら、手に取ることはあってもレジに持って行くことはなかったと思うのですが、ある日Amazonをぶらついているときに、Kindle版があるのを発見して思わずポチッとしてしまったというのが実情です。

 さて、2012年と言えばわずか2〜3年ほど前のことですが、時事ネタを中心としたコラムというものは、内容の陳腐化は早いはずなのですが、今作に収められた13編はいずれも、そのときの最新の話題を扱いつつ、その背後で実はもっと昔、作者たる小田嶋隆さんの若かった時代の回想が大いに含まれていて、そういう意味では「昭和」の思い出的な側面もあるコラムが集められています。

 で、そこに懐かしさを感じるかと言えば、実のところ私と小田嶋隆さんは世代が一回りくらい違うので、自分の体験と重ね合わせて共感できる部分はほとんどありません。しかし「何を言ってるか分からない」というよりは、「そうだったんだ」と、ノスタルジーの部分に対してなんだか新鮮さを感じてしまいます。

 「第2章 談志中坊に宿るより」に以下のような一文があります。

父の世代の昭和の男は、テレビを買うために働き、テレビを見ることで一日を終え、テレビを見ながら死んでいった。こう書いてしまうとなんだか哀れな人生に思えるかもしれないが、そんなことはない。一日の終わりに野球があり、週末ごとに落語と洋画が待っていた暮らしは、十分に豊かだったはずだ。

 今作には筆者自身の思い出だけでなく「父の世代」のエピソードがいくつか出てきます。「昭和」とか「高度経済成長期」とか言われていた時代、庶民の暮らしにあった空気感、そのポジティブだった一面を良く表しているような気がします。と言っても私は自身はもちろん体験していないし、自分の父親がこういう生活をしていたかと言われると、自信がありません。いや、でもやっぱりそうだったと言えるのかも? 実際に私の父は亡くなる数時間前に「テレビが見たい」と言い出したことを思い出しました。

 そうなると私たちの世代は何をしながら死んでいくのだろう? それは豊かな暮らしだっただろうか? とか思ってしまうわけで、こういったノスタルジーは必ずしも後ろ向きなものではない、という筆者の前書きについてはなるほどな、と思ってしまうわけです。

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 iPad + Kindleアプリで本を読んだのは久しぶりですが、今回はまぁまぁ快適でした。他の3冊も買ってしまおうか悩んでいます。たぶん買ってしまうと思います。

 とりあえず次は↓これですかね。

その「正義」があぶない。

その「正義」があぶない。

 タイトル的に↓これも捨てがたいです。

ポエムに万歳!

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