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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

騙されて読み直す:お文の影/宮部みゆき

お文の影 (角川文庫)

お文の影 (角川文庫)

「おまえも一緒においで。お文のところへ連れていってやるよ」月の光の下、影踏みをして遊ぶ子供たちのなかにぽつんと現れた、ひとつの影。その正体と、悲しい因縁とは。「ぼんくら」シリーズの政五郎親分とおでこが活躍する表題作をはじめ、「三島屋」シリーズの青野利一郎と悪童3人組など人気キャラクターが勢揃い!おぞましい話から切ない話、ちょっぴり可笑しい話まで、全6編のあやしの世界。

 本屋さんでこの本を見つけるなり、宮部みゆきの文庫新刊!と思って飛びついたものの、待てよ、もしかしたら既読の一冊かも?と思いなおし、巻末の発行年月日を確認。すると「平成26年6月25日初版」とありました。やっぱり新刊だ、と喜び勇んでレジに向かってしまったわけですが、結論から言うと当初の勘は正しく、この本はやはり既読でした。

 だいぶ昔に発行され絶版になった本が新たに再版されることは時々ありますが、この本はたった2年前に別の出版社が文庫化した「ばんば憑き」という作品と全く同じものです。新作が一話加えられていると言うこともありません。しかし、なぜか表題を変え、新刊として再刊されています。角川書店のこのやりくちはあまり誠実とは思えません。すっかり騙されてしまいました。

 しかし私が確認した発行年月日のすぐ隣のページには、ちゃんと「ばんば憑き」の再刊である旨が書いてありましたけど。よく確認せずに買った消費者が悪いと言うことなのでしょう。しかし私みたいな人は多いらしく、Amazonのこの本のレビューは大変荒れています。

 しかし、中身はすばらしい物語です。結局私も騙されて間違って買ってしまったものの、せっかくだからとすべて読み直しました。覚えている話、忘れている話、色々でした。たった2年でこれなのだから、人の記憶は頼りにならないものです。

 以下、2年前に書いた感想文を全文再掲しておきます。ただし、自分で読み返してみると今回は「比較的軽いノリ」のようなものはどこにも感じませんでした。「期待外れ感」もなく、宮部みゆきさんらしい、すばらしい物語!と感じました。わずか2年とはいえ、私も成長(または老化? ^^;)したのでしょう。今なら迷いなく五つ星つけるところです。

【再掲】ばんば憑き/宮部みゆき 2012年8月記

 久々の宮部みゆきさん作の時代小説です。文庫新刊ですが、普通の文庫本とは違って少し縦長の版。中身も上下に段組されたちょっと変わったスタイルです。なので全体の分量がよく分からないのですが、宮部みゆきさん本人による紹介文では「読み切りの江戸怪異譚集としては過去最大の分量の本になった」と書かれています。そうは言っても非常に読みやすくて、夏休み深夜の読書としてはピッタリな内容。わずか二晩で読み切ってしまいました。

 内容は表題作含めて六編のそれぞれ独立したお話しが収められています。怪異譚集とは言え背筋がゾッと寒くなるような恐ろしいお話し... と言うわけではなく、どことなくほのぼのした雰囲気なのは、宮部みゆきさんらしいと言いますかなんと言いますか。なので全体的に怪談と言うよりはファンタジーと思って読んだ方が良いと思います。

 特に「博打眼」はコメディ調と言っても良いくらい。どうにも設定が馬鹿馬鹿しいと思えてしまう一方で、ハラハラドキドキかつほのぼのした良い雰囲気のお話しです。「坊主の壺」と「野槌の墓」は少し重くて怖いストーリー展開ですが、落ちが綺麗で読後感は悪くありません。「討債鬼」に至っては怪談どころかファンタジーですらなく、人の心の闇とそれに苦しめられる人々の開放の物語。いずれも共通するのは登場人物達が魅力的なこと。彼ら彼女らが不思議な現象に恐れるというのではなく、立ち向かう姿が物語展開の筋となっています。

 そんな中でも「お文の影」は最も怪談らしいお話しですが、ここには何と「ぼんくら」シリーズに登場する政五郎親分とおでこが登場します。政五郎親分が出てくると言うことで、怪談でありながらもミステリー調というか、謎解きの要素が含まれています。お文という少女にいったい何があったのか?それを解き明かす鍵はやはりおでこの頭の中に詰まっていました。それにしても怖いと言うよりは、切ない悲しい内容ですが読後感はなぜか悪くありません。

 これら比較的軽いノリの話が多い中で異色を放つのが表題作の「ばんば憑き」です。雨の夜に語られる老女の昔話... という設定だけ聞けば怖い話が想像できますが、そこはやはり宮部みゆきさんらしい魅力的で明るい人物描写が生きているため、他の物語同様にこの本がうっかり怪奇譚であることを忘れてしまっていました。油断してるところにやって来た強烈な落ち。そしてそれに輪を掛ける佐一郎の思い。本当に彼は空想しただけで我慢できただろうか? いや、もしかしたら...
 と、割り切れない何とも後に引く結末でした。

 宮部みゆきさんの怪奇譚は他にも何冊かあって、「三島屋変調百物語事始」シリーズや、古いところでは「あやし」というやはり短編集があります。それに、だいぶ昔に読んだ記憶がある「堪忍箱」も怪奇譚ではなかったかと思います。後の二作品は「ばんば憑き」に近いような、かなり重くて怖いお話しばかりだったと思います。また「あかんべえ」なども怪奇ものですが、こちらはファンタジー要素が強い小説でした。その他、宮部みゆきさんが書く時代ものは、意外なくらいに怪奇ファンタジーものが多いです。

 安心して読める面白くて楽しいお話しも良いですが、個人的にはやや救われなくてもやはりズシンと心に響くようなインパクトのある怪奇物語のほうが好みではあります。そう言う意味では、今作は全体的にやや期待外れだった感は否めません。でも★四つつけておきます。

 【お気に入り度:★★★★☆】