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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

"リア充"への嫉妬と憧れが生んだ迷作:妄想彼女/地主恵亮

妄想彼女

妄想彼女

ひとりデートマスターとして名高い著者が、実在しない架空の彼女との、 出会い、結婚、出産までを描いた妄想恋愛小説。
本書・各ページの上段は妄想、下段は筆者の産まれてからこれまでのモテ ない人生を独白した私小説 ?エッセイ ?となっており、お花畑のような 妄想恋愛小説と、下段の性悪エッセイが複雑に絡み合い、かつてない読み 応えを約束します。
恋愛小説の体裁をとった傑作・非モテエッセイです。
自作自演の「ひとりデート写真」約50点もオールカラーで収録 !

 震えました。あまりの内容に読んでいて震えがきました。それは目の前に広がる狂気への恐れを超えて、笑わずにはいられないことからくる震えです。

 ここ最近、読書から遠ざかっていました。特に理由はなくて何となく読みたい本が見つからないという状態が続いていたのですが、リハビリというか、少し目先を変えて変わった本を読んでみようということで、この本を買ってみました。

 これはデイリーポータルZで活躍するライター、地主恵亮さんによる妄想小説&エッセイです。この本は彼が編み出した「女性とデートしているかのような写真を一人で撮る」というネタの集大成となっています。


 これとか、

 これとか、

 これとか...

 これとかかかか!

 こんなのまで!!

 特に一番最初の記事を読んだ時は衝撃を受けました。ありそうでそれまでなかったネタであり、しかもその写真の完成度の高さに感心してしまいました。その後、一連のシリーズが発表されるとともに洗練されていき、昨年辺りからアジア圏を中心に海外で話題となっていったようです。

 で、このシリーズの行き着いた先がこの本。当初は「デート写真を一人でとる方法のノウハウ本」として企画されたそうですが、なぜかできあがったものは小説&エッセイとなっていました。エッセイはまぁ良いとして、なぜにこれが小説?と思うわけですが、それが凄いのです。一人で撮ったデート写真を挿絵として使った、あり得ないほどのリア充の成功物語。筆者が考えるリア充の凝縮されたその姿に、憧れを通り越して憎しみすら感じられるほどで、そのストーリーのあまり妄想ぶりに震えがきます。

 中身は変わった構成となっています。ページの上段がフィクションの妄想小説、下段はこうした写真を撮る動機と目的、そのノウハウが綴られたエッセイとなっています。両方を同時に読み進めるのではなく、まずは上段の妄想小説を読み、その後最初に戻って下段のエッセイを読む、というのが正しい読み方でしょうか。各所に吹き出し形式で注釈がつけられていたりして、なかなか盛りだくさん。しかし、小説部もエッセイ部も合わせて1日で読み切ってしまいました。

 それにしても圧巻なのは下段のエッセイ部です。ここには筆者の(恐らくキャラ作りも含まれているであろう)本音と生活と実体験が綴られ、こうした不毛な写真を撮る情熱の源が書かれているわけですが、その目的とはひとえに「SNSでリア充と思われたいがため」なのです。そこまでするか!と思うと同時に、私たちの心の奥底にあるどす黒い感情をあぶり出してくるようで、やっぱり震えがきます。

 そう、SNSは多かれ少なかれ、自慢のために使われているのです。FacebookだってTwitterだって、ブログだってきっとそう。「みてみて、おれって凄いでしょ!」と。その根源的な欲望をストレートに表現するこのエッセイは、涙あり、笑いあり、そして(何度も書きますが)震えありで、とても読み応えがあります。

 で、デイリーポータルZの記事で使われた写真に加え、この本のために撮り下ろされたと思われる写真も素晴らしかったです。いくつか、地主さんのTwitterに上がっていたので引用してみます。

 たとえばこれ。

 ただの飲み会の写真のようですが、一人で撮影したもの。その種明かしが本に載っていますが、余りに単純かつ想像を超えていて感心を超えて感動してしまいました。


 それからこれ。まるで犬を飼ってるかのような写真。これもリア充の証だとか。たしかにそうかも!

 ってことで、一人写真を実践してみたい人はもちろん、本を読んで震えてみたい人、SNSが現代社会の人間関係にもたらす功罪について考えてみたい人には是非お勧めです。