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酔人日月抄

東京下町に暮らす写真とPENTAXとスキーと時代小説とお酒とプジョーを愛するある男の日常

母国ファンの声援がかけた魔法:F1 2014 第9戦 イギリスGP

 F1に限らず、サッカーでも野球でもどんなスポーツ競技でも、ホームゲームというのは大きな意味を持っています。その要因のひとつが母国あるいは地元ファンの大きな声援です。もう一人のプレーヤーといわれたり、F1なら+50馬力に相当すると言われたり。2012年の鈴鹿ではまさに日本人F1ファンが鈴鹿に魔法をかけたことがありました。

 F1チームの多くは歴史的にイギリスにファクトリーを置いており、チームスタッフやドライバーに至るまで、多くのF1関係者にとってイギリスGPはホームレースとなっています。一時はF1開催が危ぶまれたなんてことは想像もつかないほど、シルバーストーンは熱狂的なイギリス人F1ファンで埋まっていました(それでも今年は例年より少なかったそうですが)。中高速コーナーが連続するハイスピードレイアウトで、オールドコース中のオールドコースでもあります。しかし現代F1マシンでも多くのオーバーテイクが見られるなど、まるで古さを感じさせません。F1のレギュレーションはここシルバーストーンを念頭に決められているのではないかと思えるほどです。

 シーズンも中盤にさしかかり、ドライバーたちもエンジニアたちも今年のマシンに慣れ、戦略に幅と余裕が生まれ、そしてマシンの信頼性も上がってきて、ともすればチーム間、ドライバー間の序列は明確に固定されつつある時期なのですが、今回のレースはめまぐるしく状況が変わり、あちこちでオーバーテイクが行われる、見所の多いレースとなりました。

「昨日のミスのあと辛抱強く待ってくれたすべての人に感謝したい」 ルイス・ハミルトン/メルセデス

 土曜日の雨の予選では自らの判断で最後のアタックを中止してしまい、その結果6番グリッドに沈むという大失態を犯してしまったハミルトン。トラブルもミスもなく順調にポイントを重ねる、チームメイトにして最大のライバルであるロズベルグに対し、ここ数戦はハミルトンに全くツキがありませんでしたが、今回もまたもやそうなのか、と思わせる状況の中レースはスタートします。お得意のスタートでぐいぐいポジションを上げ、早々にロズベルグの後につけたところまでは前戦と同じパターン。そしてしかし、前に出る策を見つけあぐねていたところも同じでした。

 しかし奇跡と言うには大げさだし、魔法と言うほど不思議なことでもありませんし、イギリス人ファンの声援が直接起こしたわけでもありません。しかし多くのイギリス人ファンが望んでいたこと(と言っては語弊があるかもしれませんが)が結果的に起こります。ロズベルグのマシンはギアボックスのトラブルで失速し、そのままコースサイドに止まってしまいました。

 これまでマシントラブルはどちらかというとハミルトンのほうに良く起こっていました。なのでたまにはロズベルグに起こらないと公平じゃないよね、という風にも思えます。いや、今シーズン圧倒的な強さを誇るメルセデスの強さは、マシンのダウンフォース、パワーユニットの性能に加え、信頼性の高さが欠かせません。それがヨーロッパラウンドに入ってから。肝心要のMUG-Kや、ブレーキにトラブルを起こし、そして今回はギアボックス。

 チャンピオンを狙うチームとしては、後半戦に一抹の不安を残します。チームごと脱落するとは思いませんが、ドライバーの力ではないところで決定的なことが起こるようだと、本人たちもファンも納得がいかない、しこりを残す結果になりかねません。それだけは避けて欲しいものです。

