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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

ヒールとヒーローの明と暗:F1 2014 第13戦 イタリアGP

F1

 ついこの間始まったばかりと思っていたヨーロッパラウンドも今回のイタリアGPで最後です。舞台はミラノ郊外にあるモンツァ・サーキット。言わずと知れたフェラーリのホームグランプリとなります。

 モンツァはパーマネントのオールドコースとはいえ、カレンダー中でも特別な特性を持っています。それは、超高速サーキットであること。タイトなコーナーが少なく、それほどアップダウンもきつくなく、直線区間が長くてエンジン全開区間の多いコース。

 車重が増え、パワーユニットの回転数が制限された今年のF1マシンでも、最高速は350km/h近くに達します。単純な直線スピードの追求は、レーシングカーの根源的な魅力の一つです。一番高いギアでフルパワーで最高速に達するF1マシンは、いかにその音が酷くなったとはいえ、とても迫力があります。

 しかしマシンとドライバーに取ってみれば、より重要なのはその最高速からの減速かもしれません。実際、メインストレートエンドの1コーナーでは今年も様々なバトルが見られました。

「勢いを取り戻したように感じている」 ルイス・ハミルトン/メルセデス

 ここ数戦に渡って、不運と事件続きだったハミルトンのレースは、今回ようやく(彼自身が考えている)本来あるべき姿に戻りました。しかし「結果的に」ポール to ウィンとなったものの、スタートで失敗して順位を落としたときは、また何か起きたのか!?と思ったものの、マシンにトラブルさえなく、彼自身レースに集中できていれば、2位のポジションを取り戻すことはそれほど難しいことではありませんでした。

 あとはお決まりのロズベルグとの一騎打ち。コース幅が狭く超高速サーキットであるここでは、バトルが過熱しすぎると事件が起きやすいポイントがいくつかあります。見ているだけでもハラハラするトップ争いは、前回のお返しとばかりにハミルトンがロズベルグのタイヤを切り裂く... なんてことは起きずに、ロズベルグが1コーナーのブレーキングで失敗したことで勝負あり。トップを取り戻したハミルトンにはもはや誰も追いつけません。

 久しぶりに気持ちよく勝って、レース後もご機嫌の様子。その見事なレースぶりを讃えて、表彰台では大きな歓声がハミルトンに対して上がっていました。個人的にはちょっと意外なくらい。ハミルトンってイギリス以外でこんなに人気あったっけ?と。対してロズベルグに対しては今回もブーイングが聞かれました。昨年ベッテルに対しブーイングを浴びせたイタリア人ファンは、その辺明確に感情を表します。本当はヒーロー役とヒール役は逆だったはずなのに、その立場は前戦ベルギー以来入れ替わってしまったようです。

 さて、ハミルトンのコメントのように、勢いを取り戻したかどうかはまだ分かりません。いずれにしろ、今後のレースも「基本的には」この2台がトップを争うことになるのでしょうから、終盤に近づけば近づくほど、火種は大きくなります。もちろんフェアなレース、ギリギリのバトルを望む一方で、二人の(特にハミルトンの)理性を超えた争いも怖いもの見たさで期待してしまう、という野次馬根性が首をもたげてしまいます。

「ファンが僕の名前を呼ぶのが聞こえた」 フェリペ・マッサ/ウィリアムズ

 メルセデス・パワーを得て華麗に復活を遂げたウィリアムズにあって、ボッタスにやられっぱなしだったマッサがようやく表彰台に立ちました。しかもボッタスを後ろに従えて、ですから彼にとっては最高の結果だったことでしょう。奇しくも、今回のレース結果はメルセデスPU搭載車が上位4強を占めたわけで、いかにメルセデスPUがパワーとスピードを持っているかが分かります。

 さて、上に引用したコメントですが、確かにマッサはハミルトンに負けず劣らず、表彰台で大歓声を受けていました。イタリア語でインタビューにも応えていましたし、イタリアのファンとはかなり通じ合えているようでした。うん、表彰台でああなると幸せだろうな、と。

