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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

頼りない澪に活を入れたくなる:夏天の虹、残月/髙田郁

夏天の虹―みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 (時代小説文庫))

夏天の虹―みをつくし料理帖 (角川春樹事務所 (時代小説文庫))

想いびとである小松原と添う道か、料理人として生きる道か…澪は、決して交わることのない道の上で悩み苦しんでいた。「つる家」で料理を旨そうに頬張るお客や、料理をつくり、供する自身の姿を思い浮かべる澪。天空に浮かぶ心星を見つめる澪の心には、決して譲れない辿り着きたい道が、はっきりと見えていた。そして澪は、自身の揺るがない決意を小松原に伝えることに―(第一話「冬の雲雀」)。その他、表題作「夏天の虹」を含む全四篇。大好評「みをつくし料理帖」シリーズ、“悲涙”の第七弾。

残月 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)

残月 みをつくし料理帖 (ハルキ文庫)

吉原の大火、「つる家」の助っ人料理人・又次の死。辛く悲しかった時は過ぎ、澪と「つる家」の面々は新たな日々を迎えていた。そんなある日、吉原の大火の折、又次に命を助けられた摂津屋が「つる家」を訪れた。あさひ太夫と澪の関係、そして又次が今際の際に遺した言葉の真意を知りたいという。澪の幼馴染み、あさひ太夫こと野江のその後とは―(第一話「残月」)。その他、若旦那・佐兵衛との再会は叶うのか?料理屋「登龍楼」に呼び出された澪の新たなる試練とは…。雲外蒼天を胸に、料理に生きる澪と「つる家」の新たなる決意。希望溢れるシリーズ第八弾。

 さて、読みかけのまま止まっていたシリーズものはまだまだあります。最も長いことご無沙汰していながら、しかし一方で気になっていたのが髙田郁さんによる「みをつくし料理帳」シリーズ。約三年前の第六巻「心星ひとつ」以来、読む機会を失っていました。

 この間、実に四巻も新刊が発行され、しかも最新の十巻では結末を迎えているそうです。この手のシリーズが完結する、というのは実は珍しいことで、俄然興味がわいてきました。これはなんとしても結末までたどり着かなくては!

 ということで、残り四巻のうちまずは第七巻と八巻目の二冊を取り急ぎ読んでみました。

第七巻:夏天の虹

 今作を読み始めて、それまでどういうストリーが展開していたのか、うっすらと思い出しはじめました。前作の第六巻は結構良いところで終わっていたのです。このシリーズの中にあって、一つの大きなハイライトだったはず。そして、なぜ前回それっきり読むのをやめてしまっていたのか、その理由も同時に思い出しました。

 主人公の澪は波瀾万丈な人生を送り、数々の困難を乗り越えてきているのですが、そのわりにか弱いというか何というか、何しろ優柔不断で常にメソメソ、ウジウジしています。読んでいると可哀想というよりもイライラしてきてしまうほど。その澪に大きな転機が訪れたのが第六巻だったわけですが、そこでいつものようにウジウジとした挙げ句の、澪の出した結論にがっかりしたのです。

 いや、小説的には当然そうしないといけないことは分かるのですが、それにしても頼りない澪の半生をシリーズを通して共に過ごしてきた一人の読者としては、より困難な決断を、最悪のタイミングで出す澪に愛想が尽きたというか何というか。どうしてそうなるかな... とあきれ果て、ちょっとついて行けないな、と思って本を閉じたことを思い出しました。

 そのウジウジ度合いは、この第七巻でもそれは変わりません。どころか、よりパワーアップしています。しかし第六巻までに溜まりに溜まったイライラとガッカリ感は、すっかりリセットされ、新たな気持ちで読み進めることが出来ました。

お前さんは頑固でいけない。心付けを差し出した者の顔を潰さぬことも、そろそろ学んだ方が良い。

 多めの心付けを思わず突き返す澪を、あるお大尽はこう諭します。正義感や正直さも行き過ぎると時に人を傷つけ、物事をややこしくするだけだと。本当にそうです。清濁併せのむことの必要性を知れば、人生はもっとシンプルになるのに。

 なんだか、言いたい放題、酷い感想を書いてるようですが、そこまで思うのもこの小説の中に引っ張り込まれ、澪に感情移入してしまっているから。つる家に行って「もっとしっかりしろ!」と直接活を入れてやりたくて仕方ありません。その道で行くと自分で決めたからには、もっと強くしたたかに生きていって欲しい、と思ってしまうのです。

第八巻:残月

 基本的な流れは変わりません。しかし今作ではこれまでに起きた様々な出来事から学んだのか、澪はどこか大人びてしっかりとした芯が通ってきたように思えます。そのせいでしょうか、読んでいるこっちがびっくりするような大胆なことをしでかしたり、口にしたりします。

四千両。この私を引き抜かはるんなら、値は四千両だす。びた一文。負かりませんなぁ。

 これまで散々煮え湯を飲まされてきた登龍楼の主に、こんなちゃきちゃき大阪弁の啖呵を切ってみせます。澪ちゃん、格好いい!自分の腕ひとつで生きていく女はそうでなくっちゃ。

 最初に書いたとおり、このシリーズは第十巻で終わってしまうことはもう分かっているわけで、そこには何らかの結論が出るはず。澪と芳はどうなるのか? 天満一兆庵は再建されるのか? 佐兵衛は? 野江は? つる家と種一は?? と何をどうすれば丸く収まるのか?

 おぼろげながらこの第八巻ではその方向性が見えてきたような気がします。もしかしたら... という私なりのストーリー展開と最後の落ちが想像できてきました。とは言え、第六巻でそれを大きく裏切られた経験があるので、いまだ予断を許しません。

 さて、あと残るは二巻。結末が気になるので残りも大急ぎで読んでしまいたいと思います。