「来年のためにできるだけ多くのことを学ぶ必要がある」 ジェンソン・バトン/マクラーレン

 圧倒的にパワーがあって回生の効率も燃費も良いメルセデス製パワーユニットを搭載しながら、本家メルセデスはもちろん、ウィリアムズや時にはフォースインディアにも後れをとっているマクラーレン。来年からはホンダワークスのパワーユニットを積むことが決まってるとあって、裏では何かドロドロした駆け引きがされているのではないかと思えてくるほどの不調ぶりです。

 そのエースドライバーにしてイギリス人のジェンソン・バトンにとってももちろんここはホームグランプリです。しかし圧倒的な速さを持ったブラウンGP時代にもここでは勝つことが出来ませんでした。その後のマクラーレン時代もしかり。そんな相性の悪いシルバーストーンですが、今回は予選からなかなか良いレースをしました。

 ともするとQ3に進めないことも珍しくなかった今シーズンにあって、3番グリッドを獲得した予選は、判断のうまさもあって見事でしたし、決勝のレースペースもなんとかマシンの持てる力を振り絞った感じで、見事に4位を獲得。あとちょっとで表彰台が手に入りそうなところまで追い上げ、内容も悪くありませんでした。少なくともフェラーリには完勝し、レッドブルの間に割って入ったのですから。いずれにしても今年のマクラーレンの出来からすれば上出来。バトンのレースとしても上々出来と言えるでしょう。

 昨年亡くなった彼のお父さん、ジョンを偲ぶためにピンクのシャツを着た人が大勢スタンドに居たことから見ても、彼は時にグダグダなレースをする割に、やはり母国では人気があることが分かります。マクラーレンはそのイギリスの名門チームですからなおさらかもしれません。

 さて、そろそろ来年のストーブリーグの噂も出始めています。特にホンダを搭載することになるマクラーレンのシートは注目の的。バトンの残留は厳しいとの話もちらほら聞こえてきます。やっぱりホンダとも縁の深いベテランは欠かせない、とチームに思わせるような後半戦の走りに期待したいところです。

「忙しいレースだった」フェルナンド・アロンソ/フェラーリ

 今回のレースで目立った一人と言えばアロンソです。スーパースターなので国際映像が特に注目していただけなのかもしれません。いずれにしてもレースの趨勢とはあまり関係のない位置を走りながらも、そのレースの忙しさはテレビを通して見ているだけの私にも良く伝わってきました。

 ある意味マクラーレン並みに不調のシーズンを過ごしているフェラーリですが、そのマシンを振り回し、たくさんのバトルをして見事なオーバーテイクも何度も決めました。圧巻だったのは終盤のベッテルとの対決。無線を通してお互いにお互いのライン取りやドライビングに文句を言いながら、それでもサイド・バイ・サイドのほとんど接触しているかのようなバトルを繰り広げます。

 よく言われることですが、お互い相手を信用していないと出来ないレベルのクリーンなバトルでした。見ていても安心。オーバーテイクを試みるベッテル目線から見れば、イラッとくるほどの執拗なブロックでしたが、ポイントをかけてポジションを争っているのだから、当たり前のことです。

 レース中の二人の興奮ぶりからすると、意外に思えるほどレース後のコメントは冷静です。やはりレース中はアドレナリンが出まくって興奮しているのでしょう。アロンソは結局抜かれてしまったものの「良いバトルだった」と言い、ベッテルは「お互いに無線で相手のライン取りに文句を言い合ったのは、少し馬鹿馬鹿しいことだった」と反省の弁。

 やっぱりチャンピオン・ドライバーはすごいなぁ、と思わせるレースでした。特にアロンソ。あのフェラーリのマシンであそこまで戦ったのですから。うん、来年マクラーレン・ホンダに乗るのは悪くないかもしれません。キャリアの最後をかけて、再びチャンピオンを手にするために。

 次は来週末、ドイツGPです。これもまた多くのドライバー、関係者にとってのホームグランプリとなります。サッカーのワールドカップでもドイツは来週に決勝を戦うこととなっており、スポーツ関連イベントで来週のドイツは忙しいこととなりそうです(^^;