 しかし私には彼がまだイタリアで人気があることがこれまた意外に思えてしまいました。マッサは長年フェラーリに乗っていたとはいえ「しがないNo.2」だったわけですし、しかも昨年一杯でクビになってしまいました。フェラーリを追われて、下位チームに転落... だったはずなのに、シーズンが始まってみれば、ウィリアムズはまさか絶好調。予選も決勝もフェラーリより遙かに速さを持ってる状況に、「ざまぁみろ!」とは言いませんが、「フェラーリを見限って良かった」くらいのことをマッサは口にしていたわけで、それがまた単なる憎まれ口ではなく、誰もが納得する真実だったのだから、どうにもなりません。実際、コンストラクターズ・ポイントでもウィリアムズはフェラーリを上回ってしまいました。

 とはいえ、マッサは憎めないキャラなのは事実。フェラーリファンなら2008年のブラジルGPの表彰台のことをよく覚えていることでしょう。あのときのヒーローは間違いなくマッサで、対するヒール役はハミルトンでした。

「今日のレースは難しいとわかっていたし実際にそうなった」 キミ・ライコネン/フェラーリ

 F1の世界もグローバル化と標準化が進み、レギュレーションも厳しくなった最近のF1では、ホームレースに格別のリソースを投入して無理矢理勝ちに来る、みたいなことはなくなりました。それでもモンツァのイタリアGPはフェラーリのホームレースです。イタリアのファンは特に熱狂的で、フェラーリにとっては特に結果が求められたはず... でした。

 しかし今年のフェラーリのマシンにとっては、このモンツァは最も苦手とする種類のコースだったと言っても過言ではないかも知れません。金曜日はそこそこ良かったのに土曜日にはメチャクチャに悪化し、そして決勝ではアロンソのマシンが止まってしまいます。残されたライコネンはなんとかポイントを取りましたが、実際のところそれが精一杯だったのでしょう。

 メルセデスPUを積むマシンには全く太刀打ちできず、最も出来が悪いはずのルノーPUを積むレッドブルにも、この高速サーキットで負けてしまいました。最高速が出ない上に、前車のスリップストリームが仕える状況になると、逆にダウンフォースのロスが大きく、コントロールが出来なくなるというマシンでは、ここで戦うことは出来ません。フェラーリの悪いところが全部出たようなレースで、さぞかしドライバーとファンにとってはフラストレーションがたまったことでしょう。

 そろそろフェラーリお得意の「来シーズンのマシンに集中する」発言が出てくる頃かも知れません。

「出ろって言われれば出るだけ」 小林可夢偉/ケータハム

 レッドブルがメルセデスPU勢に割って入って健闘したように、今期最低のケータハムのマシンで小林可夢偉もマルシアの前でフィニッシュするという大健闘を見せました。それも大差をつけて。そして決勝以上すごかったのは予選。一発の早さ勝負でもビアンキの前に出られたのは、まさに小林可夢偉だから。チームメイトのエリクソンはいざ知らず、ベルギーGPで可夢偉のシートを奪ったロッテラーや、今回FP1で可夢偉のマシンに乗ったなんだかよく分からないドライバーなんかに出来る仕事ではありません。

 遊園地のゴーカートのように、お客さんを乗せてお金を得るという商売をしているのならそれで良いでしょう。目障りだからF1には出てくるな、と言うだけです。そうではなく、レースをするために参戦しているのであれば、前半戦を含めてこれだけの速さと実績を持っていて、チームの開発にも確実なフィードバックを与えられて、しかも破格に安いドライバーを使わないチームがあると言うことが信じられません。

 とはいえ、トニー・フェルナンデスがまるで数年前の日本最大の自動車メーカーのように、思ったように結果が出ないことに飽きてポイッとF1チームを捨ててしまってからというもの、ケータハムは当たり前のF1チームとして機能していないようです。そもそもチーム代表がころころ変わる状況が改善しないと、そのほかのことがまともに運ぶことはなく、小林可夢偉としても現状のケータハムのシートに強く固執はしていないようです。

 このままだと鈴鹿も小林可夢偉が出走できるか危うい状況かもしれません。その場合、小林可夢偉応援席はどうなってしまうのでしょうか? 誰がケータハムに乗るにしろ、ドライバーに罪はありませんが、もし可夢偉がそのマシンに乗っていなかったら、心の中で盛大なブーイングをケータハムには送りたいと思います。

 次はいよいよアジアにF1が戻ってきます。美しいナイトレースが行われるシンガポールGPです。その次はいよいよ鈴鹿です!