酔人日月抄

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あっという間に読み終わる上質な娯楽時代小説:鼠、狸囃子に踊る/赤川次郎

鼠、狸囃子に踊る (角川文庫)

鼠、狸囃子に踊る (角川文庫)

女医・千草の下で働くお国は、お使いの帰り道に奇妙な光景に出くわした。林の奥の誰もいない場所で、お囃子が響いている。すぐさま“甘酒屋”の次郎吉に知らせるが、「番町の七不思議の一つ、『狸囃子』だぜ」と取り合ってもらえない。一方で、狸囃子の噂は、瓦版に載ったために江戸中の評判になる。仕方なく、様子を見に行くことにした次郎吉だったが、そこで囃子方の矢七の姿を見かけて…。大人気痛快時代小説、第7弾

 NHK木曜時代劇でTVドラマ化もされるほど人気が出てきた、赤川次郎氏による時代小説の「鼠」シリーズの新刊を本屋さんで見つけ、即買いしてしまいました。これで7巻目だそうですが私自身読むのはずいぶん久しぶりです。と思って調べたら6巻「鼠、危地に立つ」がいつの間にか発売されていました。どうやらその発売を見逃していたようです。

 Amazonで調べたら鼠シリーズはすべてKindle版が出ていたので、6巻はiPad AirのKindleアプリで読もうと思います。少し安いし読み終えても邪魔にならないし... ということはもちろんですが、何よりこの鼠シリーズは、電子書籍で読むのに向いてそうだから。

 で、実はその6巻の存在に気づいたのはこの7巻を読み終えてから。実際の所、この「鼠」シリーズは多少前後しても、飛ばして読んでも影響はほとんどありません。私も7巻を読んでいて何もおかしいとは思いませんでした。シリーズものは各話あるいは各巻で完結する主ストーリーの背後に、シリーズもの全体を通して流れる背後のストーリーがあるものですが、この鼠シリーズの場合、そういったものはほとんどありません。

 いえ、あるとすれば次郎吉と千草の関係くらいかもしれませんが、鼠を題材にしている時点で、そこに結末はないだろう事は予想がつきます。実際の所全く動きはありません。でも良い意味で時代考証に捕らわれていないこのシリーズ、もしかしたら赤川次郎ワールドを展開して、ひょっとしたりするのかも?とも思います。

 さて、今回読んだ第7巻「鼠、狸囃子に踊る」に収められているのは全部で短編4話のみ。文庫版にして170ページ足らずという薄さ。しかも本文は相変わらずドラマの台本か?と思えるほど、登場人物たちの台詞を中心に展開されているので、勢いページをめくるスピードはとても速くなります。

「お姉ちゃん、強いね」
「そう・・・。でも、大したことないわよ」
「僕に剣を教えて」
「え?」
「強くなりたいんだ」
「そう。でもね、まだあなたには早いわ」
 と、小袖は言った。「今は、お母さんのそばについてて、守ってあげるのよ」
「おい、駕籠だ」
 と、次郎吉が戻ってきて、「どうしたんだ?何でまげがあちこちに落ちてる?」

 例えばこんな感じにポンポンと会話だけが進んでいきます。そのほとんどは誰が発したのかの説明もありません。なので会話の流れを頭からしっかりと追いかけていかないと、あっという間に話の流れを見失ってしまいます。そう、字面を眼で追いかけるだけで聞き流してはいけないのです。しっかりと彼ら、彼女らの会話に聞き耳を立てていなくては。

 このほとんど会話だけでストーリーが進んでいく独特の文体は、読んでいて新鮮でとても面白いものです。なのにその背後にはしっかりと江戸の街の風情が感じられ、事件の展開も謎解きもオチも、楽しめるのです。これは本当に他にはない種類の時代小説です。

 それは自分の想像力が試されているようでもあります。読んでいるうちに自分の頭の中に自然に「鼠のいる江戸の街」というのが浮かび上がるわけで、その空想の世界を途切れなく、リアルに、矛盾無くしっかり思い浮かべることは、この軽妙な物語をテンポ良く飲み込んでいくのに、重要な役割を果たしているはずですから。

 そういう意味では、先日までやっていたNHKのドラマをチラッとでも見てしまったのは失敗だったかも。いや、映像化の出来がどうとか、イメージが違うとかではなく、自分の中にできた映像が一部上書きされてしまった、という意味で。そのせいか、こんなに薄くて文字数の少ない本なのに、やや読み下すのに苦労しました。それでもわずかな通勤時間中だけでも1日半で読み終えてしまいましたが。本当なら1日(1時間程度)で読み終わると思います。

 と言うことで、頭の中に自分自身で映像を思い浮かべながら、次郎吉や小袖たちの会話を飲み込んでいくという読書スタイルは、電子書籍で読みながら、ポンポンとページをめくっていくのに合っているような気がします。今後このシリーズはKindleアプリで読んでいこうと思います。

 【お気に入り度:★★★★☆】